
株式会社HashPortと一般社団法人WebX実行委員会が主催するWeb3をテーマにしたイベント「HashPort・WebX Round Table」が2025年3月5日に開催された。
その中で「日本のWeb3の過去・現在・未来」と題したパネルディスカッションが行われた。モデレーターを務めたのはCoin Desk Japanを運営するN AvenueのCEO神本侑季氏、パネリストは衆議院のWeb3ワーキンググループ責任者の塩崎議員とバイナンスのCEOリチャード・タン氏である。
暗号資産業界の現状と展望

リチャード氏は約27年間規制当局で働いた経験から、暗号資産が主流になるためには、国際的に明確な規制と機関投資家の導入が必要だと説明した。2024年にはブラックロックやフィデリティなどのこれまで暗号資産に対して慎重だった金融機関が積極的に参入するようになったと語った。
バイナンスのプラットフォームでは年初に1億7,000万ユーザーだったのが、年末には2億4,000万ユーザーになり、1年間で7,000万ユーザーを新たに獲得したと具体的な成長を示した。
リチャード氏によれば、暗号資産(仮想通貨)市場はまだ初期段階であり、世界全体での普及率は約7%に過ぎないという。過去のあらゆる技術でも7%の普及率に達すると、次の10%の普及はとても早いと指摘。今後の急速な普及を予測している。
日本の規制枠組みの特徴と強み
塩崎議員は、自身が弁護士時代に2014年のMt.Goxのハッキング事件に関わった経験を語り、その後の2017年の包括的な規制導入から2018年のコインチェックハッキング事件を経て、現在に至るまでの日本の取り組みを紹介した。
日本の強みは規制の透明性だけでなく、その継続性にあると強調。過去10年間、世界が興奮と幻滅を経験する中、日本は安定した規制枠組みを維持し、イノベーションと投資家保護のバランスを取ってきたとした。
スタートアップの観点からは、透明性と継続性によってビジネスを行う際のリスク量を測定できる点が日本市場の強みだと述べた。
バイナンスの日本市場戦略
リチャード氏は、すでに1年半ほど前から日本の規制に基づいて適切に運営しているとし、日本の暗号資産業界は今見ているよりもさらに活気づく可能性があるとした。才能もエネルギーも豊富にあると日本市場の可能性を評価した。
現状では他の20の地域と比較してスポット市場で最も多くのトークンを提供しているが、提供されているトークンの数は最も少ないと説明。将来的には先物市場やレバレッジ市場など、まだまだ拡大できる余地があるとの展望を示した。
セキュリティへの取り組み
リチャード氏は多くの規制当局がセキュリティ面を過小評価していると指摘した。バイナンスではSAFU(Secure Asset Fund for Users)というユーザー保護のための10億ドルのステーブルコイン(USDC)基金を確保していると説明し、万が一の事態に備えた補償体制を整えているという。
2025年2月21日のBybitでの15億ドルのハッキング事件を例に挙げ、セキュリティリスクの重要性を強調した。
ステーブルコインの展望
ステーブルコインについて、リチャード氏は伝統的な金融機関の国際送金では資金を受け取るまでに2日かかり、コストも高いが、暗号資産送金では瞬時に受け取り、コストもほんの一部だと具体的な利点を説明した。
リチャード氏は「今年1月にダボスで多くの銀行のCEOと話しましたが、そのほとんどが国際送金や国内送金にステーブルコインを使用することの大きな利点を認識し始めており、その分野に積極的に投資し始めています」と述べた。
塩崎議員も卸売りや産業利用での拡大が見られていると賛同。特に国際取引では、取引コストと時間を劇的に削減するとした。大規模な採用に近づくにつれて、小売分野でもより多くの利用が見られるようになるとの見通しを示した。
新たな規制枠組みの発表
パネルディスカッションの締めくくりとして、塩崎議員は重要な発表を行い、「自民党Web3ワーキンググループでは新しい暗号資産の規制枠組みを発表する」と述べた。
塩崎議員は、「当初は暗号資産を単なる決済手段として捉えていたが、長年の経過を通じて、これが支払いツールの枠を超えた金融資産であるという認識に至った。こうした理解に基づき、暗号資産を金融資産として適切に位置づける新たな規制枠組みを発表する。この取り組みが関係者の期待に応えるとともに、暗号資産のさらなる普及を目指す新モデルとして、他国からも参考にされることを期待している」などと説明した。
関連:「暗号資産は金商法に位置づけが適切」塩崎議員が衆院予算委で質問 新アセットクラスとしての検討提言
まとめ
日本のWeb3業界は、適切な規制環境の整備とグローバルな連携によって、今後さらなる成長が期待される。特に、リチャード氏が指摘した「テクノロジーの簡素化とアクセシビリティの向上」は、Web3の大規模な普及のために不可欠な要素となるだろう。