適切な規制を求める声の高まり
暗号通貨やその他のデジタル資産が経済活動の原動力として確立され、主流として受け入れられるようになるにつれ、規制を求める声が大きくなってきました。
消費者と投資家を保護するため、シンシア・ルミス (Cynthia Lummis: 共和党・ワイオミング州)と カーステン・ギリブランド(Kirsten Gillibrand:民主党・ニューヨーク州) の両上院議員は、暗号通貨市場における規制の枠組みを作成し、デジタル資産の大半を商品として分類するための超党派法案を提出しました。69ページに及ぶ「責任ある金融革新法(Responsible Financial Innovation Act:RFIA)」は、商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission:CTFC)に暗号市場を規制する権限を与え、デジタル資産の新しい法的定義を設定するものです。
更にこの法案によって、ステーブルコインを管理する新規の連邦法が制定され、小規模な暗号決済に対する課税が実施され、規制管轄が成文化されます。この法案が成立すれば、暗号通貨業界を悩ませてきた法的な不確実性が払拭され、その正当性が一層確立されることになることが予測されます。
暗号通貨に関連する法的定義
デジタル資産分野で最も重大な問題の一つは、合衆国法典に法的定義がないことです。
責任ある金融革新法は、暗号通貨を商品先物取引委員会の管轄下にある商品として規制し、トウモロコシ、コーヒー、金、大豆、原油などの原商品と同じように扱うことを提案しています。この法案は、商品先物取引委員会に暗号通貨を監督する新たな規制権限を付与し、商品先物取引委員会をデジタル資産のスポットマーケットの主要な規制機関とするとともに、デジタル資産取引所に新規登録カテゴリーを設けることを提案しています。この法案では、商品取引所法に含まれる定義として「デジタル資産」「デジタル資産取引所」を追加し、「仮想通貨」「決済用ステーブルコイン」「スマートコントラクト」「分散型自律組織(DAO)」等の関連用語の定義も追加しています。
商品として規制される暗号通貨
責任ある金融革新法の下では、デジタル資産が規制の対象となり、今までほとんど存在しなかったルールが構築されます。
本法案の本文では、商品または証券として機能するデジタル資産と、証券の売買と同時に提供または販売される有形・交換可能の資産を区別しています。資産がどのカテゴリーに分類されるかは、その資産が所有者に与える権利や権限を検証することで判断されます。本法案では、デジタルアセット企業が規制義務の決定と遂行において主要な役割を果たすと同時に、規制当局が商品取引法や証券取引法を適用できるように、さらなる明確化を図ることを規定しています。
デジタル資産は、有価証券と組み合わせて提供される場合、企業が資本の発生を目的として投資家に発行する有価証券のようなものでない限り、「付帯的なもの」と定義されます。証券取引委員会のHoweyテストでは、以下の4つの条件が満たされた場合、その資産は有価証券とみなされるべきとされています。
- 資金の投入があること
- 共通事業への資金投入であること
- 出資者は、利益を得ることを期待して出資していること
- それらの利益は、他の人の努力によってのみ発生すること
企業等の組織は、特定の開示要件を定期的に満たすことで、「証券」としての分類を避けることができます。また、責任ある金融革新法では、暗号通貨やその他のデジタルトークンを従来の証券と同様に扱わないよう証券取引委員会(SEC)に指示しています。ただし、Howeyテストにあるように、デジタル資産保有者が配当、清算権、発行者の財務上の利益など、企業投資家が享受する特権を受けることができる場合は除外されます。
この法案が可決されれば、Coinbaseのような暗号取引プラットフォームに事業登録を義務付けるプロセスが設けられ、加えて暗号スポット市場にまで商品先物取引委員会の権限が拡大されることになります。商品先物取引委員会は、監督する企業に手数料を課すことで収入を得ることが可能となります。
デジタル資産に対する税制改革
また、責任ある金融革新法は、デジタル資産の課税の定義を明確化する改正内容も導入しています。現在、暗号通貨保有者がデジタル資産を売却した際に、その利益に対してキャピタルゲイン税を支払う必要がある場合があります。たとえデジタル通貨が商品やサービスの購入のみに使用されたとしても、その取引はその資産の処分に該当します。暗号通貨の価値が高まり、デジタル資産の保有者が利益を得た場合、その保有者は税金を支払う義務がありますが、本法案は、少額の取引に対するこの税金を排除する可能性があります。
暗号通貨を決済手段として受け入れる業者が増える中、消費者がビットコインやイーサリアムを使うたびに課税されることがないような税制改革が必要となっています。そこで、責任ある金融革新法では、特定の条件下で商品やサービスの支払いに仮想通貨を使用する取引ごとに、200ドルまでを非課税の基準額としています。つまり、消費者は合計200ドル未満の商品やサービスを購入しても、キャピタルゲイン税が発生しないことになります。
Terra-ble問題の回避
TerraUSD(UST)の崩壊以前から、規制当局はステーブルコインが金融システムにもたらすリスクを懸念していました。
ステーブルコインは「暴落しやすく」、それを支えているとされる資産の透明性が十分でないと連邦準備制度理事会(FRB)は主張しています。そこで、本法案は、Terraコインのような事態が再び発生するのを避けるための規制を導入しようとしています。
具体的には、ドルなどの従来の金融資産に固定された暗号通貨であるステーブルコインの発行者は、そのデジタル資産を完全に裏付ける現金または現金に相当する準備金を維持することが必要になります。この、発行済み決済用ステーブルコインの額面金額の100%を準備金とする要件は、デジタル資産の崩壊をなくすことを目的としたものです。また、すべてのステーブルコイン発行者に対して、詳細な情報公開の義務付けも必要となります。
責任ある金融革新法の次なる展開は?
責任ある金融革新法が法制化されるには、まだいくつかのハードルを越えなければなりません。この法案は、証券取引委員会を監督する銀行・住宅・都市上院委員会と、商品と商品先物取引委員会を規制する農業・栄養・林業上院委員会で審理される予定です。
ルミス議員は銀行委員会のメンバーで、ギリブランド議員は農業委員会に所属しています。なお、本法案が、2023年1月23日の議会閉会までに成立する可能性は低く、選挙後に新議会が召集された際に再度取り上げられることになります。仮に本法案が成立しなかったとしても、これが将来の法案のベンチマークとなり、暗号業界統合のためのゲームプランを提供することができるでしょう。
以上から、本法案は、市場におけるデジタル資産を取り巻く法的不確実性を明確化し、新たな規制の枠組みを構築することを意図しているといえます。商品先物取引委員会と証券取引委員会は共に強力な規制当局であり、米国内の仮想通貨とデジタル資産を監督するためより多くの権限を与えられることになります。つまり、後者はデジタル資産を商品として規制し、前者は投資家保護を強化するために企業、経営者、証券を取り締まることになります。