公平なアクセス規則の公表を取りやめる
米通貨監督庁(OCC)は、1月28日、大手銀行が全ての顧客に対し、公平に銀行サービスへのアクセスを提供することを定めた規則(「公平なアクセス規則」)の公表を一時的に停止したと発表した。
この規則は昨年11月に同庁から提案されたもので、連邦政府公認の銀行(国法銀行)が、金融サービスを提供するにあたって、顧客の全体的な属性(カテゴリーや業種等)ではなく、個々のリスク評価によって判断すべきであるという、10年以上にわたるOCCのガイダンスを成文化するものだった。
OCCは1月14日、この規則を最終決定したと発表していたが、今回、公表を取りやめた理由として、連邦公報への掲載前に、次期会計検査官が同規則とパブリックコメントの検討が可能なよう配慮する措置だと述べている。
昨年5月より通貨監督庁のトップを務め、積極的に仮想通貨(暗号資産)の普及を支援するガイダンスを発表してきたBrian Brooks氏は、政権交代にあたり、1月14日付けで会計検査官代理を辞任した。新しい会計検査官はまだ指名されておらず、現在は副会計検査官兼最高運営責任者であったBlake Paulson氏が代理を務めている。
業種を問わず公平なサービス提供を要請
Brooks前会計検査官代理は、この提案が発表されるにあたり次のように述べていた。
「金融サービス、信用、資本への公正なアクセスは、経済にとって不可欠なものだ。(金融)システムが全ての人に公平性を提供できないのであれば、何人の力の源となることもできない。この提案された規則は、銀行が公正にサービスを提供するという責任を果たすことを保証するものだ。銀行は特権や権限を享受しているためだ。」
この提案は主に石油・ガス採掘企業や銃製造企業など、政治的またはイデオロギー的な理由で銀行取引を拒否される可能性がある業界が、融資などの金融サービスを受けられるよう支援する目的であったと言われている。
しかし、仮想通貨業界からもこの提案を歓迎する声が上がっていた。米国では、多くの銀行が取引所を含む仮想通貨企業との取引を敬遠する向きが根強く、通常の銀行サービスを提供する銀行が限られ、業界発展の障壁の一つと見られている。
米大手取引所クラーケンのMarco Santori最高法務責任者は、提案の発表時、仮想通貨企業も「合法であるのに関わらず」銀行が敬遠する業種に含まれていると述べ、OCCの提案を速報としてツイートした。
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銀行業界の不評を買った「公平なアクセス」規則
一方、銀行業界は今回のOCCの決定を称賛している。
米国最大の業界団体である米国銀行協会(ABA=American Bankers Association)は、この規則が、資産規模が1000億ドルを超える大手国法銀行と連邦貯蓄協会に対し、一定の基準を満たさない場合を除き、企業への金融商品やサービスの提供を拒否しないよう義務付けるものであると認識を示し、問題視していた。
ABAは、OCCにはこのような規則制定を行う法的権限はなく、また手続き上の要件も満たしていないという理由で、この規則に「猛烈に反対」していた。さらに、この規則を取り入れた際の銀行の負担をOCCが過小評価しているとの懸念も表明していた。
OCCによると最終規則の策定にあたり、当局は3万5000件を超える関係者のコメントや提案を検討したという。その結果、「市場や事業領域への参入や競合の妨げになる場合」や「対象銀行が財務上の利害関係を有する、他の個人や事業活動に利益をもたらす場合」などは、銀行がサービスを拒否できるとの変更を加えたという。
リベラル派のシンクタンク「Competitive Enterprise Institute」は、この規則を「トランプ政権時代のルール」と呼び、政治レベルまで議論を発展させている。
Brooks氏が「政治的な目的で銀行システムを兵器化する」状況に対抗することを目指し、策定された「公平なアクセス規則」は2021年4月1日から施行される予定だった。