価値保存としてのビットコイン投資
米金融最大手フィデリティのデジタル資産関連子会社、FDA(Fidelity Digital Assets)が機関投資家に向けたビットコイン投資検証シリーズの第一弾として、ビットコインの価値保存機能に焦点を当てたレポートを発表した。
「ビットコイン投資の命題:価値保存手段としての期待感」と題されたレポートでは、ビットコインの特性とともに、現在の金融環境や世代間の富の移転など、中長期的な視点からビットコイン投資の展望を論じている。
様々な機能を合わせ持つビットコイン
FDAはビットコインを理解することの難しさの一因に、その多面的な機能があると述べている。価値の保存だけでなく、交換媒体としてまた代替資産としての要素もあるため、多くの誤解や混乱を生み、議論の対象となってきた。
しかし、ビットコインの素晴らしさは、その成功が単独の役目を果たすことに限定されていないことであり、エコシステムが成熟するにつれて、多くの機能を同時に果たす可能性があると主張している。
このレポートの主題である価値の保存機能についても同様で、現時点では、ビットコインがその役割を果たす性質を備えながらも、まだ広く受け入れられていない発展途上にあると多くの投資家は捉えていると指摘。つまり「価値保存」予備軍のような立ち位置であり、成熟するにつれ、その機能が強化され価値が創造されるだろうと述べている。いわば、20億人以上のユーザーを抱えるフェイスブックがブレークする前の時期(ユーザー5000万人)のようなものだという。
希少性
価値保存機能を持つ資産に求められる特性の中で最も重要な役割が、長期にわたり価値を保持し、実質的な価値の下落を防止する「希少性」だが、ビットコインの最も斬新な革新的特性の一つが、まさに希少性だとレポートは指摘している。
ブロックチェーン上の発行量が限定された固有資産がビットコインであり、その希少性は創設時よりプロトコルにコード化されており、金融政策の独立性は分散型ネットワークとPoW(プルーフ・オブ・ワーク)システムによって堅持されている。
ビットコインに対する需要
価値保存資産であるためには、ビットコイン独自の特性に対する持続的な需要があるかどうかも重要になってくるが、レポートでは次のような中長期的な視点を提供している。
1. 世界レベルでの金融・財政政策と脱グローバル化
パンデミックの経済的影響を軽減するために、現在、世界規模で多くの政府・中央銀行が、未曾有の金融・財政刺激策を実施している。コロナ以前から多くの投資家は、長引く超低金利〜マイナス金利政策や法定通貨の供給量増加が、世界の経済システムに及ぼす影響を懸念していたが、昨今の前代未聞の金融緩和によるマネーサプライの増加は、希少性の高い資産の価格上昇につながる可能性が高いと指摘されている。
実際、米中関係の悪化などにも後押しされ、金相場は高騰し、史上最高値を更新している。
さらに、レポートでは、パンデミック対策としてのロックダウンや国境の封鎖などにより、グローバルなサプライチェーンへの依存リスクが露呈したため、脱グローバル化へと舵が切られ、グローバル化の恩恵の一つであったインフレ抑制の力が弱まる可能性も指摘している。
「印刷できない資産」として、従来は金をはじめとする貴金属や不動産が注目されたが、潜在的なインフレや低金利に対する「防衛策」として、成長が期待されるビットコインに投資家の目が向く可能性が高いとレポートでは主張している。その一例として、著名投資家のPaul Tudor Jonesが、明確な根拠を示してビットコインに投資した事実を示し、投資トレンドの重大な転機と表現した。
2.世代間の富の移転
さらに、長期的に見ると、高齢層から若年層への富の移転が起きることは必至だと指摘。ビットコインと「親和性の高い」ミレニアル世代の多くが、不安定な経済状況下では金よりも仮想通貨が優れた投資だと考えていることからも、緩やかではあるが、ビットコイン投資への重要な追い風になるとレポートは主張している。
ボラティリティの影響は
ビットコインの価値保存機能を否定する理由の一つとして、しばしば価格変動性が指摘されるが、レポートではボラティリティは、特に初期の段階でビットコインに注目を集め、開発と革新を促す「希望の兆し」であると主張している。実際、ビットコインの急激な価格上昇は、多くの投資や人材を市場に呼び込み、新たなプロジェクトやインフラの整備につながり、市場の成熟を促してきた。
熟練した投資家にとって、ボラティリティは絶好のチャンスにもなり得る。
また、レポートでは、機関投資家向けの活動が拡大し、洗練された投資取引や投資商品が登場するにつれて、ボラティリティは相対的に低下していくだろうと予測している。