- テザーの疑惑に一歩
- 6月20日、テザー社 (Tether Limited) は、ついに第三者による、USDTの米ドルによる裏付けに関する報告書を発表した。「透明性の最新情報」と題し、テザー社の一連の疑惑に対する弁明と同社の立場を表明した声明の中に含まれている。
- Tetherとは
- その性質上、仮想通貨売買における基軸通貨の一つとして扱われている。 米ドル(USD)や日本円(JPY)等の法定通貨と連動した価値を持っており、基本的に「1USDT≒1USD」の図式が崩れることはない。同額のUSDが担保されていない可能性も浮上している。
テザー疑惑に大きな進展
ビットコインだけではなく、仮想通貨全般への信頼を大きく揺るがす「テザー疑惑」。
最悪の場合、仮想通貨市場の崩壊にも繋がりかねないと指摘されている重大な問題ですが、半年近く真相が解明されないまま、大量のテザー(USDT)が次々と発行され、一方で価格操作の可能性を示唆する論文が発表されるなど、疑惑は膨らむばかりでした。
そんな中、疑惑のうちの一つへの答えとして6月20日、テザー社 (Tether Limited) は、ついに第三者による、USDTの米ドルによる裏付けに関する報告書を発表しました。
この報告書は、ワシントンDCに拠点を置く有力弁護士事務所、Feeh Sporkin & Sullivan LLP (以下、”FFS”と表記) によるもので、「透明性の最新情報」と題し、テザー社の一連の疑惑に対する弁明と、同社の立場を表明した声明の中に含まれています。
報告書では、2018年6月1日時点における、市場に出回っているUSDTの総量と、テザー社所有の二つの銀行口座における、同日の米ドル保有残高を証明しています。
6月1日終了時のUSTDの市場流通総量(テザー社提供:$2,538,090,823.52 USDT
銀行口座1:$1,968,538,584.82 USD (担保権なし)
銀行口座2:$ 576,528,652.00 USD (担保権なし)
合計:$2,545,067,236.82 USD
この審査をもとに、FFS弁護士事務所は、結論として次のように述べています。
「FFSは、テザー社の担保権のつかない資産が、2018年6月1日の時点で流通している、完全に裏づけられたUSDTの残高を上回っていることを確信している。」
FFS弁護士事務所は、「元FBI長官を含む3人の元連邦裁判官によって設立され、米国政府で数十年間にわたる最高レベルでの裁定経験を持ち、ガバナンス、コンプライアンス、ビジネスの公正性に関する事項について幅広い知識と国際的な経験を持つ」、有力な弁護士事務所であることは確かなようです。
現状の次善策
しかしこの報告書は、公認会計事務所による正式な監査の代わりを果たすものではなく、あくまでもテザー社も認めているように、現時点で考え得る”次善策”だと言えます。
さらにこの報告書には、多くの但し書きがあり、「6月1日の残高」に対する証明に限られており、それ以前またはそれ以後、テザー社が発行されたUSDTに対する引当金を担保していることは保証していません。
テザー社の相談役であるStuart Hoegner氏によると、主要監査法人にとって、デジタルコインを提供する企業を顧客に加えるには、仮想通貨市場はまだ未熟すぎると考えられているそうです。
Bloomberg紙の電話インタビューに対し、Hoegner氏は、「(アメリカの)四大監査法人は、そのようなレベルのリスクは受け入れ難いとみなされている」ため、「結論から言うと、監査を受けることができない」と、テザー社の置かれた状況に対するジレンマを語りました。
またテザー社は声明の中で、最近の同社に対する厳しい一連の報道により、今までいかに一般への情報提供の努力が足りなかったかという事実に、改めて気づかされたと述べています。
さらにUSDTは、同社により米ドルの裏付けがなされていることを確かな事実であるとする揺るぎない立場を繰り返し表明し、それが証明された事実は歓迎する一方、今回の報告書の公開は、テザー社の透明性に対する努力の証の始まりにすぎず、これからも疑念を晴らすべく、社会一般へより開かれた情報公開を行っていくと述べています。
疑念を払拭させるためには
今回の発表により、USDTに対し、米ドルの裏付けがある程度証明されたものの、テザー社に対する疑念が完全に晴れたわけではありません。
同じ経営陣による仮想通貨取引所、Bitfinexとの癒着問題、両社によるビットコイン価格操作疑惑は、依然として解明されてはいません。
変動の激しい仮想通貨の中で、法定通貨ドルと連動し、高い安定性を持っているUSDTの市場での需要は高く、市場で独占的な地位を占めるテザー社ですが、油断は禁物です。
仮想通貨業界は、常に前進していることを忘れてはなりません。
先月、ニューヨークで開催された「Consensus 2018」で、大手仮想通貨取引所Poloniexの買収でも知られる仮想通貨投資スタートアップのCircle社が、マイニングハードウェアメーカーBitmainなどの約120億円の出資を受け、新しい米ドルに裏付けされ、米ドルと価格が連動する安定通貨「USD Coin」の開発を発表しています。
「交換取引と価値の保存で利用できる安定価値を持つ媒体」の提供を目指し、今年の夏に、詳しい内容を記したホワイトペーパーを公開する予定だと報じられています。
仮想通貨業界の健全な発展のため、テザー社の運営の透明性向上が望まれるとともに、「一握りの選ばれた”門番”だけではなく、全ての人に開かれ、共有され、受け入れられ、分配され、そして力強い世界経済の未来」という、Circle社が目指す時代が来るように、更なる開発へ切磋琢磨する業界であって欲しいものです。