ビットコインは証券ではない
米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長は8日、ビットコインなど証券に分類されない暗号資産(仮想通貨)の監督権限を、米商品先物取引委員会(CFTC)へ付与することを支持する考えを示した。
米法律教育組織PLIのカンフェレンスで講演したゲンスラー氏は、まず「仮想通貨市場の約1万種類のトークンのうち、その大半は有価証券であると考えている」と強調した。一方、その中には証券の定義に当てはまらないものも「ごく少数」あるとして、ビットコインに言及。「貴金属のように取引され、投機的で希少価値が高い、価値の貯蔵物」として形容した。
同氏は、このように証券と見なされない仮想通貨を「暗号非証券トークン」と名付けている。
ゲンスラー氏は仮想通貨市場の特徴として、現在、投資家は「暗号証券トークン」と「暗号非証券トークン」の両方を取引しており、仲介業者もその両方を扱うことが一般的であると述べた。
また、仲介業者は、証券市場では通常分離されているサービスや機能(取引サービス、ブローカーディーラーサービス、保管・清算、貸付サービス)を同時に提供していると指摘。これらの機能が混じり合うことで、投資家にとって、新たな利益相反やリスクが生じるため、仲介業者が機能別に「確実に」登録できるよう、SEC職員に協力を要請したという。
このような状況を踏まえ、仮想通貨の監督権についてゲンスラー氏は、次のようにコメントした。
CFTCが暗号非証券トークンや関連仲介者を監督・規制する権限を強化する必要性において、暗号証券トークンや関連仲介者の規制はSECで維持しつつ、その目標を達成するために議会と協力することを期待する。
SECの強固な権限を維持
ゲンスラー氏は、「仮想通貨の大半はハウィー(Howey)テストに基づく投資契約」であり、仮想通貨のオファーと取引は証券法の範疇にあるという考えをあらためて強調した。
100兆ドルの資本市場を支える証券法を、不用意に弱体化させないようにしよう。
その上で「法律の遵守を求める仮想通貨プロジェクトや仲介業者と協力」するとともに、「現在SECに付与されている強固な権限を維持しつつ」、議会と協力して立法構想に取り組むのを楽しみにしていると述べた。
ハウィーテスト
ハウィーテストとは、米国で特定の取引が「投資契約」という証券取引の定義の一つに該当するかどうかを判定するテスト。W. J. Howey社に対する証券取引委員会の訴訟事件に由来する。このテスト自体に法的拘束力はないが、SECはこのテストを根拠に複数のICO(トークン販売)に対して訴訟を起こした経緯がある。
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仮想通貨関連の新オフィス設立
ゲンスラー氏の講演ののち、仮想通貨の申告のために、SECが新たなオフィスを設立することがSECから発表された。このオフィスは上場企業の情報開示を扱う企業財務部門に置かれると、同部門副主任であるCicely LaMothe氏は述べた。
SECは今年5月に、仮想通貨に特化した執行部門の人員を大幅に強化。ほぼ倍増させている。
米議会の動き
米国上院農業委員会の議員らは先月、商品(コモディティ)に相当する仮想通貨についてCFTCに監督権限を与える法案「デジタル商品消費者保護法」(DCCPA)を提出した。この法案では「デジタル商品」に対する 「独占的監督権 」をCFTCに 付与することを提案している。またデジタル商品を扱うブローカーやディーラー、カストディアン、取引所に、CFTCへの登録を義務付ける。
6月には、共和党のCynthia Lummis上院議員と民主党のKirsten Gillibrand上院議員が、超党派の「責任ある金融革新法」(RFIA)を提出した。RFIAは、新たなデジタル資産の法的定義を設定し、CFTCに仮想通貨市場を規制する権限を与えるものだ。
関連:米国超党派議員らが起案した責任ある金融革新法(RFIA)とは
同月、CFTCを管轄する下院農業委員会の分科会(商品取引所、エネルギー、信用取引)は、デジタル資産の規制について公聴会を開催。同分科会のSean Patrick Maloney委員長は、議会が正しく行動することにより、「CFTCに投資家保護に必要なツールを与えつつ、米国でイノベーションを促進することも可能だ」と主張した。
関連:米CFTCの規制権限拡大の機運高まる──仮想通貨関連の公聴会
米国では、仮想通貨の規制をめぐり、有価証券として証券法のもとでの規制を主張するSECと、商品として監督する方針を打ち出すCFTCの間で、監督権限の争いが続いている。
これまでの経緯を振り返ると、CFTCはビットコイン先物を2017年から監督してきた実績があり、概して仮想通貨に対して柔軟な姿勢を打ち出してきたと言える。SECに対して仮想通貨業界からは、同機関が明確な規制方針を示していないとの批判も多い。