CEXからDEXへの構造転換
米大手金融企業JPモルガンは24日、暗号資産(仮想通貨)エコシステムで予想される今後の変化に関して、新たなレポートを発表。同社のアナリストはFTXの破綻にもかかわらず、中央集権型取引所(CEX)から分散型取引所(DEX)への構造的な転換には懐疑的だと述べた。
Major changes coming to the crypto industry in 2023 pic.twitter.com/qW6cHLyc6N
— Alex Krüger (@krugermacro) November 28, 2022
執筆者のNikolaos Panigirtzoglou氏は、仮想通貨取引全体に占めるDEXの割合がここ数週間で増加したのは「仮想通貨価格の暴落とFTXの破綻に伴うレバレッジ解消/自動清算を反映している可能性が高い」と主張。市場参加者のCEXに対する信頼低下については言及しなかった。
同氏は、大規模な取引を行う機関投資家にとって、DEXは取引速度の遅さ、取引戦略および取引量がブロックチェーン上で追跡可能であるなどから十分な対応ができないと見ている。「分散型金融 (DeFi)が主流になるには様々な障害がある」と述べ、次のように指摘した。
- 市場の価格発見機能 – DEXも主にCEXのデータを入手するオラクルに依存
- スマートコントラクトのリスク(ハッキングやプロトコル攻撃への脆弱性)
- 管理・監査・ガバナンスとセキュリティのバランス
- 担保が一定水準を下回ると自動清算されることによるシステミックリスク
- 伝統的な金融に対してDeFiの過剰な担保要件のデメリット
- DEXにおけるフロントラン
- 指値注文・ストップロス機能がないこと
- DeFiではリスクとリターンのトレードオフを評価することが困難
- 機関投資家が流動性プールへの資産のプール化を敬遠する可能性
以上のような理由から、「特に大規模な機関投資家にとって、当面CEXは仮想通貨エコシステムにおいて大きな役割を果たし続けるだろう」とレポートは結論づけた。
JPモルガン・チェースとは
JPモルガン・チェース(米ニューヨーク)は、総資産、収益力、時価総額で世界最大規模を誇る「総合金融グループ」。ブロックチェーンの開発も行っており、JPMコインという米ドルに価値が裏打ちされたステーブルコインも発行している。「Onyx」部門を中心として仮想通貨・ブロックチェーンにも注力していることで知られる。
▶️仮想通貨用語集
規制推進が加速
レポートはまた、FTXの破綻により、すでに進行中の規制イニシアチブが前倒しされる可能性を指摘した。
例えば、欧州連合による仮想通貨に関する包括的な法案「MiCA」は、年内に最終承認が行われる可能性が高いが、規制が発効するまでの移行期間(最大18ヶ月)が短縮されるような、圧力がかかる可能性があると述べた。
関連:欧州の大型仮想通貨法案MiCA、最終投票は2023年か=報道
また、仮想通貨規制の取り組みが欧州に遅れをとる米国だが、米国議会には複数の規制法案が提出されている。レポートは、テラの破綻に加え、今回のFTXの破綻により、監視と消費者保護の必要性に対する認識はさらに高まったとみられると指摘した。
米国では仮想通貨規制の管轄権をめぐって、証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)が争う局面も見られる。仮想通貨が証券と分類されるか、商品と分類されるかによって管轄権限が付与される機関が異なるためだ。
JPモルガンは、両機関の意見の相違は、FTXの破綻を受け「おそらくビットコインはコモディティに、その他の暗号通貨の大部分は証券に分類されることで埋められると思われる」としている。
関連:「イーサリアムは有価証券ではない」SIFMA年次総会でCFTC委員長が認識示す
新たな規制イニシアチブ
レポートでは、既存の規制の枠組みづくりに加えて、新たな規制イニシアチブが登場する可能性について言及している。
具体的には、カストディ(デジタル資産の保管と保護)、業務の分離(ブローカー/取引/融資/清算/カストディ業務)、準備金・資産・負債に対する定期監査などに対する規制をあげた。そして、このような規制は伝統的な金融システムから導入される可能性が高いので、「仮想通貨エコシステムの伝統的な金融システムへの収束」につながる可能性が高いと主張した。
仮想通貨デリバティブの規制
レポートは、「仮想通貨デリバティブ市場は、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が勝者となり、規制された市場へシフトする可能性が高い」と主張している。
その背景として、ヘッジファンドなどの機関投資家がFTXのデリバティブポジションで身動きが取れなくなったことを挙げ、先物・オプションともにCMEなど規制された市場へのシフトが進むと思われると説明した。
その結果、仮想通貨市場において、デリバティブ市場の監督権限を持つCFTCの役割が増大すると予想している。
関連:米CFTC委員「破産を免れたFTX子会社はCFTC監督下にある」