ブロックチェーン用語を日本語にしてみる
6月13日(土)、仮想通貨・ブロックチェーン業界関係者と専門家を主体に「ブロックチェーン用語を日本語にしてみる」イベントがオンライン開催され、有識者による建設的な議論が交わされた。
2日に行われた財政金融委員会での音喜多議員の質疑を受け、麻生大臣が「”暗号資産”という名前は怪しげに聞こえる、ステーブルコインでなく、他のわかりやすい名称を考えたら?」などという指摘を受けたものだ。
【特別企画:ブロックチェーン用語を日本語にしてみる】
— d14b – オンラインブロックチェーン勉強会 (@d14bio) June 3, 2020
財政金融委員会での麻生大臣から「ステーブルコインでなく、他のわかりやすい名称を考えたら」という発言をうけての、全員参加型のイベントです。
ゲスト:仮想NISHI @Nishi8maru さん
日時:6/13(土) 20:00-21:00https://t.co/cMR6M6QwP9
関連:仮想通貨証拠金倍率と税制について音喜多議員が質疑 麻生大臣らは難色を示す
イベントを主催したd14b(decentralized lab)は、「ブロックチェーンの間口を広げる」ことを目的に勉強会を行なっている教育団体。 ブロックチェーン業界外の方々に興味を持って頂くため、「初学者にとってわかりやすいこと」を第一にしている。
本イベントのモデレータは、日本暗号資産市場株式会社の責任者である「ようすい(@aplpsd )」氏、ゲストはクリプトアナリストの「仮想NISHI(@Nishi8maru)」氏が務めた。
イベント冒頭、音喜多議員は「暗号資産(仮想通貨)について国会で取り上げたことがきっかけで、このようなイベントが開催されることを喜ばしく思っている。世の中のイメージ(先入観)を変えるために重要なブレスト会議。」だと言及した。
イベントでは、以下5つのテーマに関してさまざまな観点から挙がった意見をもとに議論が交わされ、審査員と会場の投票が行われた。いくつか抜粋して紹介する。
- 暗号資産
- ステーブルコイン
- トークン
- ステーキング
- ブロックチェーン
暗号資産(仮想通貨)について
金融庁は、今年5月に施行された「改正金融商品取引法」に伴い、仮想通貨の呼び名を「暗号資産」に改めた。日本円やドルなどの法定通貨と誤解されるおそれがあるほか、20カ国・地域(G20)会議などの国際会議での「国際的な動向等を踏まえた」としている。
しかしながら、すでに長い時間をかけて「仮想通貨」という用語が定着しており、「暗号資産」は一般認知・浸透されていないのが実情だ。
メディア枠として本イベントの審査員を務めたコイン東京は、Google検索キーワード数で「30倍近い差がある」と言及。CoinPostも日本経済新聞などのマスメディア同様、用語の普及率やSEO対策などの観点から「暗号資産(仮想通貨)」と併記した上で、「仮想通貨」を使わざるを得ないという見解で一致している。
以下、業界関係者と専門家の見解を紹介する。
民法学の視点から「暗号資産」と「暗号通貨」の違いについて解説したい。
ブロックチェーンは、将来的には暗号通貨以外の使い方も考えられ、暗号的な財産としての拠出もあり得る。現時点では、学会でも通貨としての性質で捉えており、資金決済法や金融法の概念に近いものとして考えられている。
しかし、将来的に「暗号資産」としての財産性が認められた場合、「暗号通貨」のままでは法律上の定義がないという状況になりかねず、他国に後塵を拝するおそれがある。
そのため、「通貨」の側面だけでなく、「財産性」を捉えて議論していただければ。
言葉の定義として、「暗号資産」は、それほど間違っていないとは思う。「暗号」という表現にネガティブなイメージがあるとすると、あえて言うなら「電子資産」がいいのでは。
法律家視点では「分かりやすさよりも、法律的なところをしっかりした方がいい。通貨ではないところに持っていく視点も必要。
一方で、一般層への普及の観点からは、難解かつ厳密な法的な定義よりも「わかりやすさ、覚えやすさ」が重要(専門用語を定着させるため、ある程度妥協せざるを得ない)とする意見も根強い。市場流動性を高め、新規利用者の流入を望むためにも、まずは業界や用語を「認知」してもらうことが必要不可欠であるからだ。
呼びやすさや怪しさを排除するという観点では、以前加納CEOが提案した「デジタルコイン」はいいのでは?
