二人のコミッショナーが声明
米証券取引委員会(SEC)の執行委員(コミッショナー)であるHester Peirce氏とElad Roisman氏は、先週発表されたSECの年間規制アジェンダを批判し、ゲンスラー委員長(Gary Gensler)にその一部の再考を促す声明を発表した。
「前進か、後退か?」と題された声明で、両氏は「デジタル資産の明確化、ギグワーカーへの株式報酬の許可」など、いくつかの重要な規則の制定が含まれていないと指摘。その要因として、ゲンスラー委員長が下した「残念な決定」、つまり「SECが承認したばかりの数々の規則を取り消すために、ただでさえ十分ではない人力を費やす」選択をしたことがあると批判した。
「クリプト・ママ」の愛称で親しまれるPeirce氏は、仮想通貨をはじめとする金融イノベーション肯定派として知られ、業界からも信頼が厚い。一方、Roisman氏は前Jay Clayton委員長の退任後、ゲンスラー委員長の就任まで委員長代理を務めた経緯がある。
指摘された規則の見直しは必要なのか
このアジェンダには、この1年以内に承認された下記のような規則を修正する提案が含まれている。
- 機関投資家が株主提案に投票する際のアドバイスを提供する企業への規制
- 資源採掘企業による外国政府への支払い開示義務(ドッド・フランク法)
- 民間企業の不正行為をSECに通報した内部告発者への支払い制限
SECの規則はパブリックコメント募集など、長期的に厳格なプロセスを経て、はじめて制定されるものだと両氏は強調。SECが「完成したばかりの規則の再検討に、貴重な資源を費やすことには失望している」と批判した。また、規制当局による性急な規則の見直しは、民間企業に対し規制の不確実性を示すことに繋がり、経済活動を阻害する恐れがあるとした。
「このような規則がアジェンダに含まれていることは、SECの堅実な規制手腕に対する評価を損なうものだ。」
さらに「政権が変われば政策も変わる」ため、アジェンダに新たな規則制定が盛り込まれることは、当然のことだとしながらも、「再検討を正当化する新たな証拠」なしに、完了したばかりの規則制定の見直しを行うのは、「通常の慣行」ではないと訴えた。
「過去の委員会では大抵、自分たちの規則書でシーソーゲームを行うような行為は慎んでいた。」
規則制定リストにあるのは
今年の規則制定に注力する分野として、SECが発表したリストには、気候変動、企業の労働政策や取締役の多様性に関する情報開示が含まれている。
また、株式や短期国債市場などの構造近代化、自社株買いや空売りの情報開示に関する透明性の確保、個人投資の「ゲーミフィケーション」などが挙げられている。
一方、仮想通貨分野への言及はなかった。ただし、ゲーミフィケーション関連から、ロビンフッドなどのプラットフォーム上における仮想通貨取引に焦点が当たる可能性はあるかもしれない。
ゲンスラー委員長への期待
ゲンスラー委員長は、マサチューセッツ工科大学(MIT)でビットコインやブロックチェーンの教鞭を執った経験もあり、仮想通貨に精通した人物として知られている。
Peirce氏も、4月のゲンスラー氏の就任前には、今後数年間、SECが「非常に生産的になるだろう」との見解を示し、投資家保護と明確な規制の枠組みづくりの推進に期待を寄せていた。
しかし、今回の規制アジェンダで Peirce氏の期待は実らなかったようだ。
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