CBDCの複数通貨取引に関するレポート
国際決済銀行(BIS)は6日、複数の中央銀行と共同で行った、中央銀行デジタル通貨(CBDC)クロスボーダー取引についての実験結果を報告。その利点や各CBDCシステムに必要な要件、今後の検討事項を説明した。
これはBISイノベーションハブが、イスラエル銀行、ノルウェー銀行、スウェーデン国立銀行と協力して実施したものである。目的は、CBDCの国際決済に使用する技術をより深く理解し、CBDCをどう実装するか設計する際に、中央銀行が考慮する必要がある技術的・政策的な選択肢などを探ることだった。
BISイノベーションハブ北欧センター所長のBeju Shah氏は、次のように説明している。
このプロジェクトは、各国のCBDC間のクロスボーダー・クロスカレンシー決済を、最小限の要件で実現し、それらの間の統合と相互運用性を可能にする方法を実証した。
透明性の向上、コストの削減、競争の促進など、日常のユーザーにもたらす恩恵も実証した。リテールCBDCにはさらに多くの作業が必要だが、このプロジェクトから学んだことは、各中央銀行にとって非常に価値あるものとなるだろう。
CBDCには、銀行間決済に用いるホールセール型と、主に消費者などリテールユーザーが使うリテール型がある。今回のプロジェクトでは、リテール型がテストされた。
また、今回のモデルでは取引を2つに分割し、それぞれの取引を、両国の外国為替(FX)業者が仲介して国内で行うという方法を採用した。このことで、中央銀行は自国のCBDCをほぼ完全に管理できる。エンドユーザーに最良のレートを提供する仕組みも備える。
CBDCとは
各国・地域の中央銀行が発行するデジタル化された通貨を指す。「Central Bank Digital Currency」の略である。仮想通貨との大きな違いは、CBDCは法定通貨であること。通貨の管理や決済等においてコスト削減や効率性向上が期待できる一方で、個人情報やプライバシーの保護、セキュリティ対策、金融システムへの影響など考慮すべき課題は多い。
▶️仮想通貨用語集
CBDC国際決済の利点や要件
レポートによると、CBDCによるクロスボーダー決済の主な利点は以下のものだ。
- 国境を越えた相互運用性を実現。異なる技術によるシステム同士が標準化された方法でやり取り可能
- 決済リスクとカウンターパーティーリスクを軽減
- 拡張性があり、多くの国のシステムを簡単に接続可能
- 取引コストが低く、取引完了まで数秒とスピーディ
また、このような機能を実現するためにCBDCが持つべき要件としては以下のようなものがあると続ける。
- HTLCベースの条件付決済を実行できること
- 取引スピードを最大化し、タイムアウトによる決済失敗を最小限に抑えるために、年中無休で、リアルタイムあるいはそれに近い状態で動作すること
なお、HTLCは、Hashed Timelock Contract(ハッシュド・タイムロックコントラクト)の略。ブロックチェーンで使用されるスマートコントラクトの1種。カウンターパーティーのリスクを軽減する仕組みを持つ。レポートは、HTLCに代わるモデルを検討することもできると補足した。
レポートは、政策面などで今後考慮すべき事項についても挙げている。政策面では、ガバナンスの取り決め、流動性の提供、ユーザーのプライバシー、マネロン・テロ資金調達対策、決済関連の国際基準などがある。
また、法律面では、CBDCを処理する中心事業者に関する法的根拠、異なるCBDCシステム間で法律や規制がかみ合わない可能性などの課題を挙げた。技術面では、CBDCシステムの参加者に対するレジリエンス(危機の際の回復力)の要件などについて考慮すべきとしている。