CoinPostで今最も読まれています

音楽アルバムをNFT化する際の法的論点とは|Gamma Law寄稿

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

ジェイ・Z氏の事例から得られる教訓

ラッパーのジェイ・Z氏とレコード会社代表のデイモン・ダッシュ氏との訴訟は、伝統的な考えが残る音楽業界と最新テクノロジーが絡み合ったもので、パフォーマー、プロモーター、開発者など、芸術の世界に携わる全ての人に教訓を与えています。

ロッカフェラ・レコード社を設立した3分の2のブレイントラストの間で、NFT(非代替性トークン)の所有権と規制問題を中心に意見の相違が生じたことで、NFT関連の諸問題が次々と明らかになっています。この記事では、この訴訟で裁判所に提出されると考えられる法的問題と、この訴訟が与えるゲーム開発者をはじめとする新興技術企業への潜在的影響について考察します。

背景

1996年、ジェイ・Z氏はデイモン・ダッシュ氏とともにデビューアルバムCD「Reasonable Doubt」を販売しました。2021年6月には、ダッシュ氏はこのアルバムをNFTとして販売するオークションを開始しました。

ジェイ・Z氏の所属するロッカフェラ・レコード社は、ダッシュ氏がこのアルバムの著作権をNFTとしてオークションに出品するのを阻止するために、同氏を訴えました。ロッカフェラ・レコード社の主張は、アルバムの著作権はジェイ・Z氏が独占的に保有しており、ダッシュ氏がレコード会社の3分の1の株式を保有していても、ダッシュ氏にはアルバムを販売する法的権利はないというものでした。

一方、ダッシュ氏は、「Reasonable Doubt」の持分を売却するつもりはなく、アルバムやロッカフェラ社の自分の所有権を反映してNFTをミントしたこともないと主張しました。

米国地方裁判所のジョン・クローナン判事は、ダッシュ氏がアルバムをNFTとして販売することを一時的に禁止する差し止め令を出しました。ダッシュ氏と彼の弁護士はヒアリングに出頭しなかったことから、訴訟は継続され、裁判所はNFTに関する周辺の法的問題で判断することになりそうです。

引用:SCRIBD

このような状況を踏まえ、本記事では、裁判所で提起される可能性のある法的問題と、それが新興技術企業にとってどのような意味を持つのかを考察したいと思います。

法的問題

これらは、ジェイ・Z氏とデイモン・ダッシュ氏間の訴訟において、法廷で争点となると予想される法的問題です。

所有権

ロッカフェラ・レコード社の主張は、ダッシュ氏は3分の1の同社株式を保有しているものの、アルバム自体を所有しているのは同社であり、ダッシュ氏にはNFTを販売する法的権利はないというものです。法廷で争われる可能性が高い主な問題は、アルバムをNFTに変換する権利を誰が所有しているかということです。

著作権所有者のみが既存の作品からNFTを作成することができるのか、それとも既存の作品のNFTを作成する権利を第三者に譲渡することができるのでしょうか。現在のところ、これらの問題について明確な答えはありません。

いずれにせよ本件は、誰が既存の著作物からNFTを作成することができるかを決定する際の複雑な問題の注意喚起となっています。また、著作権を第三者に譲渡またはライセンシングする前の、著作権登録の重要性と、確実なライセンス契約の必要性を浮き彫りにしています。

配布

NFTは、原作品の所有者の同意がある場合に限り、合法的に作成、または「ミント」することができます。NFTをミントするためには、NFTを生成するソフトウェアがコンテンツファイルをコピーする必要があります。知的財産権の所有者の同意を得ずにこれを行うと、著作権侵害となります。

法廷で議論される可能性の高い基本的な問題は、著作権所有者の許諾なしにNFTが作成されたか、また、NFTの再販も著作権侵害となるのかということです。このような販売が、偽造書籍や楽曲の再販と似ていると考えられる場合、第三者によるNFTの使用や配布をめぐる合法性については明確になりません。

ビデオゲーム会社は、プレイヤーにデジタル収集品や仮想ゲーム内アイテムを提供することが多いことから、この法的事項はジェイ・Z氏とデイモン・ダッシュ氏間のトラブルにとどまらず、ビデオゲーム会社にとっても重要な問題となります。

