政府発行のトークン化債券
香港特別行政区政府は16日、8億香港ドル(約136億円)のトークン化されたグリーンボンド(環境債)の発行に成功したと発表した。この環境債は、政府のグリーンボンドプログラムに基づくもので、政府が発行したトークン型環境債としては、世界初のものだという。
グリーンボンドとは
グリーンプロジェクト(地球の環境問題解決に貢献する事業)の資金調達を目的とした債券。不正利用を防止するため、資金の追跡性(トレーサビリティ)と透明性が重視されている
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この環境債はグリーンボンドプログラムに基づき発行され、利回り4.05%の1年物。中国銀行(香港)、クレディ・アグリコル・CIB、HSBCとゴールドマン・サックスの四行からなるシンジケートが販売する。ゴールドマン・サックスがプラットフォーム(GS DAP)を提供し、香港金融管理局(HKMA)の中央金融市場部門(CMU)が、債券の精算・決済を行う。
HKMAの声明によると、発行された債券は、プライベート・ブロックチェーン(PB)上で、債券の受益権を表す証券トークンと香港ドルの請求権を表すキャッシュトークン間でDVP決済が行われた。また、クーポンの支払い、流通市場取引の決済、満期償還などの債券処理のプロセスもデジタル化され、PBネットワーク上で実行される予定だという。
PBネットワーク上のオンチェーン記録は、証券トークンとキャッシュトークンの所有権に対する法的に確定された最終的な記録と見なされる。
HKMAは、今回の環境債発行から学んだ経験をホワイトパーパーにまとめ、香港におけるトークン型債券発行の青写真として提供する予定だという。
国際決済銀行との共同プロジェクトがベース
今回のトークン型環境債発行は、国際決済銀行イノベーションハブ(BISIH)とHKMAが共同で行った「プロジェクト・ジェネシス」の成果に基づいている。BISIH香港センターは2021年から、ブロックチェーン技術で債券をトークン化することで、個人投資家向けに少額単位で発行されるトークン型グリーンボンドの可能性を探っていた。
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HKMAのEddie Yue最高経営責任者は、「分散型台帳技術(DLT)は、金融市場運営に革命を起こす可能性が期待される」として、次のように述べた。
トークン型環境債の発行は、債券市場における分散型台帳技術(DLT)の導入と、その可能性を最大限に引き出すことを推進する上で、重要な一歩となる。
また、HSBC香港のLuanne Lim最高経営責任者は、今回の環境債の発行は「資本市場の革新に向けた重要な一歩であり、債券発行および資産管理プロセスにおいて、トークン化が持つ変革の可能性を示すものだ」と述べている。
政府の仮想通貨政策と規制の進展
香港政府は昨年10月、国際的な金融拠点として、イノベーションに積極的な暗号資産(仮想通貨)関連企業を誘致するとともに、金融当局と連携して法整備を整えていく方針を発表した。
政府による仮想通貨支援推進の一環として、e-HKDの導入をはじめとする三つの実証実験プロジェクトが開始されたが、トークン型グリーンボンドの発行はその一つであり、今回、正式に債券発行が実現した形だ。
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政府の方針を受け、香港では仮想通貨規制も大きく前進している。
香港の立法会(議会)は昨年12月、仮想通貨サービスプロバイダー(VASP)のライセンス制度を導入する法律を可決した。新たな規制では仮想通貨取引所に、顧客資産保護のための内部統制、適切なカストディアンの手配、サイバーセキュリティなどを義務付ける。また、記録保持や顧客確認などについての要件も課す。
香港証券先物委員会(SFC)のJulia Leung Fung-yee CEOは1月11日、香港当局が個人投資家に仮想通貨取引を認めるための規制整備を行っていると発言。個人投資家が仮想通貨取引可能な銘柄や条件、および取引プラットフォームのライセンス要件などについての協議書をSFCが今四半期(1~3月)中に発行する予定だと述べた。
さらに金融管理局は1月31日、仮想通貨とステーブルコインの規制に関する方針を発表。主にステーブルコイン関連で規制対象となる活動や、包括的な規制枠組みを示した。
Paul Chan財務長官は先月、香港は仮想通貨の中心地になることを目指すと発言。今回のトークン型グリーンボンド発行について、以下のようにコメントした。
香港は金融分野における革新的な技術の応用を積極的に推進しており、金融取引の効率性、透明性、安全性を高めるための新しいコンセプトや技術を積極的に研究している。香港政府は、今後も金融市場の革新的な発展を推進していく。