一般の人への浸透を考えると、「デジタルコイン」や「スマート資産」という呼称も有りではないか。
ステーキングについて
まずは、正しい理解について説明したい。
マイニングとステーキングは、「対」となる双子のような仕組みだ。
マイニングは、ハッシュパワーが速い者ほど新しいコインが生成されやすい。一方でステーキングは、持っている保有数に応じて報酬がもらえるため、株式の配当に近いという性質もある。
関連:仮想通貨ステーキングとは|初心者でもわかる「報酬」の仕組み
ブロックチェーン教育サービス(PoL)を提供している身からすると、明確に「配当」とか「報酬」ではないと考えている。
では、ステーキングはなんのために存在するか?というと「ネットワークのセキュリティ性能を高めるため」に存在している。 今回挙げられた選択肢だと、消去法で「デジタル預託」になる。より正しく表現するのであれば「セキュリティ○○」となりそうだ。
配当という言葉を使ってもいいか?という観点だと、米自主規制団体「プルーフオブステークアライアンス」が今年5月に「配当」、「利回り」などの金融用語は使わないようにというガイダンスを出している。
POSAがPoS事業者に対する独自規制のガイダンスを制定。
— Tomohiro Tagami / 田上智裕 (@tomohiro_tagami) May 16, 2020
・投資アドバイスを行わない
・「利益」「配当」「利回り」といった金融用語は使用しない
・ネットワークのセキュリティを重視
・プロトコルの透明性を担保
・獲得報酬額を保証しないhttps://t.co/H1WU38Slwl
ブロックチェーンについて
勘違いしやすそうなところを説明したい。
それは「分散」というキーワードだ。「分散」は、Winnyなどの怪しい言葉を連想する。ブロックチェーンは確かにサーバーが分散しておりどのようにコンセンサスアルゴリズムを取るかはブロックチェーンの主要要素ではあるが、ここは本質ではない。
重要なのは、もう1個の分散で、バラバラに「秘密鍵」を持っている点が非常に画期的なところ。
デジタル的なシステムなのに、特権IDがない。誰一人として全てを把握することは不可能。 権限が分散していることが、ブロックチェーンがブロックチェーンたる所以だと考えている。
ブロックチェーンの分散は、「Winny」とは違い、権限そのものが分散している。これは、国家だろうが犯すことはできない究極の民主主義だ。次世代の礎になる技術ではないかと感じており、私がmiyabi含め開発をしている理由。
フリートークの時間でも、視聴者から寄せられた質問に対して議論が白熱。日本学術振興会の森氏が、「暗号という言葉がなぜ大事なのかというと、認証技術自体が、暗号技術の応用から発展しているから。」と言及し、bitFlyer Blockchainの小宮山氏は、「ブロックチェーンには、いわゆる暗号は使わず、電子署名とハッシュ関数しか使っていない。署名(ハンコ)的な言い方がいいのでは?」との見解を示した。
これに対し、仮想NISHI氏は、「”暗号”は怪しいと思われがちで、”署名”は用語としてあまり一般的ではないのが気がかり。(直感的なわかりやすさを重視した)特別賞では、ハンコラリーとサトシネットで迷ったほどだ。」などと言及した。
結果発表
審査員票と、会場票を入れた投票結果は以下のようになった。
運営です。修正の連絡をさせていただきます。
— TAAKE (@taka4198aq) June 14, 2020
トークン= × スマート商標、スマート帳票(賞状)
〇 スマート証票
です。自分が作った賞状でミスしておりました。お詫び申し上げます。元データですが、スマート証票ですので、ご確認いただければ幸いです。 pic.twitter.com/US0CYvhuQ6
審査員と会場票の最終投票結果はこちら。(CoinPostは各務代行)
— CoinPost -仮想通貨情報サイト-【iOS版アプリリリース】 (@coin_post) June 13, 2020
一般層への認知・普及の観点で専門用語を考えた時に、法的な厳密な定義より、わかりやすさ重視で投票してみました。 https://t.co/UNfwWmC22z
音喜多議員は、イベントの最後に以下のように述べ、期待を示した。
私としては、「ブロックチェーン」のところが特に興味ある。審査員の中でただ一人、「非中央集権型堅牢情報技術」に一票投じた。
なぜなら、「中央集権」を打ち破る技術がブロックチェーンであり、私はそこに一番惹かれて、仮想通貨・ブロックチェーン関連政策に携わっているからだ。麻生大臣に伝えて欲しいということだが、今の政治家は、権力の源泉である「中央集権」を手放したくない。
しかし、これを突き破る技術がブロックチェーンであり、既得権益の権力者がいなくても「自立分散型の社会を作っていけるんだ」というのが肝。 本質をついた考え方・捉え方ができる世の中になればいいなと考えている。
各分野の専門家が集い、それぞれの立場や観点から有意義な議論が交わされた本イベントであるが、暗号資産(仮想通貨)にも精通する長瀬弁護士(@TN98118032)は、本イベント視聴後、以下のような感想を寄せている。
拝聴していて非常に面白かったが、ステーキングについては「預託」や「配当」「報酬」といった訳語は当てるべきではないと思う。
秘密鍵を移転しないタイプのステーキングについても、「預託」という言葉を用いると暗号資産カストディ規制を、「配当」「報酬」はファンド規制を誘発するおそれを懸念。「デジタル預託」という用語自体は預金の金利収入のように見えるという点をわかりやすく捉えているものの、ステーキングの技術的な中身を正確に理解せずに言葉だけ捉えると資産の移転を伴うように聞こえ、無用に規制を誘発する可能性があると思う。
もともと資金決済法の「仮想通貨」の定義自体、FATFガイダンスのVirtual Currencyを直訳したもので、その後、国際会議等でCrypto Assetが使われ出した「通貨」という語が含まれていると強制通用力のある法定通貨との誤認を招くから「暗号資産」に変えられたというだけ。
法律で「暗号資産」と定義されているものの、要件として暗号技術やブロックチェーン技術の利用は含まれていないので、「暗号資産」について「デジタルコイン」という言い換えはしっくりきた。
「電子マネー」も別に法律の定義はないが、今はSuicaなどの前払式支払手段を指して使用することが多い印象。
音喜多議員の質疑により麻生大臣が投じた一石が、仮想通貨・ブロックチェーン業界に大きな波紋を呼んでいる。