暗号資産のレンディングレートはどう決まる?「金利」が誕生すると何が起きる?
弊社FXcoinでは4月30日からレンディングサービスを開始します。「レンディング」とは「貸す」という意味で、暗号資産を交換所に「預ける」のではなく「貸す」ことにより貸借料(以下「利息」)を受け取る取引を指します。
交換所で暗号資産を購入して「預ける」場合は、交換所の財産と分別管理をされて守られているのですが、利息は生まれません。これに対し「貸す」場合は、分別管理の対象から外れますが、その分、交換所が様々な方法で運用することで、貸し手は利息を受け取れる点が異なります。
通常は、レンディング期間中のキャンセルは認められないので、トレーディングとして保有する投資家にとっては売買機会を失うことになりますが、ガチホする投資家であれば、値上がりによるキャピタルゲインだけでなく、インカムゲインも狙えることになります。
金利の概念が広まる
このレンディングサービスは以前からPoloniexなど海外の交換所やFinTech企業から提供されていましたが、注目を集めるようになったきっかけの一つが、2020年1月にBlockFiがUSDCなどに8.6%の高利回りを提供したことでしょう。その頃から国内でも同サービスを開始する交換所が増えてきました。
また、2020年のDeFiブームも暗号資産を運用して収益を得ることを広めたかもしれません。従来は、暗号資産は金などと同じように持っていても何も生み出さないと考えられていたのですが、大げさに言えば、今まで暗号資産市場であまり意識されてこなかった「金利」という概念が2020年に広まったと言えるかもしれません。
法定通貨の金利の決まり方
では、その暗号資産市場における「金利」とはどうやって決まっているのでしょうか。これえを知るために、少し遠回りをして、法定通貨の金利はどうやって決まっているのか話したいと思います。
法定通貨の金利の決まり方には2種類(それ以上)の考え方があります。ひとつは、供給サイドから見た考え方がです。法定通貨は通常、中央銀行によって発行されます。
中央銀行の大きな役割のひとつは、この通貨の価値を維持することで、ターゲットとするインフレ率を達成するために通貨供給量や短期金利を操作します。この短期金利を政策金利と言って、その国の金利の源となります。
あとは、それに期間やクレジットなど様々なリスクプレミアムが加えられて、様々な取引の金利が決められていくわけです。
レンディング市場の金利の決まり方
もうひとつ、需要サイドから見た考え方があります。企業などが資金を借入れる際に支払う利息を、資本コストもしくは負債コストと呼びますが、企業は、そのコストを上回るリターンを得られると思うからこそ資金を調達します。
自らの収益力を上回ると思えば借入を見送るので、金利水準は企業の稼ぐ力にも左右される訳です。暗号資産市場においては、前者の様な中央銀行や政策金利が存在しませんので、後者である借り手の稼ぐ力に左右されやすい構造になっています。
暗号資産の場合は、資金の借り手が各国の規制などを睨みながら可能な運用利回りからレンディング金利を決めているというのが実情でしょう。
Grayscaleプレミアムの消滅
こうして暗号資産市場に金利が普及すると、続いて起こることのひとつに金融市場の歪みの是正が挙げられます。代表的な例がGrayscaleのプレミアムです。
同社の機関投資家向けのビットコイン投資ファンド“Grayscale BitcoinTrust”の株式がOTC市場が取引されているのですが、ファンドが実際に保有している1株当たりのビットコイン価格よりも高い価格で取引されていました。これを、Grayscaleプレミアムといい、直接ビットコインを保有することが難しい機関投資家の需要の表れとする見方もありました。
これに対し、レンディングで調達したビットコインを対価にこのファンドの新規募集に参加し、据え置き期間終了後にOTC市場でファンド株を売却し、現物市場でビットコインを買い戻せば価格差が手元に残ります。Grayscale以外のビットコイン以に対する外の暗号資産が代替投資手段が増えてきた影響も加わって、このプレミアムはマイナスに転じています。
為替市場と商品市場の違い
また金利の概念が広まれば、先物市場においても価格の適正化がも進むでしょう。
為替市場、特にドル円のような非常に効率化された市場では、先物価格は通貨間の金利差によって決まります。これに歪みが出ると裁定取引が行われるからです。一方で、金や原油と言った商品市場ではそう簡単にはいきません。例えば、現物価格より先物価格が高い場合、現物を買って、先物を売って、先物の決済期日に現物を受け渡せば差額が受け取れます。
しかし、原油の現物を受け取って、先物の決済日に受け渡すためには、タンカーなどを借りてきて原油を受け取って保管しなければならず、運搬費用と保管費用がかかります。原油の代表的指標であるWTIなどは受渡場所が内陸であるため、この方法が取れず、価格がマイナスになるといった事態も発生しました。
商品市場では運搬コストと保管コストを上回る価格の歪が生じない限り裁定取引が発生せず、その結果、参加者の先高観や先安感で先物価格が決まる訳です。
ビットコインは為替と商品の中間
では、ビットコインの先物価格の場合はどうでしょう。ビットコインの場合、運搬コストは、マイナーに払う報酬くらいなので限りなくゼロに近いと言えます。
しかし、保管コストはどうでしょうか。機関投資家ならカストディを利用するケースが多くなるでしょうが、その場合、ある程度の保管コストが発生します。
そう考えると、ビットコインの先物価格は、ほぼ金利差で決まる為替市場と、運搬費用や保管費用がかかるため金利裁定が効きにくいコモデティ市場との中間くらいの位置づけになりそうです(因みにビットコインの先物取引と言っても現物でのデリバリーできる取引は限られていますが、CMEの先物では、最終的な決済に現物価格を参照しています)。
また、足元の先物価格は、市場の先高観を反映して先に行くほど価格が高くなるコンタンゴ(為替で言うプレミアム)になっていますが、法定通貨がゼロ金利で、ビットコインのレンディングに利息が付くのであれば、理屈の上では先に行くほど価格が低くなるバックワーデ―ション(同ディスカウント)になるのが自然です。CMEの先物プレミアムが他の交換所の先物プレミアムより小さいのは、そうした裁定が働いていることを示していると思います。
SWAP市場創設へ
最後に、暗号資産に金利が誕生すると、上記の様に先物価格が適正化され、弊社が進めているSWAP市場創設に繋がると考えます。価格変動が激しい暗号資産による実需取引が普及するには、為替で言う先物予約の様なヘッジ手段が必要で、そのためには、SWAP市場が不可欠です。
レンディングによる金利市場の拡大は、その一里塚となるでしょう。金融機関出身者を中心に設立したFXcoinでは、今後もこうした金融の視点から暗号資産市場に欠けているものを提供して参ります。