ビデオゲーム会社は、透明性を確保するために、デジタル収集品や仮想ゲーム内アイテムを個々の「代替不可能な」NFTとして定義するようになりました。したがって、ビデオゲーム会社、AR/VR企業、デジタル音楽制作者、レコード会社は、デジタル資産をNFTに変換する権利を所有しているかを確認する必要があります。

販売権

もう一つの法廷で提起されるであろう重要問題は「NFTを販売する権利を持っているのは誰か」ということです。

ロッカフェラ・レコード社は、ジェイ・Z氏のデビューアルバムである「Reasonable Doubt」の著作権を保有しているため、NFTを販売する権利を有していると主張する可能性が高いでしょう。SuperFarmでの最初のオークションは中止されましたが、ロッカフェラ・レコード社は、クロナン判事が一時的な禁止令を出したにもかかわらず、デイモン・ダッシュ氏が再びNFTを販売しようとすることを懸念していました。

この案件は、著作権問題についてタイムリーなアドバイスを受けることの重要性を再認識させるものです。特に、販売権に関する契約書を作成する際には、専門的なリーガル・アシスタンスを求めるべきであることを示しています。

証券規制

裁判所は、NFTが有価証券であるか否か、そうであるとすれば米国証券取引委員会(SEC)の規制対象となるかどうかも判断しなければならないでしょう。

ブローカーディーラーであるArkonis Capital LLCによると、NFTは非常に大きな潜在的価値を持っているものの、伝統的な証券としての機能を持たず、既存の法的枠組みに明確に適合しないといいます。しかしながら、NFT発行側が自分たちのトークンを有価証券のように見せたり、そのように扱ったりすれば、SECがその動きに関心を示すかもしれません。

これは、NFTが株式のように物品の所有権が分割されて複数の人に所有される場合や、その後の販売で収益分配される場合に実現する可能性があります。したがって、NFTの財務上の分類や、1934年証券取引所法の下でNFTが有価証券と見なされるかどうかについて、裁判所が検討する可能性もあります。

著作権の譲渡とライセンシング

一部のコメンテーターは、NFTの購入は単に所有権をある人から別の人に移すことであり、著作権の譲渡やライセンシングは行われないと主張しています。

一方で、NFTの購入は著作権を譲渡する形態のひとつであると主張する者もいます。この見解によると、原作となる知的財産の所有者が明示的に提供しない限り、NFTを購入しても、購入者にオリジナル作品の所有権が付与されることにはならないという問題があります。

しかしながら、デジタルアートの著作権侵害に関する判例はほとんどないため、NFT関連の著作権譲渡やライセンシングについては明確になっていないのが現状です。いずれにしても、NFTの売買には、特に契約書の作成と解釈に関して、いくつかのグレーゾーンが存在します。著作権ライセンスの複雑さを考慮すると、NFTを売買する前に、十分な資格を有する弁護士から法的アドバイスを受けるべきでしょう。

結論

今回のジェイ・Z氏 とダッシュ氏の間の訴訟は、これまで司法審査の対象となっていなかったNFT関連の法的問題のパンドラの箱を開けることになりました。

現在のところ、NFTの規制方法については明確な判決や指示がないため、今後のNFT関連のさらなる訴訟が予想されます。

また、この訴訟はNFTの購入者と販売者の双方が、販売物を正確に把握するよう警鐘を鳴らすだけではなく、デジタルアートがNFTとしてミントされるまでのあらゆる段階において、専門家による法的アドバイスが重要であることも強調しています。

