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バイナンス幹部が語る、日本の仮想通貨市場の課題・規制の取り組み・IPOの可能性【独自取材】

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

バイナンスに独自取材

大手暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンスで地域市場責任者を務めるヴィシャル・サチェンドラン氏は、10月にCoinPostの独自取材に応じた。

同氏は2022年2月にバイナンスに入社し、2023年12月から現職に従事。金融や規制において20年以上の勤務経験がある。

バイナンスの前は、金融大手BNYメロンのグローバル顧客管理部門でシニアアソシエイトを5年超務め、アブダビ・グローバル・マーケット金融サービス規制庁(FSRA)ではシニアマネージャーを務めるなど6年超勤務した。

サチェンドラン氏には、8月のWebXカンファレンス後の関連取材として、規制に関する取り組みや日本市場などについて質問。日本に関する内容は、バイナンスジャパン代表の千野剛司氏にも質問に答えてもらっている。

規制について

バイナンスの取り組み

まずはバイナンスの規制に関する取り組みについて、これまで実現してきたことや今後の計画を聞いた。

実現したことについてサチェンドラン氏はシンプルに、これまで20の事業ライセンスや登録を行ってきたと回答。そして、各国・地域で暗号資産に対する考え方や規制のルールが異なり、バイナンスが所有する20の認可も全てがそれぞれ微妙に異なっていると説明した。

出典:バイナンス

一方、欧州のMiCA(暗号資産市場規制)法は、1つのライセンスで欧州の国々で事業が行えることが暗号資産にとってゲームチェンジャーだと話している。

サチェンドラン氏は、各地域で異なる規制に対応するには、その地域の市場に詳しい人材が必要だが、その確保は容易ではないと説明。今後、新しい市場へ進出するには、需要や規制環境における課題のみならず、優秀な人材をいかに確保するかという課題に向き合いながら検討していく必要があると語った。そして、なにより認可の取得は戦略的であるべきだと話している。

また、暗号資産を禁止している地域については、まずはより包括的な視点から検証してもらえるように取り組んでいると語った。

バイナンスの組織

規制について話す中で、サチェンドラン氏は、コンプライアンスを遵守することにバイナンスが多く投資を行っていると話している。コンプライアンス部門だけでメンバーが世界には550名超いて、2024年内には約700名まで増やす計画だと説明した。

また、Europolなどの国際的な捜査機関における勤務経験を有する専門家から構成される、バイナンスの金融犯罪部門の存在も非常に重要だと語っている。このチームは、各国の多くの法執行機関に向けたトレーニングを行ったり、情報照会に迅速に対応していると明かした。

さらに、教育や啓発活動の取り組みにも注力していると説明。教育はバイナンスのためだけでなく、ユーザー、規制当局、政治家、法執行機関にとっても重要であるとの認識を示している。

そして、バイナンスは、金融犯罪の被害を未然に防止するために最も大切なのは一人ひとりの金融リテラシー向上だと考えているため、教育コンテンツやセミナーなどの取り組みを通じて継続的に支援していくと説明した。

取り組みの成果

規制面においてこれまでの取り組みにおける重要な節目は何かと尋ねたところ、これはバイナンスが達成してきたこと全てだと回答。そして、特にこの2年半から3年の間で、バイナンスに対する社会の認識を大きく変えることができたと話した。

サチェンドラン氏は、規制当局やパートナー企業との協業に日々取り組んでいることが認識の変化をもたらすことにつながったと説明。足元では、ユーザー数の増加ペースが非常に速くなっていったとも語っている。

また、ETF(上場投資信託)が各国で認可されたり、企業らが資産として暗号資産を購入したりして、暗号資産に対する人々の見方も変わってきていると指摘。従来の大手金融機関の参入が加速するなどしている現状が、バイナンスに対する見方が変わることに寄与しているとも語った。

さらに、暗号資産の規制整備をする国が増えてきていることも非常に重要だと主張。政府も暗号資産を無視できなくなってきているのではないかと話している。

サチェンドラン氏は、人々は以前は暗号資産を「ギャンブル」などと好きなように呼んでいたが、バイナンスは今、金融サービス企業としての地位を確立したと語っている。

犯罪利用に関する指摘

今回の取材では、バイナンスを含む暗号資産取引所が犯罪者に多く使用されているのではとの指摘があったことについても質問した。

サチェンドラン氏はこの点について、マネーロンダリング全体で暗号資産が使用された割合はたった1%未満で、しかも2023年は0.34%まで減っているというデータを引用。金額にすると242億ドルだが、参考までにNASDAQが発表したレポートによると2023年に世界の金融システムに流れた違法資金の総額は3.1兆ドルであり、金融犯罪は法定通貨が依然として主流であることを指摘した。また、2023年に暗号資産を使ったマネーロンダリングが減少した背景については、バイナンスを含め業界全体で様々な努力が行われてきた成果だと説明した。

出典:バイナンス

加えて、ブロックチェーンは透明性が高く、犯罪者は身元を隠すことはできないと説明。そして、取引を追跡するツールが世界で使用されていると語った。

バイナンスはこれまで数多くの法執行機関の捜査に協力しており、その姿勢は今後も継続すると説明。また、金融犯罪についてバイナンスと各国で連携して捜査協力ができる体制が整っていると明かしている。

