仮想通貨ウォレット「Freewallet」寄稿。メキシコの仮想通貨市場について解説いただきました。
本記事は、海外メディアCryptoDailyにFreewallet PR担当(Solomon Brown)が寄稿した記事を和訳いただいたものになります。
メキシコの仮想通貨規制と経済状況
メキシコでは2018年3月9日にフィンテックアクトが法律として成立し、フィンテック企業は苦境を強いられてきました。
この規制はメキシコの中央銀行であるメキシコ銀行(Banxico)が推進してきたもので、同行は仮想通貨関連の活動をコントロールし、資金を国内に留めようとしてきました。このため仮想通貨の開発者は運用にあたってまわりくどい方法を探す必要がありました。
仮想通貨分野の起業家と規制当局の応酬はいたちごっこで、表面的にはおもしろくさえありました。ここからは、メキシコ銀行が抑圧的な方針をとった結果どうなったかについて詳しく見ていきましょう。
メキシコの仮想通貨取引所Volabitの戦略マネージャーTomas Alvarez氏は、彼が提唱する「catch-22 type of situation」についてのインタビューに答え、フィンテックアクトでは新しいルールが曖昧で矛盾している理由を説明しました。
たとえば、メキシコ銀行の承認を得てからでないと組織は仮想通貨のトランザクションを実行できませんが、関連法には、メキシコ銀行は事実上、規制対象の金融会社は顧客に仮想通貨サービスを提供することを一切許可しないとあります。
加えて、Alvarez氏は、法律では規制対象の金融機関が仮想通貨を扱うためのフレームワークを確立したいように見える一方、組織がライセンスを取得しても実際に仮想通貨を合法的に取り扱うことができないと、メキシコでの取引所の運営は不可能だとしています。
この法律は仮想通貨の発展を妨げるものですが、それでもメキシコの仮想通貨業界は盛り上が理をみせています。どの企業もどの仮想通貨も要領よく法の抜け穴をみつけて独自の方法でマーケットに参入し、変化の激しい環境に適応しています。
ラテンアメリカとスペインのフィンテック分野で最も大きな影響力を持つ組織Finnovistaによると、メキシコの仮想通貨エコシステムは、ラテンアメリカのリーダーとして台頭しつつあり、400社ものアクティブなスタートアップが存在します。
メキシコのフィンテックスタートアップ
メキシコのフィンテックスタートアップの事業領域のトップ3は以下の通りです。
- ローン 81社(20.6%)
- 支払いと送金 79社(20.1%)
- 法人用資金管理(BFM、Business Finance Management) 52社(13.2%)
ローン
ローンはメキシコで最も人気のある仮想通貨のユースケースです。2018年、メキシコ銀行は融資の年利を8%から8.25%に上げ、安価で手間のかからないローンの需要が高まりました。
従来の融資に代わるサービスのひとつがCredilikemeです。Credilikemeは、投資への融資をメキシコペソ(MXN)で提供するゲーミフィケーションを取り入れたブロックチェーンベースのクレジットネットワークです。Credilikemeのすべてのローンには買い戻し保証がついていて、60日以上延滞されたローンは同社によって買い戻されます。Credilikemeは21歳から45歳のメキシコ人に人気があり、融資のほとんどは3,700から19,000メキシコペソで、緊急の支出や事業の運転資金に使われます。
決済と送金
Wolf Streetの記事によると、2018年、メキシコ系アメリカ人労働者からメキシコ国内の個人への累積送金額が過去最高の334億ドルに達し、同メディアは「メキシコの経済のライフライン」と表現しました。
このような国境を超えた送金をするために、多くのメキシコ人がメキシコ最大のプリペイドカード会社Epaymentsのサービスを利用しています。Epaymentの再チャージできないカードは一回限りの支払いに便利で、残高を使い切るとカードは使えなくなります。再チャージできるカードは長期間使用することを想定したもので、必要に応じて何回でもチャージすることができます。
送金のほかにも、メキシコの仮想通貨分野の起業家はさまざまな決済と送金に関するアイデアを実現しています。たとえば、Tokencashを使うと、ユーザーは提携先から買い物をするたびに報酬を受け取り、受け取った報酬はレストランやガソリンスタンドで使うことができます。
MexPagoもメキシコで人気の決済アプリケーションです。MexPagoを使うと、携帯、タブレット、ゲームコンソールなどインターネットにつながったどのようなモバイルデバイスからでも決済サービスを利用できます。消費者として支払いに利用するだけでなく、銀行口座を登録する、またはMexPagoのカードを作って、事業の売り上げを受けることもできます。
法人用資金管理
仮想通貨分野の起業家は、法人用資金管理というニッチな分野にも足を踏み入れています。この分野の企業は、自動でデータを照合し、電子請求し、口座や顧客、サプライヤーを管理するクラウドバンクとプラットフォームを構築しています。
仮想通貨と直接関連するものではありませんが、ERPを提供するWizerpは事業をリアルタイムで管理します。Wizerpには会計、営業、銀行、PoSなど8つのモジュールがあり、ひとつのアプリケーションで、照会、請求、在庫、支出管理、カウンターセールスなどを合理化します。
メキシコのフィンテック事業領域トップ3に続く、残りの46.1%の内訳は次の通りです: 個人金融資産管理(PFM、Personal Finance Management)39社(9.9%)、金融機関のためのビジネステクノロジー(BTFI、Business Technologies for Financial Institutions)36社(9.1%)、クラウドファンディング 29社(7.4%)、保険26社(6.6%)、信用スコアとID 16社(4.1%)、デジタルバンク15社(3.8%)、トレードと長期金融市場13社(3.3%)、アセットマネジメント8社(2.0%)。