寄稿者:David Hoppe(デイビット・ホッピ)David Hoppe(デイビット・ホッピ)
Gamma Law(ガンマ法律事務所)代表。デジタル・メディア、ビデオゲームとバーチャル・リアリティーを専門分野とし、最先端のメディア、テクノロジー関係の企業を、25年近くクライアントとしてきました。彼は、洗練さと国際的な視点を兼ね備え、スタートアップ業界、新興企業、またグローバル化使用とする企業の現実を、実践経験から理解する国際的な取引交渉弁護士です。
CoinPost App DL
注目・速報 相場分析 動画解説 新着一覧
10/27 日曜日
13:00
今週の主要仮想通貨材料まとめ、アバランチのVisaカード発行やAI系ミームコインGOATの高騰など
仮想通貨市場の1週間の動きをまとめ、ビットコイン、イーサリアム、XRP、アバランチなど時価総額上位の仮想通貨の最新の材料を紹介。米国著名投資家の発言やマイクロソフトのビットコイン投資検討など、重要なトピックスも取り上げた。
11:30
心理的節目の上抜けに成功すれば、ショートカバー伴い最高値を試しにいく展開も視野|bitbankアナリスト寄稿
bitbankアナリストが1000万円台前半で底堅い推移となるビットコイン(BTC)相場を分析。今週の相場失速で失望するのは時期尚早だと言及し、今後の展望を解説した。
11:00
週刊仮想通貨ニュース|DOGE時価総額3兆円突破に高い関心
今週は、ドージコインの時価総額3兆円突破、米政府のウォレットから30億円相当の仮想通貨が不正流出した可能性、マイクロソフトのビットコインへの投資評価に関するニュースが最も関心を集めた。
10/26 土曜日
14:00
「ビットコイン現物ETF、個人投資家が需要の8割を占める」バイナンスが報告
バイナンスがビットコインの流通量4.5%を現物ETFが保有していると指摘。個人投資家主導の需要拡大と機関投資家の緩やかな参入を分析している。
11:55
リップル社、仮想通貨XRPめぐる対SEC控訴裁判で4つの論点を提出
リップル社がSECとの裁判で控訴審に向けた陳述書を提出。ハウィーテストの適用など4つの重要論点を提示している。
07:20
マイクロストラテジー、24年ぶりの高値 ビットコイン強制売却の可能性は「極めて低い」 BitMEXが分析
BitMEX Researchのアナリストは、マイクロストラテジーが現在の債務構造に基づいて保有しているビットコインを強制的に売却する可能性は「極めて低い」と主張した。
06:35
ハッカー、米政府の仮想通貨ウォレットに大部分の流出資金を返還
米政府の仮想通貨ウォレットから流出した約30億円相当の資金のほとんどが、24時間以内に返還されたことが観測された。
06:15
テザーCEO、米政府捜査の報道を否定
ステーブルコイン発行企業テザーのパオロ・アルドイーノCEOは26日、米国の連邦検察当局が同社を調査しているとのWSJ報道内容を否定した。
10/25 金曜日
18:05
AIエージェントと仮想通貨の融合 コインベースが描く未来像
米コインベース・ベンチャーズは、人工知能(AI)とブロックチェーン技術の新たな融合がデジタル経済を変革すると主張。Web3上で、自律型AIエージェントが人間と自由にやりとりする世界「エージェントWeb」が誕生する未来のビジョンを描いた。
13:28
国内における「暗号資産ETF」実現に向け、 ビットバンクが勉強会の総意として提言公表
暗号資産(仮想通貨)bitbankを運営するビットバンクは、証券会社や資産運用業者、信託銀行等と共同で行う「国内暗号資産ETF」勉強会への参加とともに、参加メンバー一同として日本における暗号資産ETFの実現に向けた提言を発表した。
11:40
個人マイナーが再びビットコインブロック採掘に成功、3200万円相当の報酬獲得
仮想通貨ビットコインのソロ個人マイナーが再び大きな報酬を獲得したことが判明した。9月に続く事例である。
10:45
1995年公開「攻殻機動隊」のNFT、アニモカブランズジャパンから発売へ
今回は第一弾で、1995年に公開された押井守監督作品『攻殻機動隊』をフィーチャーしている。このNFTコレクションでは、作中に登場するキャラクターのパーツを、Mocaverse、CoolCats、San FranTokyoのPFP専用Traitsとしてそれぞれ描き下ろした世界に1つだけの作品となっている。
09:35
米国ビットコイン現物ETF、約100万BTCの保有でサトシ・ナカモトに迫る
米国ビットコイン現物ETFの保有BTCが98.5万枚を突破。サトシ・ナカモトの推定110万枚に接近している。
07:50
マイクロソフト、12月株主総会で「ビットコインへの投資評価」を議決権行使項目に設定
米IT大手マイクロソフトは12月上旬に予定されている2024年の年次株主総会に向けて、「仮想通貨ビットコインへの投資の評価」を議決項目の1つとして設定した。マイクロストラテジーのようにビットコイン保有企業になるか。
07:20
取引所らの企業、日本の仮想通貨ETF誕生に向け提言作成
日本で仮想通貨ETFが承認されることを目指し、取引所や法律事務所らが税制改正などを含め提言を作成した。対象銘柄をビットコインとイーサリアムに絞ることも提案している。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア
イベント情報
一覧
2024/12/01 09:30 ~ 20:00
東京 墨田区文花1丁目18−13
重要指標
一覧
新着指標
一覧