基軸通貨の変化についてIMFが描き出す将来像
国際通貨基金(IMF)が、「進化する国際通貨システムにおける準備通貨」という題名のレポートを発表。地政学や技術的変化が世界の準備通貨に与える影響を分析し、その中で基軸通貨を置き換える可能性のある3つの要素を分析した。
民間のステーブルコイン、中銀発行デジタル通貨(CBDC)などが基軸通貨となるシナリオも描いている。
レポートによると、基軸通貨としては米ドルの支配が続く可能性が高い。しかし、新しく出現したデジタル通貨や新しい決済エコシステムなどの要素が、準備通貨を巡る状況の変化を加速させる可能性があるという。
民間ステーブルコインが基軸通貨となる可能性
まずステーブルコインについては、Facebook主導のリブラの名前を特に挙げて、次のように述べている
Facebookは2019年、世界的に普及する可能性のある民間ステーブルコイン「リブラ」の計画を発表した。これは、国際的に使われるステーブルコイン(GSC)の最初の例となる可能性がある。
しかしながら、GSCは既存の法定通貨に裏打ちされている必要はなく、それ自体が基軸通貨の地位を獲得する可能性がある。また、複数の世界的なステーブルコインが基軸通貨となる可能性も考えられるだろう。
現在のところリブラについては、各国政府の「金融主権を脅かす」などの批判を受け、発行計画が変更されたところだ。元々は、複数の法定通貨によるバスケット型を予定していたが、単一の法定通貨と結び付くステーブルコインを複数発行する仕組みとなった。
それに伴いリブラを「Diem(ディエム)」と改名し、リブランディングを行っており、早ければ2021年1月にローンチする可能性が報道されている。
IMFは、「デジタル通貨間競争は、法定通貨のようにマクロ経済的パフォーマンスに基づくものではなく、関連するネットワークやユーザーなどが関わり、従来の通貨競争とは異なる形を取り得る」とも指摘した。
関連:フェイスブック主導の仮想通貨リブラが「ディエム」にリブランディング想定され得る3つのシナリオ
IMFは、経済的・地政学的要因とテクノロジーの発展が及ぼす長期的な影響により、2045年までに基軸通貨の構成が変化する3つのシナリオがあるとして、それぞれを説明した。
CBDCが基軸通貨に
一つ目は、中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)が基軸通貨となるシナリオで、以下のようなものだ。
各国は、包括的なCBDCプラットフォームの開発に先手を打つことで、技術やインフラ面で優位に立つことができる。恵まれた気候条件(データセンターのために十分な気温の低さなど)を持つ国では、費用対効果が高くなり、こうした国々は将来CBDCを発行。データ・インフラやサイバー防衛に多額の投資を行っており、CBDC建ての金融商品の供給量も増加している可能性があるという。
またCBDCは、安全で取引コストの低いプラットフォームに支えられていることから、信頼できる基軸通貨として浮上。ただ、各国の中央銀行がCBDCを保有するようになったことで、世界の準備高に占めるCBDCの割合が、財政的な裏付けと一致する水準を大幅に上回ることにより信頼性が薄れ、主要通貨として地位が崩れることもあり得るとした。
さらに最近は、「ユニバーサル・CBDC」という考え方も注目されているという。これは、複数のCBDCのバスケットに支えられた合成覇権通貨が、それを支える複数の中央銀行の信頼性の恩恵を受け、より効率的な国内・国際決済サービスを提供することができるという議論である。
民間デジタル通貨が基軸通貨に
二つ目は、複数の民間デジタル通貨が、広く普及するシナリオだ。
大手テクノロジー企業が成長を続け、より多くのサービスやプラットフォーム決済手段を提供。またプライバシーとコーポレート・ガバナンスが強化されたことにより、人々は法定通貨よりも民間の決済プラットフォームを好むようになっている可能性がある。
いくつかの大規模なデジタル通貨が出現し、テクノロジー企業がサービスの範囲を拡大する中で、政府は関連する役割のほとんどから退く。またAIが、デジタル通貨間の為替交換比率を確立するために使用され、複数通貨のデジタル通貨をプールすることで、従来の準備資産に置き換わるというシナリオである。
個人情報を土台とするトークンが基軸通貨に
三つ目には、個人データをベースにした”新しい形の貨幣”が、世界的な通貨となる可能性も論じられた。
個人情報にアクセスしてそれを利用するために、企業は商品やサービスの支払いに使えるデジタルトークンを発行し、個人からデータを購入し始める。これらのトークンは、従来の収入を補うために個人や組織に広く利用されるグローバルなデジタル通貨となる。
このため法定通貨の使用は非常に限られたものとなり、各国は、実物資産、特にゴールド(金)とともにデータ・トークンで準備金を保有することになるというシナリオだ。
特に三つ目の将来シナリオは、一見奇想天外にもみえるが、新世代ウェブブラウザのBraveなどはすでにこのような仕組みを利用しているため、真剣に考慮する余地もありそうだ。
Braveは従来のウェブ広告をブロックする代わりに、ユ―ザーがみずから広告を閲覧した場合にトークンで報酬を還元する仕組みを持つ。
関連:BATとは|プライバシーを守るブラウザ「Brave」の特徴やBATの用途などあくまでIMFの未来予想図は、可能性のあるシナリオを示すものであるが、金融システムの将来像を考える上で示唆に富むものになっている。