メキシコでフィンテックスタートアップが増え、地元のユーザーから支持を集めている背景には、銀行のような政府系機関に対する不信感や、安価なローンや機動的な金融サービスの需要があります。
メキシコは南北アメリカで5番目に大きな国で、大きな経済的なポテンシャルがあります。世界で6番目に人気の旅行先でもあります。メキシコの平均年齢は28歳と若く、1億台の携帯電話がネットワークにつながっていますが、メキシコ人の多くはクレジットカードも銀行口座も持たず、8000万人が基本的な金融サービスにアクセスできません。
仮想通貨の購入、保管、使用
メキシコでは金融サービスへのアクセスが当たり前ではないため、メキシコ人は仮想通貨を買って保管しようとします。ほかにもペソの下落、メキシコの緊迫した政治情勢、信用格差も仮想通貨が買われる要因です。Tradingeconomicsによると、メキシコの汚職スコアは1995年時点で79でしたが、2018年には過去最高の138まで急増しました。自国の将来への不安から、メキシコでは仮想通貨需要に拍車がかかっています。
メキシコの仮想通貨初心者は仮想通貨の仕組みは知りませんが、ペソを仮想通貨にする方法は知っています。Volabitのウェブページのヘッダには「Volabitでは希望の金額を固定価格で売り買いできます。取引の仕組みを理解する必要はありません。取引はシンプルで手間がかかりません。」とあります。どのようなユーザーでも便利にペソを仮想通貨にでき、若い人は20ドルビットコインを買ってオンラインのギャンブルで遊び、ビジネスマンはB2Bの国境を超えた取引に仮想通貨を使うでしょう。取引のプロセスはシンプルかつ匿名で銀行での両替と似ています。
メキシコで主に使われている仮想通貨
メキシコ人の多くはビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)を取引しますが、メキシコローカルな仮想通貨もいくつかあり、メキシコ人がグローバルなマーケットへの参加者として、またエンドユーザーとしても仮想通貨に興味を持っていることがわかります。Amero – 独自コインを売るためにATMを設置
メキシコで最も人気のある仮想通貨の購入方法は、ATMでの購入です。仮想通貨企業がメキシコ国内で物理的にユーザーに接触する場所を持つには、独自のATMを設置するのが一番簡単です。このケースはFintech Actの「サンドボックス」規制スキームのもとサービスを運用できることになります。Amero-Isatekは、メキシコの仮想通貨業界で有利な立場を築くべく、このスキームを利用して物理的な仮想通貨取引所をメキシコ国内の8つの州に作ろうとしています。プロジェクトのステーブルコインAmero はこれらすべてのオフィスで入手可能になる予定です。同社は新しい法律に一瞬で対応し、この分野には高い需要があることを示しています。
Maya Preferred 223 – 最も高いステーブルコイン
もうひとつ特筆すべき事例として、メキシコローカルなステーブルコインMAPRがあります。メキシコは銀の生産では世界トップで、金の生産では世界で9番目です。各コインはメキシコの11の主要な鉱山の約34,000ドル相当の金と銀にペグされています。他にもメキシコにはReal Silver CoinやEgypt Cryptocoinなど貴金属にペグされた仮想通貨があります。
Agora Coin – 唐辛子通貨
貴金属にペグされた仮想通貨のほか、オイル、ビンテージウィスキー、唐辛子で担保される仮想通貨もあります。メキシコの企業Amar Hidroponiaは投資家に対して仮想通貨Agora coinを提供しています。Agora coinは唐辛子栽培にペグされ、収穫した唐辛子の販売収益は投資額に応じてAgora coin所有者へ分配されます。
メキシコの仮想通貨業界の将来性
仮想通貨の自由度の高さは魅力的ですが、メキシコ政府は仮想通貨を規制しようとしています。
2019年3月、メキシコ中央銀行はフィンテック法のもとで効力を発する新しい規制を提案しました。同行は仮想通貨の「電子資産の基礎となる数学的で暗号解読のプロセスの複雑さ」と「ユーザーがこれらのプロセスを理解するのが難しいこと」を批判しました。この措置については極めて厳しい、送金を独占する試みだという意見があります。
とりわけメキシコ銀行は、規制対象の金融機関が仮想通貨関連ビジネスと取引することを禁止しようとしています。擁護派のグループCoin Centerは次のように始まる論説を公開しました。「法定通貨を扱う仮想通貨取引所はメキシコの銀行システムにアクセスする必要があります。新しい法はこのアクセスを大幅に妨げるものです。中央銀行は取引を『禁止』していないと主張しても効果は同じです。」
長い間ビットコインを嫌っていたメキシコのエコノミストAgustin Carstens氏のように、メキシコ政府が考え方を変えてくれることを願うばかりです。Carstens氏はメキシコ銀行総裁、国際決済銀行の総支配人としての仕事の中で、しばしば仮想通貨を軽視し、仮想通貨の使用を妨げようとしてきました。しかし、Carstens氏は仮想通貨に希望を見出すようになり、中央銀行のための仮想通貨の開発を支援しています。
「私たちが思っているよりもすぐに市場ができて、中央銀行の電子通貨を提供できる必要が出てくるのかもしれない。」とCarstens氏はFinancial Timesに語りました。
メキシコ銀行の規制方針が勝つのでしょうか、それともCarsten氏の新しい楽観主義でしょうか。時間が経てばわかることです。仮想通貨を使うメキシコ人にできるのはただ祈ることのみです。
原文: https://cryptodaily.co.uk/2019/08/crypto-geography-how-cryptocurrency-is-progressing-in-mexico
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