NFTの実用性を検証
スイスのブロックチェーン企業、ジェルリダ(Jelurida)社が開発するアーダー(Ardor)プラットフォームでは、ブロックチェーンゲームやNFTなどに関連したプロジェクトが盛んだ。
本記事では、アーダーブロックチェーンの主たるチャイルドチェーンであるイグニス(Ignis)が実証実験のツールとして採用された2つの事例を取り上げ、どのような研究が行われたのかを見ていく。
ひとつは、NFTの発行がアイテムの真正性の裏付けになるのかどうかを検証したクリエイティブ業界における実証実験で、もうひとつは、デジタルIDを活用した情報源の信頼性担保が実現可能かどうかを検証したメディア・出版業界における実証実験だ。
どちらもAlexander Pfeiffer博士により2年間行われた、ブロックチェーンと教育に関する研究結果に基づいている。Pfeiffer博士は2019年〜2020年に、マサチューセッツ工科大学(MIT)の比較メディア研究/ライティング部門でポスドク研究員を務めており、現在はオーストリアのダヌーブ大学クレムス校に戻り、芸術・文化研究部門の一部である新しいテクノロジーズ・ラボを率いている。
イグニスチェーンの特徴
イグニスは、アーダープラットフォーム上の全てのトランザクションタイプおよび機能が利用できるよう設計されており、パーミッションレス型で制限のない分散型チェーンとして機能している。
アカウント管理、および他のチャイルドチェーン上のパーミッション設定に関連した機能は、全てイグニスでは実装済みだ。また、イグニスのネイティブ機能として、NFTの発行機能もチェーンに組み込まれており、NFT開発に伴う複雑さを解消している。
クリエイティブ業界における実証実験
クリエイティブ業界では、現在注目されているコレクターズアイテムの著作権を保護するために、ブロックチェーンが実用的な技術となりうるのかどうかが検証されている。
このケースでは、アーティストの歴史的なオリジナルテープから厳密に限定生産されたビニール盤レコードの保護についてのものだ。このプロジェクトでは、絶対に偽造できないコレクターズアイテムを作る可能性に加えて、コレクター同士のピアツーピア・マーケットを作る方法も検討されている。コレクターは、一般に公開して登録するか、あるいは一般には匿名で、システムには自分の名前だけを登録するかを選ぶことができる。この研究結果は、研究パートナーである業界の大手企業にとっても大きな関心事であり、今年の年末には新しいコレクターズアイテムの背景にあるアイデアを発表する予定となっている。
まず、イグニスチェーン上に役割の異なるトークンが2種類作成され、検証の対象とされた。
ひとつは現物対トークンが一対一の交換が不可(特定の現物を追跡するIDなどがトークンに付与されるため)なもの、つまり独自のトランザクションIDをもつユニークな非代替性トークン(NFT:Non-Fungible Token)だ。生産されたビニール盤とそれに関連するメタデータの公開リストとして認識されるもので、これは「アイテムの存在証明」ともいえるものとなる。
そしてもうひとつは現物対トークンがどれとでも交換可能(紙幣の用途と同じイメージ)なもの、つまり発売されるコレクターズアイテムの数に応じた代替性トークン(FT:Fungible-Token)だ。
この検証からは、ブロックチェーンベースのデジタルIDと有形のデータを組み合わせるというテーマが、業界とエンドユーザー、具体的には音楽ファンやコレクターの双方にとってニーズの高いものであることが分かったとしている。
また、レコード会社の公式Webページにおいて、ブロックチェーンアドレスや取引の記録を公開するなど、強固な「信頼の連鎖」を構築することも重要であることや、定量的なデータ収集などの基礎情報が得られたこと、そしてアーダーブロックチェーンの使用による実効性についても成果が得られたと結論付けられている。
メディア・出版業界における実証実験
次に、メディアの情報およびデータの信頼性を証明するためにブロックチェーンが活用された事例も見ていきたい。ここでも、アーダーブロックチェーン(およびチャイルドチェーンであるイグニス)を用いた検証が実施されている。
ここでの課題は、コンテンツ制作、出典、発信者のアイデンティティに関連するデジタル素材の安全性を確保するといった文脈で、ブロックチェーン技術の有効性を検証するというものだ。
主な検証内容としては、新聞、記事、ブログ、SNSプラットフォーム、メッセンジャーツールなどに組み込まれた場合、ブロックチェーンがそれらを改善する「信頼の増幅器」として受け取る消費者側の意識などだ。
結論としては、SNS利用の発達と共に、近年問題化しているフェイクニュースが広く蔓延している現状において、消費者側による情報源の出所確認方法の確立が求められているという認識の再確認がなされた。
また、コンテンツ制作者のデジタルIDが、オンライン記事やソーシャルメディアのチャネルだけでなく、オフラインの記事(例えば雑誌などの出版物)や、ブロックチェーンに登録された識別コードにも使用できること、そして記事や著作権へのリンクだけでなく、制作者側がデジタルIDを使用し、ブロックチェーン上にソースマテリアルを登録する方法なども示されている。
以上のブロックチェーンおよびジャーナリズムに関する研究は、フィンランドのヴァーサ大学における共同プロジェクトとなる。
ブロックチェーン技術とデジタルIDの可能性
クリエイティブ業界においては、不正コピーや著作権侵害を撲滅するための用途として、NFT利用が可能なのかを検証され、コレクターズアイテムの著作権を保護するための将来の技術となり得るブロックチェーン技術の有効性が示された形となった。
またメディア・出版業会においては、制作・供給者、流通業者、そして消費者のデジタルIDと、暗号化された分散型データストレージが、情報源の出所を透明化させ、オンライン・オフラインを問わず、メディアと出版業界の信頼性をより高めるという可能性も示された。
上記の研究では、今後さらなる検証を続けていくとしているが、今回取り上げた業界以外でも、今後ブロックチェーン技術があらゆる分野で活用されることが見込まれており、新しい動きに注目していきたい。