「マージ4つのリスク」
開発者向けにブロックチェーンインフラストラクチャーを提供する米Coinbase Cloudは12日、暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)の大型アップグレード「マージ(The Merge)」に潜む、4つのリスクを指摘した。
大型イベントに際して想定される相場の変動とは別に、Coinbase Cloud以下の4点に関するリスクを解説した。
- 技術的リスク
- 運用リスク
- 経済的リスク
- クライアント多様性の欠如によるリスク
1つ目は技術的なトラブルが発生するリスクだ。
Coinbase Cloudは、コンセンサスレイヤーとエクスキューションレイヤーの2種類のクライアントがAPIを介して通信するマージは、「暗号技術的に最も複雑なアップグレード」だと考察。
マルチクライアントアプローチを採用したイーサリアムが、潜在的なバグや不具合の表面積が増加する可能性があると指摘した。
2つ目は運用上のリスク。イーサリアムの全てのノードオペレーターがアップグレードまでにソフトウェアを更新しておく必要があるが、対応忘れを含む人為的ミスが生じる余地がある。先週9日のイーサリアム開発者会議では、マージ直前のクライアントリリースについて議題として挙がっていた。
日本時間9月6日20時34分に完了したマージ前半の「Bellatrix」アップグレードでは、更新が間に合わないオペレーターの影響でブロック生成の失敗率が0.5%から9%に跳ね上がる事態も発生。
イーサリアムは3つのテストネットでマージをリハーサルしてきたが、Ropstenでは何者かが通常の20倍のハッシュを購入してBellatrixより先にTTD(Terminal Total Difficulty:期間中の合計難易度)に到達する事案も生じていた。そのため、クライアントをアップグレードした後、再起動して、新しいTTDを設定した経緯がある。
Coinbase Cloudは、莫大なTTDを要するメインネットではテストネットと同様の事態は起きないと留意しつつも、運用上のリスクについて以下のように指摘した。
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マージ成功のためには、クライアントチームとノードオペレーターが同じ段階にいることが重要だ。時間通りにアップグレードできなかった場合、Bellatrixのアップグレードで起こったような参加者の減少や、以前のTestnetマージ、シャドーフォーク(ストレステスト)中の事象が再現する可能性がある。
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経済的リスク
3つ目の経済的リスクに関して、Coinbase Cloudはチェーン分岐により誕生するETHWを取得するために、イーサリアム(ETH)の借入需要が急激に高まった結果、レンディング市場のETHの金利が急激に高騰するリスクを指摘した。
融資ポジションの清算処理に使用するETHまでもが市場から借り上げられると、ETH価格の急落時に「不良債権が生まれる可能性を高める」。Coinbase Cloudは、こうした状況を予防するため、DeFi(分散型金融)大手AaveなどはETHの貸出を一時停止していると補足している。
また、ETHWチェーン上で発生するUSDCを含むトークンが実際には価値を持たなくなることが予想される。そのため、PoWフォーク上で唯一価値を維持しそうなETHWだけを獲得するために、マージ前に「トークン+ETH」の流動性プールではなく、ETH借入やstETHでレバレッジをかけることにユーザーが集中する可能性があると加えた。
4つ目のリスクは、クライアントの多様性が欠如している点である。仮に一定のコンセンサスレイヤーのクライアントが66%を超える多数を占め、そのクライアントが何らかの理由で誤ったブロックを提案した場合、そのブロックが正当とみなされる恐れがある。
clientdiversity.orgによれば、コンセンサスレイヤーのPrysmクライアントのシェアは44%程度、Lighthouseは34%、その他で構成されるが、Coinbase Cloudはクライアントの多様性を重視しているとして、「すべてのクライアントが33%未満であることが望ましい」と加えた。
イーサリアム財団(EF)でエグゼクティブ・ディレクターを務める宮口あや氏もまた、クライアントの多様性がイーサリアムネットワークの健全性と分散化の鍵を握るとしてその重要性を強調してきた。EFは、これまで8以上のクライアント開発チームに助成金を提供している。
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