仮想通貨への監督強化を提案
欧州中央銀行(ECB)監督理事会のエリザベス・マッコール理事は5日、暗号資産(仮想通貨)セクターの活動には、より良い監督体制が必要とのブログ記事を発表した。
マッコール氏は、背景として、昨年のスリーアローズキャピタル(3AC)やFTXの破綻、さらにシルバーゲート銀行やシグネチャー銀行など仮想通貨業界にサービスを提供していた銀行の閉鎖などに言及した。
まだ仮想通貨セクターと伝統的な金融機関のつながりはごくわずかであるとしつつ、仮想通貨エコシステム内では企業間の相互接続性が高いため、連鎖倒産が見られたことや、仮想通貨セクターの規模は急速に拡大しているため、将来的には世界の金融の安定性に影響を与える可能性があると指摘している。
現状と今後の課題
マッコール氏は、仮想通貨の規制が近年、大幅に進展しているところだとも述べた。具体的には、国際決済銀行(BIS)およびバーゼル銀行監督委員会(BCBS)が22年12月、銀行が保有できる仮想通貨を準備金の2%までとする方針を示したことがある。
次のステップとしては、このように示された基準を、欧州連合および他のバーゼル規制対象となる国や地域が、2025年1月1日までに法律に取り入れることが重要だとした。
バーゼル銀行監督委員会とは
主要10カ国(G10)中央銀行総裁会議により創設された国際的な金融ルール策定機関。日本、米国、EUなど様々な国と地域の金融当局から成り、スイスのバーゼルに事務局を置いている。
▶️仮想通貨用語集
さらに、欧州による包括的な仮想通貨規制として、現在制定中のMiCAを挙げた。MiCAは「Market in Crypto Assets」の略で、EUが2020年9月に発表した包括的な仮想通貨規制案。ステーブルコインやその他のデジタル資産取引の規制に重点を置いており、ライセンス制度や消費者保護要件なども定めている。
マッコール氏は、MiCAは、顧客資金の分別管理や外部監査の要件といったガバナンス原則などを規定するもので、顧客資金を不正流用していたことが発覚したFTXのような事例を防ぐための内容を盛り込んでいると指摘した。
一方で、MiCAには補わなければならない部分もあると続けている。例えば、MiCAではユーザー数が1,300万人を超えている仮想通貨プラットフォームを重要な暗号資産プロバイダーとして規制するが、FTXの場合、この閾値を超えていなかった。
また、世界で2,900万人ほどのアクティブユーザーを抱えるとされる最大手仮想通貨取引所バイナンスも、欧州ユーザーだけ見れば閾値には届かない。
そこで、マッコール氏は、ユーザー数だけではなく取引高やカストディ事業者の預かり資産額などを考慮することも検討し、こうした数字は、ある企業グループ全体のレベルで測定すべきだと意見している。
大規模で複雑な構造を持つ仮想通貨企業の場合は、「伝統的な金融における投資会社の活動と同等のものを行っていることが多い」とも指摘。こうした活動に内在するリスクに対応した、適切なライセンス制度が必要だと論じた。
例えば、FTXについては、垂直に統合した様々な事業からなるグループ全体や、世界の複数地域に渡るグローバルな活動に対する包括的な監視が行われていなかったとしている。
さらに、バイナンスのように本社がないと主張する企業であっても、監督可能である必要があるとも続けた。この点で、どの地域でも、ある仮想通貨企業が、その法的地位や事業の責任者を開示することなく運営することを認めるべきでないとする。
バイナンスの規制対応
バイナンスについては特に2021年、日本の金融庁を始めとして、英金融行動監視機構(FCA)や香港証券取引委員会(SFC)など様々な地域の当局から、登録なしで居住者にサービスを提供しているとして警告を受けていた。
現在は、これを受けて、規制遵守するために各地域の法人がライセンス取得を進めているところだ。本社をどこに置くかも検討中であるとされる。
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