イーサリアムとコミュニティ形成
イーサリアム財団のエグゼクティブ・ディレクターを務める宮口あや氏と、株式会社デジタルガレージの共同創業者である伊藤穰一氏の対談イベントが18日に東京で開催された。
Web3の重要なテーマとなる「コミュニティ形成」について理解を深めるため、暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)のエコシステムの拡大を間近で経験した宮口氏と、1980年のWebの初期から数々の重要プロジェクトやオープンソースコミュニティ、TwitterやLinkedInの日本進出などに携わった伊藤穰一氏が意見を交わした。
両者に共通していたのは、「カルチャー」をプロジェクトの土台として重要視していること。伊藤穰一氏によると、「文化は変えづらい反面、その上のレイヤーに大きな影響を与える可能性がある」要素だと語る。
「Ethereum is cordination of people“人間のコーディネーションの新しいプロトコル”」というイーサリアムのポリシーを挙げて、多くの人や企業が参入する中で美学を維持していくことが重要だと伊藤氏は加えた。
イーサリアム財団は、2014年の設立時にイーサリアムの創設チームとほぼイコールだったが、宮口氏が加入した2018年初頭には既に多くの人々が加入して組織文化が薄れていたという。
そのため宮口氏は、ヴィタリック・ブテリン氏を初めとするイーサリアムの創業メンバーの考えやビジョンの言語化に務め、プロジェクトとしての理念をステークホルダーに伝え続けてきた。先ほどのフレーズは、その時に絞り出したものだ。
ウェブ創世記との共通点
イーサリアム財団の重要なミッションは、エコシステム拡大にフォーカスしているプロジェクトをサポートすることと宮口氏。チェーンで最大のDEX(分散型取引所)「Uniswap(ユニスワップ)」も初期にグラント(助成金)を提供した。
誰でも参加可能なイーサリアムのReaearchフォーラムが中心的な媒介となっており、ここで提案した日本人に声がかかったケースもあったという。ゼロ知識証明のリサーチチーム「0xParc」や、革新的な資金調達方法「Quadratic Funding」を提唱するCLRsといった優秀なチーム、SoulboundのようなNFTの活用アイデアが自然発生的に生まれてきた。
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チームがVCを入れず非営利で立ち上がることで、エコシステム内で協力しやすい利点もあると宮口氏は加えた。
1980年代のウェブ創世記においても、学会や民間ボランティアが主導する非営利団体の動きは国や企業よりも先に立ち、現在のウェブの基本レイヤー(HTTPやTCP/IP、Ethernetなど)を形成する上で重要な役割を担ったと伊藤氏は語る。
しかし、ブロックチェーンはプロトコル自体が資本を集めるため、スピード感が当時とは全く異なるという。既に大勢の人や企業が入ってきてストレスを与え、当初のカルチャーが歪む恐れがあるだけに、イーサリアム財団のポジションが重要になると伊藤氏は指摘した。
日本とWeb3
2人は共通して「金儲けではない、プロダクトを作ることが重要」と口にする。Web3(分散型ウェブ)を使って何かコミュニティを作りたいのならば「自分は何がやりたいか」を自問してみることが重要だと伊藤氏は話す。複雑そうに見える技術も、何かを作りたいというパッションがあれば自然に身につくとした。
現在のインターネットサービスに比べて難しそうに見えるのは、分散型のビジョンを形にする過渡期だから当然のこと。それでも最初に比べたらだいぶ便利になっている。まずはお金を入れるよりも、いまのうちに作って実験して見ることが重要と宮口氏は語った。
これまで新興技術に触れた事のない芸術家や各種士業、製造業の生産者などの非エンジニアが入ってきて、エンジニアと協力することで、考えもしないサービスが生まれてくると、インターネットの歴史になぞられて伊藤氏は語る。
海外とは違い、日本はさほど短期的な資金が集まっていない分、Web3の開発に取り組むチャンスがあるという。「集落存亡」をかけてNFT(非代替性トークン)で財源確保に乗り出した新潟県の旧山古志村のような事例から、未来の成功プロジェクトが出てくると語った。
宮口氏はまた、自身のプレゼンテーションで、多様性を重視するイーサリアムのエコシステムが「Infinite Garden」であると説明している。そこではゲーム(競争)を終わらせる「勝者」が存在せず、誰もがゲームを続けるためにオープンに意見を出し合い、誰かを排除することもないという。
こうした理念は、月間平均で約2,300人のイーサリアム開発者が活動し、過去3年間で215%の成長(21年4月時点)を遂げたというDecryptのレポートにも現れているようだ。イーサリアムのコミュニティ・エコシステム形成の詳細について興味のある方は、ブロックチェーン戦略政策研究所BSPIのYoutubeチャネルで、本対談のアーカイブ動画を見てほしい。