そして、今年についてはこれまで約7,300万ドル相当の盗難資金を回収もしくは凍結し、詐欺については24億ドルの被害を未然に防いだとも話した。

企業の取り組みについて

バイナンスの最優先事項

現在、バイナンスにとっての最優先事項は何か質問すると、サチェンドラン氏は、リチャード・テン氏がCEOに就任して以降、主に3つのことを重視していると述べた。

まず1つ目は規制対応。すでに規制の枠組みがある地域だけでなく、新しい市場においても対話および連携を重要視していると説明している。こういった地域は暗号資産が広く普及していることがあるため、イノベーションを推進するようなルールが整備されることを願うと期待を示した。

そして、人々がリスクを正しく理解して軽減できれば、暗号資産は健全に発展し、地域や経済も恩恵を受けたり、金融サービスの効率性が向上したりすると話し、そのために規制当局と密に連携すると語った。

優先事項の2つ目はユーザー。これからも信頼を獲得できるように努め、優れたプロダクトを提供するにとどまらず、教育に取り組んでいきたいと話している。そして、現在のユーザー数である2億3千万人という数は、バイナンスにとってはまだ少ないとし、さらに拡大していく意欲を見せた。

3つ目はパートナー。世界の銀行をはじめとした金融機関やカード会社などと、協業していくことを重要視していると語った。そして、暗号資産は悪者にされることが多いが、暗号資産がもたらし得る経済的・技術的な利点を理解しているパートナーとの協業のおかげで社会的認知が大きく変わってきていると話している。

プロダクト開発

バイナンスのプロダクト開発がどのように変化しているかを質問すると、サチェンドラン氏は、今ユーザーが何を望んでいるかと、どんな商品を規制当局が認可しているかの両軸で検討すると答えた。

また、バイナンスのプロダクトチームは非常に効率性が高く、プロダクトの構想段階から実際の提供開始までスピーディに開発できる実行力を持ち、とても優れたチームであると説明。他の業界では見たことない速さでプロダクト開発を行っていると語っている。

IPOについて

今回の取材では、バイナンスがIPO(新規株式上場)を行う計画があるのかも質問した。

この質問に対しサチェンドラン氏は、未来のことは予測できないと前置きした上で、現時点ではIPOの計画はないと回答。そして、もちろん様々な状況によるが、現在財務状態は非常に良好であることから出資は不要であり、グローバルなガバナンスモデルに問題はなく、現状に満足していると語っている。

新市場への参入

日本国内においては、バイナンスはサクラエクスチェンジを買収することで日本に市場参入したため、バイナンスの通常の参入方法はどのようなアプローチなのか、日本市場は独特だったのか、今後も買収の予定はあるかを質問した。

サチェンドラン氏は、日本以外にも1-2社を買収した事例があるとし、それは東南アジアの企業だと説明。市場の成長が速い場合は、参入するための最速の方法が買収になることがあると話している。

ただ、買収して運営者を変更するのは容易ではないとし、個人的には自身でライセンスを申請する方を好むと語った。

また、日本はバイナンスにとって重要な市場であると強調した。世界的に見て最も大きな市場の1つであり、暗号資産ユーザーに順応性があるとの見方を示している。

日本について

事業の課題

暗号資産のユースケースについて話す中で、日本のユーザー動向について千野氏に質問した。

この時に千野氏は、日本にはすでに高度に発展した決済システムがあり、「ペイペイ」などのすでに浸透している決済手段から暗号資産に移行してもらうのは非常に困難だと語っている。

また、暗号資産を決済に使うと税金の申告が必要になるという参入障壁を指摘。多くの人々が決済のために税金の申告を行うのは現実的でないと語った。

千野氏は、例えば一部のアフリカ諸国のように銀行のサービスを利用できない人々が多くいる地域とは事情が異なり、日本で近い将来に暗号資産による決済が普及するとは考えづらいと話している。

一方で、暗号資産の普及が進んでいけば、いつかは暗号資産による決済に対する需要が高まる可能性はあると期待を示した。

ステーブルコインの役割

千野氏は他にも、日本のWeb3エコシステムにはステーブルコインが欠けていると課題を指摘した。銀行口座からバイナンスのアカウントに日本円を送金し、暗号資産に交換するのは手間がかかる作業であると話している。

ステーブルコインを使用できるようになれば、銀行を経由する手間を考えなくてよくなり、すべてがブロックチェーン上で行えると主張。日本のユーザーが本当の意味でブロックチェーンを活用するのであれば、ステーブルコイン機能は必須であると語った。

そして、バイナンスジャパンはパートナーと協業しており、規制の要件を満たした上で、2025年にはステーブルコインのサービスを提供できる予定であると話している。

暗号資産市場

今回の取材ではサチェンドラン氏から千野氏に対し、日本の暗号資産市場は現時点では規模が小さく、個人投資家の市場規模は中国や韓国らの国よりも小さいと感じており、投資家が利益を得るには改革が必要だと思うが、今後どのような変化を予想しているかとの質問が上がった。

この質問に千野氏はステーブルコインの導入や税制の改革に加え、ETFの必要性を訴えている。そして、どのようにしたらETFをローンチできるのか、いつ提供できるのかが、規制当局を交えて積極的に議論されていると話した。

ETFがローンチされれば、株式などの伝統金融市場に馴染みのある投資家が暗号資産市場に参入する可能性があると千野氏は主張。そうなれば暗号資産自体の取引が減少するのではとの声も一部あるが、ETFとその原資産は強く結びついており、両方の流動性が高まると自身は考えていると語った。

サチェンドラン氏と千野氏

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