マイニング禁止の理由は
ドイツのクラウドホスティング大手Hetzner社が、同社のサーバーを利用した暗号資産(仮想通貨)マイニングを禁止する方針を明らかにした。
同社のクラウドストレージサーバー「Storage Box」の規約には、「当社がお客様にとって高性能で信頼性の高いネットワークを運営するため、仮想通貨マイニング用アプリの運用は禁止されています。」と書かれている。クラウドサーバーやウェブホスティングなど、その他全てのサービスにおいても同様に規約が変更され、禁止事項が加えられた。
Hetzner社がマイニング禁止措置を講ずるに至ったのは、ユーザーが大容量のデータストレージを使って、仮想通貨Chia(XCH)のマイニングを行なっていた背景がある。
Chiaは5月3日に取引が開始されたが、ローンチ後にHetzner社のストレージサーバーに対するユーザー需要が急増したという。Chiaのマイニングは、未使用のディスクスペースを活用する、新たなコンセンサスアルゴリズム「PoST」(Proof of Space and Time)を採用している。
Chiaのマイニングでは、ストレージドライブで継続的に大量のデータの読み取りや書き込みが行われるため、Hetzner社は、サーバーの劣化や故障に繋がることを懸念しているようだ。またシステムの処理能力にも問題が生じるとの考えを示した。
一方、中国のアマゾンウェブサービス(AWS)で、Chiaのマイニングが可能という報道もなされたが、現在、その関連情報ページは閲覧できなくなっているようだ。
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仮想通貨Chiaとは
Chiaは、P2Pファイル転送用プロトコルBitTorrentの発明者、Bram Cohen氏によって開発されたブロックチェーン ・プラットフォーム。新たなコンセンサスアルゴリズム「PoST」と、独自に開発したプログラミング言語Chialispを使用する。PoSTでは、専用機器やGPUなどの高度な処理能力は必要ないため、ビットコイン(BTC)に代表されるPoWネットワークのマイニングに比べ、電力消費量も低く抑えることができると考えられている。
Chiaネットワークでは、マイニングは「ファーミング」(耕作)、マイナーは「ファーマー」(農家)と呼ばれ、CPUではなく、記憶装置であるSSDやHDDの容量と速度を利用する。ファーマーは、ソフトウェアをインストールし、「プロット」と呼ばれる暗号化された数字を保管するためのストレージスペースを確保する。新たなブロック検証(ファーミング)には、ファーマーがプロットの中から、正解に最も近いデータを提出するという形式が用いられる。
そのため、より多くのプロットを確保したほうが、ブロック検証のチャンス(収益化の確率)が大きくなる。「ファーマーがブロックを獲得する確率は、ネットワーク全体に対して、各ファーマーが保有するスペースの割合となる」とChiaの公式サイトでは説明されている。
ファーミングの負荷
Hetzner社の懸念を裏付けるような報道もある。
中国メディア「快科技」によると、Chiaのファーミングには大容量のHDDとSSDドライブが必要だが、書き込みの量が通常使用量を遥かに上回るため、短期間で機器が故障する恐れがあるという。Chiaファーミングで、256テラバイトの書き込み量を想定した場合、512GBの容量を備えたSSDは、わずか40日で壊れてしまう可能性があるという。1TBのハードディスクであれば80日、2TBモデルであれば約160日の継続した使用に耐えられると考えられているそうだ。
通常の使用条件下では、標準的なSSDは、約10年間使用できる仕様になっているという。そのため、3年から5年の保証期間もついてくるが、Chiaのファーミングで、データの書き込み量が一定量を超過した場合は、このような保証は無効になるとのことだ。
しかし、Chia開発者のCohen氏は、「Chiaがハードディスクを燃やしてしまう」という噂に根拠はなく、旧式のハードドライブや企業向けのグレードのものであれば、ファーミングには問題がないとの認識を示した。ただし、一般消費者向けのSSDをChiaのファーミングに使用しないよう、警告している。
ハードディスクの品不足
Chiaネットワークのローンチ前には、中国や東アジアを中心にハードディスクドライブが品不足なっていたと報じられた。
日本でも、大容量HDDを大量に購入する人が増え、PCパーツショップでは、HDDの購入台数に制限が設けられたようだ。特に10TB以上の大容量HDDを中心に品薄・品切れとなり、値上がりも目立つようになったと報道されている。