バミューダがデジタル通貨決済をテスト
北大西洋に位置する英領バミューダ諸島政府は、ステーブルコイン決済プラットフォーム「Stablehouse」と提携し、食品をはじめとする日用必需品やサービスの決済にデジタルトークンを使用する試運転を開始している。デービッド・バート首相は、自ら参加した試験プログラムの模様をツイートした。
I’m pleased to have participated in the pilot testing of @stablehouse_io's digital stimulus token and look forward to its wider rollout to EEZ businesses. It's a great showcase of Fintech innovation and a step toward making payments more accessible for Bermudian entrepreneurs. pic.twitter.com/YUERr30UED
— Premier David Burt (@BermudaPremier) September 1, 2020
このトークンは「デジタル刺激トークン」(Digital Stimulus Token)と呼ばれ、「Blockstream」のLiquidブロックチェーンプロトコルをベースにしており、Stablehouseが提供するオープンソースの決済アプリを介して利用できる。現在、一部の小売業者と消費者を対象としたベータ版がテストされているが、将来的にはバミューダ経済開発公社(Bermuda Economic Development Corporation)が参加し、対象を拡大した、より大規模な試験運用も視野に入れているようだ。
バート首相は声明で次のように述べている。
バミューダは、革新的な民間デジタル資産ソリューションを支援するリーダーとしての地位を確立すること、また当地でライセンスを取得した企業との協力を通して、デジタル資産の採用を促進することに対し強い意気込みを持って取り組む考えだ。
そのためには、規制の枠組みを作るにとどまらず、バミューダを本拠地として選んだ企業と連携し、その製品を利用することが大変重要な要素となる。
理想的な実験場としてのバミューダ
歴代最年少の38歳で首相に就任したデービッド・バート氏は、米ジョージ・ワシントン大学で情報システム開発の修士号を取得、テクノロジーとビジネスに精通した起業家や経営者としての顔を持つ。ブロックチェーンや仮想通貨、フィンテックに関する造詣も深い。バート首相は、バミューダは「世界向けの製品やサービスをテストするラボを作るには理想的な場所」だと主張している。
人口7万人余りで53平方キロという小さな島国は、英国領であること、また米国から飛行機で2時間というその立地から、英米両政府が軍事基地として利用するため、空港や病院、電力など島の主要インフラを整備した歴史を持ち、金融サービス、医療、輸送、海港、輸入などのシステムが完備されている。
観光立国であったが、現在は保険業が大きな産業となっている。バミューダの強みは、規制当局、政府、産業界が連携して、製品を迅速に市場に投入できることだという。このような連携とスピードがバミューダの保険業界の確立を促し、現在フィンテック業界でも同じことが起きているという。
テクノロジーの普及率が高く、2019年の統計では総人口の87%がモバイルインターネットを利用しているとのことだ。そのため、銀行口座を持たない一部の市民のためにも、スマートフォンを利用した金融サービスの提供を模索している。
バート首相の首席フィンテック顧問であるDenis Pitcherは、政府がデジタル通貨を受け入れることで、民間事業者が実際にデジタル通貨を消費できる場を提供し、従来の金融システムに頼らなくても良い環境を作り出すことができると考えている。バミューダは市場としては小さすぎて、PayPalなど多くの世界的な金融サービスは見向きもしないとPitcherは語った。
しかし、バミューダ社会におけるデジタル通貨の普及が世界経済との架け橋になり、グローバルな金融エコシステムに、バミューダ市民がアクセスできるようになることを同氏は期待しているという。
進展する包括的なエコシステム構築
デジタル刺激トークンはステーブルコインだが、バミューダ政府は昨年10月からすでに、税金や政府が提供するサービス等の支払いに、米ドル建てのステーブルコイン「USDC」を受け入れ始めていた。USDCの受け入れが大きく混乱しなかったのは、バミューダが英国領ではあるものの、米国との結びつきが強く、地域通貨バミューダ・ドルと米ドルの為替レートが一対一であったことも大きいだろう。
一方で、バミューダ政府は、中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)の開発には特に関心がないと明言している。Pitcherは、デジタル通貨の発行には民間セクターが最も適していると述べている。また、バート首相も為替レートやセキュリティのリスクを考慮すると、市場規模の小さいバミューダの政府よりも、営利的に事業を行っている民間企業の方が優位にあると考えているようだ。
USDCの受け入れと時期を同じくして、政府はブロックチェーンベースのデジタルIDプラットフォームの開発に着手したことも発表している。分散型信用検証プロトコルの「Shyft Network」が金融活動作業部会(FAFT)など規制へのコンプライアンスに対応し、デジタルIDソリューション「Perseid」がID管理インフラを構築する体制で、世界でも例の少ない市民IDシステムを開発すると言う。
バート首相は、テクノロジーこそが未来であると信じているという。若い市民に希望を持たせるためにも、国家戦略としてフィンテックによる金融サービス革新を進め、世界のデジタル経済のリーダーとしての地位確立を目指すと語った。