- 米SECとFINRAが「ライセンス承認待ち」に対する共同声明を発表
- 米国におけるブローカー・ディーラー業ライセンス取得に膨大な時間がかかっていることに対して、承認機関であるFINRAおよび規制を行う政府機関SECが共同声明を発表。投資家保護の観点を強調した。
米SECとFINRAが異例の共同声明を発表
米国において仮想通貨関連企業のブローカー・ディーラー(売買仲介業)ライセンス登録の承認が遅延していることに関して、米証券取引委員会(SEC)と自主規制機関である金融取引業規制機構(FINRA)が共同で声明を発表した。
共同声明発表は日本時間9日、SECの取引・市場部門およびFINRAの法律顧問室より発表された。
声明では、カストディ業務を含むデジタル資産を扱う企業による、①「ブローカー・ディーラー業ライセンス」申請の承認を行う際および、②取り扱うデジタル資産が【1970年の証券投資家保護法】が定める有価証券の定義に乗っ取っているかを判断する際に、当局がどのような要因に考慮するかという懸念点について言及された。
証券の損失や盗難に関する法律や慣行のおかげで、ブローカー・ディーラーが消費者保護法に準拠できるようになる。(その法律や慣行は)特定のデジタル資産の場合では実施可能でないかもしれないし、有効ではないかもしれない。
なお、「デジタル資産」と、「デジタル資産証券」との2つのワード散見しており、SECの仮想通貨に対するスタンスがより明確になっている。
投資家保護の観点を強調
声明の中で強調されている点は、実にシンプルである。
個人投資家が消費者保護法の名の下に、損失や盗難などの危険に晒されるリスクをどのように扱っているか、という点に収束される。法律自体は複雑だが、規制当局の意図を汲み取ると途端に単純化する。
デジタル資産(ここで問題になっている仮想通貨)と従来型の紙の証券の違いはそれが物理的に何に書き込まれているかの違いはあれど、カストディにおける証券という性質では大きな違いは無いとされている。
証券が紙であろうがデジタルであろうが、ブローカー・ディーラーの財務責任に関しては基本的に同様の要素が適用される。
その上で、申請の承認が滞っている原因は、仮想通貨の資産としての特異性だ。本来、投資家保護の大前提となるのは、有事の際にしっかりとお金が返ってくるか、という点である。
消費者保護法では、ブローカーディーラーは顧客資産を保管・保護し、会社資産と分離して保管することを義務付けているため、ブローカーディーラーが失態を犯した際にも、顧客の賞金や現金は返却されることが多い。
しかしながら、仮想通貨の特性を考えると、デジタル資産の損失の原因は、秘密鍵がなんらかの理由で流出することであり、さらにその取引が不可逆であるということである。
すなわち、保護している顧客資産が秘密鍵の流出によりなくなる可能性があり、かつ一度資金洗浄をされるとその資産を取り戻すことが極めて困難だということだ。
これはすなわち有事の際に補償を適切に行える状態を作っておく、ということを難しくする懸念点だ。
先月中旬に現在FINRAからの承認待ち企業はベンチャー企業も含めて40以上にも渡り、それらは数ヶ月以上も待っている状態であるということが明らかになった。中には14ヶ月以上も待っている企業も何社か存在するとも言われている。
このような状況に対してFINRAは、「証券市場におけるイノベーションを奨励し支援しており、デジタル資産証券の市場が発展するにつれて、投資家および業界関係者との継続的に関わっていけることを期待している」と述べ、あくまで事業をストップさせているわけではないことを強調している。
40もの企業が事業展開において足止めを強いられている状況下では、「金融規制当局が意図して事業を行わせないようにしている」との噂もあった。そのような状況に対して、否定する目的も今回の声明にはあったのだろう。
ノンカストディ業務の申請承認の可能性示唆
実際に、「一部の事業体は、カストディ業務に従事していないデジタル資産証券を含むブローカーディーラー業務を行なっている」ことを認識しており、そのような事業体に関しては法律の適用レベルを下げる必要があると指摘している。
以下がそのようなノンカストディである事業の例である。これらの共通点は顧客の資産を事業者が直接管理しない点にある。
- 私募取引市場(⇄公募)
- OTCのセカンダリー取引市場
- 代替取引システム(ATS)
今回の声明は、FINRAの承認待ちに対して痺れを切らす事業体に対して、その理由を「明確に」説明している。ここで言う「明確に」とは、彼らの立場を考えると、非常にもっともらしい答え(投資家保護的観点)であるからだ。
しかしながら、事業体としては、数ヶ月承認待ちの状態で宙ぶらりんになっていると言うのは簡単なことではない。特に、申請通貨を目論む事業体はその準備として、弁護士を雇用したり、カストディ業務を行う資金を用意したりとその投資はとても大きい。
ましてスタートアップの場合、資金力が限られる中での支出の拡大は、大きな痛手だ。日本における「仮想通貨交換業登録」にも同じようなことが言えるが、産業発展を止めないレベルでのスピードと健全な市場整備の両立がより要求される。
今回の声明が、今後の承認待ち状況をどのように改善するのか。注目が集まる。