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CBDCの実証実験に取り組む中央銀行は世界的に増加=日銀レポート

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

進展するCBDCプロジェクト

日本銀行は9日、「分散型台帳技術を活用した決済の改善の取り組み」と題したレポートを発表。各国の中央銀行によるホールセール型CBDC(以下、wCBDCと表記)の実証実験を中心に、ホールセール決済領域の改善に関する様々な取り組みを紹介した。

レポートでは、wCBDCの実証実験に取り組む中央銀行が増加している背景として、次の三点を挙げた。

  1. 国際間決済の効率化など、既存インフラが抱える課題に対する意識の高まり
  2. 分散型台帳技術(DLT)の可能性に注目:決済システムの性能向上や機能拡張
  3. 民間企業によるDLTを活用した新たな決済サービスの台頭:JP モルガンチェース銀行によるJPM Coinなど

このような背景のもと、様々な国の中央銀行がwCBDCの実証実験に取り組んでいる。

それぞれのプロジェクトで実証実験が行われた時期は異なるが、多くのプロジェクトが国内の資金決済や証券決済に関する実験を完了しており、2019年以降は実験の対象はクロスボーダー資金決済の領域にも広がったという。さらに一部の中央銀行では、クロスボーダー証券決済に関する実証実験も行われている。

CBDCとは

「Central Bank Digital Currency」の略称で、各国・地域の中央銀行が発行するデジタル化された法定通貨を指す。送金コストの削減や効率性向上などが期待できる反面、個人情報やプライバシーの保護、セキュリティ対策、金融システムへの影響など考慮すべき課題も多い。

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国内の決済

国内の資金決済に関する実験では以下のメリットとリスクが指摘された。

メリット

  • DLT基盤で既存の資金決済インフラの諸機能を再現可能
  • システムの耐障害性や信頼性が高められる可能性
  • 既存システムの稼働時間に左右されない即時決済が可能

リスク

  • 中央銀行当座預金システムとDLT基盤とで流動性が分断される可能性

2018年頃からは、国内の証券DvP決済(Delivery versus Payment, 証券と資金の同時受け渡し)に関する実証実験が開始された。

メリットとしては、決済に係る所要時間の短縮やポストトレーディング事務の簡略化などが確認される一方、既存の証券決済の業務フローの変更や法的・制度的な検討が必要となると指摘された。

レポートは近年の実証実験の傾向として、DLT基盤上で資金と交換される資産が、国債などの一般的な証券から多様な証券に、さらに証券以外の資産にも広がってきていると指摘。フランス銀行の実証実験で、国債、社債・CP、上場・非上場株式、MMF、国際機関債に加え、投資ファンドも対象になった例を挙げた。

クロスボーダー決済

クロスボーダー(国際間)の資金決済に関する実証実験では、プロジェクトによって複数の法域の決済システムをつなぐ「複数基盤型」(アトミックスワップなど異なる基盤を同期する技術を用いる)、または複数の法域にまたがって単一の決済システムを使う「単一基盤型」のいずれかの決済方式が採用されている。

アトミックスワップとは

アトミックスワップとは、取引所など第三者の仲介なしで仮想通貨取引を行う事が可能になる仕組みのこと

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複数基盤型の実験としては、それぞれ異なるDLT基盤上に発行されたシンガポールドルとカナダドルの決済の例や、米ニューヨーク連邦銀行のProject Cedarが、複数の台帳にまたがる外国為替取引の決済を平均10秒以内に終えた例などを紹介した。

単一基盤型方式では、異なる法域で決済システムの技術基盤や規則・ガバナンス方法等を共通化し、単一のDLT基盤上に双方の中央銀行がそれぞれの通貨建てのwCBDC を発行して、クロスボーダー資金決済を行う。

例としてはタイ、香港、中国 、アラブ首長国連邦の四法域が参加したProject mCBDC Bridgeがあり、実験的に発行されたwCBDCで31.3億円(2,200 万ドル)相当のクロスボーダー資金決済が行われた。

また、タイと香港の単一基盤型の実験では、クロスボーダー資金決済の所要時間の大幅な短縮(3〜5日から2〜10秒へ)と50%の送金コスト削減が確認されたという。

既存の決済システムの更改

レポートでは、分散型台帳技術(DLT)を基盤とするwCBDCは「将来のホールセール決済を構成する可能性がある1つの要素」にすぎないとして、既存の決済システムを更改する取り組みについても紹介した。

英イングランド銀行(BOE)は、中央銀行当座預金と多様な資産のアトミックな交換を可能にするシンクロナイゼーション機能の実装を目指している。シンクロナイゼーション・オペレーター(SO)と呼ばれる機関が、BOEと資産台帳管理者に対して、資金と資産の確保や移転を指示することで、同時の受渡を実現する仕組みだという。

BOEは、シンクロナイゼーション機能の主なユースケースとしてクロスボーダー資金決済や住宅取引を挙げている。

また、クロスボーダー決済の高度化プロジェクトには、国際決済銀行(BIS)のイノベーションハブ(BISIH)が2021年7月に発表したProject Nexusがあり、現在テストフェーズに入っている。

日銀と欧州中銀の共同プロジェクト

日本銀行は2016年12月に、欧州中央銀行と共にDLTの金融市場インフラへの応用可能性に関する共同調査プロジェクト「プロジェクト・ステラ」を立ち上げた。

今回のレポートでは同プロジェクトの概要が簡略にまとめられている。これまでにフェーズ1の資金決済(2017年)、フェーズ2の証券決済(2018年)、フェーズ3のクロスボーダー資金決済(2019年)、そしてフェーズ4の「取引情報の秘匿と管理」(2020年)に関する報告書が公表されおり、主な結果が紹介された。

関連:日銀「プロジェクト・ステラ」、分散型台帳技術に係る最新の調査報告書を公開

日銀独自のCBDCの実証実験は、今年4月からフェーズ2へ移行している。

フェーズ2では、フェーズ1で構築した実験環境に新たなCBDCの周辺機能を付け加え、決済の利便性向上や、経済的な設計、仲介機関間・外部システムとの連携などについて、検証していく予定だという。

関連:日本銀行、CBDCの実証実験「フェーズ2」開始

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