マイニングの炭素排出量予測
著名科学雑誌Natureに中国におけるビットコイン(BTC)マイニングの炭素排出についての論文が掲載された。今後マイニングで発生する炭素排出量を予測し、それを最小化する政策のシナリオについても検討している。
この論文は、「中国におけるビットコインブロックチェーン運用の炭素排出フローと持続可能性に関する政策評価」というタイトルで、北京の中国科学院大学のShangrong Jiang氏他6名によって発表された。
論文によると、政策介入がなければ中国におけるビットコインブロックチェーンの年間エネルギー消費量は2024年に約297Twh(テラワット/毎時)でピークに達し、1億3,050万トン相当の炭素排出量が発生すると予想される。
この量は、チェコ共和国やカタールなどの国の二酸化炭素排出量(2016年の量)を超えるものだ。また中国の182の都市と42の産業部門と比べてもトップ10に入る規模になり、中国の発電による炭素排出量の約5%を占めるようになるという。
パリ協定による目標達成の障壁に
中国も、温暖化を防ぐための国際的な取り組みであるパリ協定を批准しており、2030年までにGDPあたりの炭素排出量を2005年比で60%削減することを目指す。こうした状況で、ビットコインマイニングによる排出量が、中国の削減目標に対して潜在的な障壁になっていると論文は指摘した。
ビットコインマイニングによる排出量がピークに達した時には、中国の主要な42の産業セクターの中で、10番目に大きな排出セクターになると予測される(2016年の各産業の排出量と比較)。
上図によると一位の輸送部門(約1,683炭素トン)、二位の建設部門(約1,225炭素トン)が突出しているが、製造部門(約175炭素トン)、機械部門(約131炭素トン)に続き、ビットコイン産業は約130炭素トンの排出量と推算された。
水力発電が豊富な地域へ業者を移転
そこで政策的な介入は望ましいとして、論文は3つの政策モデルを比較。一つ目は、排出量に関連して課される炭素税を二倍に引き上げるもの。二つ目は、エネルギー効率性の低い企業の市場アクセスを妨げるもの。三つ目は、自然エネルギーが使用できるエリアにマイナーを移転するものだ。
シミュレーション結果としては、三つ目の移転シナリオが最も排出量削減効果があったという。
このシナリオでは、石炭を土台とした電力のエリアにいるマイニング業者を、水力発電による電力が豊富なエリアに移転するよう説得し、石炭エリアに残るマイナーは20%に留まると仮定している。
中国では、特に雨季などに余剰となった水力エネルギーが低コストで利用できる地域がある。四川省は豊富な水力により、2020年4月時点で中国のハッシュレートの約10%を占めていた。
一方、政策介入がない場合、ビットコインマイニングにおけるGDPあたりの炭素排出量は、2026年6月には1米ドルあたり約11kgで最大値となる予測。移転シナリオを適用すると、これを1米ドルあたり6kgまで削減することができるという。
論文では、現在の懲罰的な税金を課す政策よりも、マイナーを移転させる政策を推奨している。ただこの場合でも、ビットコインマイニング産業が、炭素を集約的に排出する炭素集約型であることには変わりがないとした。
「ブロックチェーン技術の採用が広がるにつれ、新しいプロトコルは環境に優しい方法で設計されるべきであることが示唆される」と論文は述べている。
また、備考として今回の研究は、将来に中国のエネルギー部門の構造が変化していくことは考慮されていないと注記した。中国の現在の電力構成は石炭が大きな割合を占めており、再生可能エネルギーを奨励する取り組みが今後進められていけば、ビットコイン産業の炭素排出量も変動する可能性があると論じている。