北朝鮮ハッカー集団も使用か
米司法当局は23日、暗号資産(仮想通貨)ミキシングサービス「トルネードキャッシュ」の共同創設者二人を、マネーロンダリング、制裁違反、及び無認可の送金業運営を共謀した容疑で起訴したと発表した。
起訴されたのは、トルネードキャッシュの三人の創設者のうち、ローマン・ストーム氏とローマン・セミョーノフ氏の二人で、米ワシントン州在住のストーム氏は逮捕されたが、セミョーノフ氏(ロシア国籍)は現在逃亡中だという。
司法省は、トルネードキャッシュが 約1,450億円(10億ドル)を上回る資金洗浄を手助けしており、その中には米国政府の制裁対象となっている北朝鮮のサイバー犯罪集団「ラザルス」 の数億ドルも含まれていると指摘した。
トルネードキャッシュは、イーサリアムチェーン上で動作し、取引を匿名化するミキシングサービス。2019年の創設以来、ハッキング等により盗まれた仮想通貨の追跡を困難にし、多数の犯罪者の資金洗浄に利用されてきた経緯がある。
米財務省の外国資産管理局(OFAC)は司法省による起訴と同日、セミョーノフ氏に対し、トルネードキャッシュおよびラザラスに「物理的支援を提供する役割を果たした」として、制裁を科すと発表。OFACは昨年11月、ラザルスにミキシングサービスを提供したとして、北朝鮮関連でトルネードキャッシュを制裁対象に指定していた(一般的な制裁指定は8月)。
マネロンを故意に促進
司法省は、両被告がハッキングをはじめとするサイバー犯罪の被害者から苦情や救援要請を受けていながら、有効な対策を講じることなくマネロン取引を促進し続けたと指摘した。
2022年4月と5月に発生したラザルスグループによる数億ドルのハッキングで、トルネードキャッシュが収益の洗浄に利用されたとみられているが、両被告は同サービスが制裁違反である取引に利用されたことを知っていながら、一貫してその証拠を無視または軽視して運営を続けたと当局は主張している。
ダミアン・ウィリアムズ連邦検事は声明で、両被告は公には「技術的に洗練されたプライバシーサービスを提供している」と主張していたが、実際にはハッカーや詐欺師による「犯罪の成果」の隠蔽を手助けしていることを熟知していたと非難した。
起訴状によると、ストーム氏とセミョーノフ氏は犯罪収益の洗浄に使用されていることを承知していたにもかかわらず、マネロン対策機能を導入せず、むしろ、より大量の取引処理による利益を得られるよう、匿名性を高める措置を講じたという。
もう一人の創設者
トルネード・キャッシュの三人目の共同創設者である、アレクセイ・ペルツェフ氏は、2022年8月、オランダでマネロンを助長した容疑で逮捕され、現在公判を待っている状況だ。
関連: オランダの捜査機関、Tornado Cash関与の開発者を逮捕 業界の反応は
ソフト開発への影響
昨年9月、仮想通貨の投資家グループは、財務省によるトルネードキャッシュの制裁は権限を逸脱したものとして同省に対し訴訟を起こした。当時、この制裁は人間に対してではなく、ツールに対するものであり、米国人のプライバシーソフトの利用を制限する可能性があるとして、仮想通貨業界が反発していた。
関連: 米財務省、仮想通貨ミキシング「Tornado Cash」を制裁対象に指定
8月17日、この訴訟で連邦地方判事は財務省の判断を支持する判決を下し、今回の司法省による起訴と財務省による制裁指定に繋がったとみられる。
ストーム氏の弁護人であるブライアン・クライン氏は、ソフトウェアの開発に協力したという理由で司法当局が起訴に踏み切ったのは、「斬新な法理論」に基づいたものであり、今後、すべてのソフトウェア開発者にとって危惧される意味合いを持つと語った。