修正されたインフラ法案
3兆円規模の暗号資産(仮想通貨)セクターへの課税強化を含み、業界関係者が強く反対を表明した米インフラ投資法案だが、問題視された「ブローカー」の定義が、当初より一部狭められたことがわかった。
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超党派が支持する2,000ページに及ぶこの法案では、税務上の「ブローカー」の定義を「拡大」することで、仮想通貨取引に関連する様々な主体に、納税のための情報報告義務を負わせて税収を増やし、5年間の新規歳出分として5,500億ドル(約60兆円)規模のインフラ包括法案の財源の一部とする目的がある。
インフラ法案とは
米上院から提出され、今後8年間で1.2兆ドル(約130兆円)を道路・橋、鉄道、港湾・空港、水道、高速通信網、電力網などの国内インフラへの投資を提案する法案。バイデン政権の経済分野の主要政策の1つ。
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当初の上院草案(7月30日時点)では、ブローカーは、カストディ型、非カストディ型を問わず、「(対価を得て)デジタル資産の移転を実現するサービスやアプリケーションを定期的に提供する者」と定義され、「分散型取引所やP2Pマーケットプレイス、マイナー」も含む可能性が懸念視された。
そのため、マイナーをはじめソフトウェア開発者やPoSネットワークのバリデーター、また最悪のケースでは、分散型金融(DeFi)の流動性提供者やガバナンストークン保有者などにも報告義務が生じる可能性も浮上していた。
ただ、8月1日に更新された最終草案では、ブローカーの定義は「(対価を得て)他者の代理として、デジタル資産の移転を実現する責任を負い、定期的にサービスを提供する者」と調整。
しかし、仮想通貨・ブロックチェーン業界の関係者は、依然としてこの定義もまだ不十分で、マイナーやノード運営者、ソフトウェア開発者が除外されるかどうかなど、具体的な明示性に欠けると主張を続ける。
インフラ法案は主にバイデン政権の民主党派が主導する政策だが、ロイターの報道によれば、少なくとも10名の共和党議員らも支持を表明している。
金融監視の強化につながる
デジタル領域における市民の自由保護活動に従事する非営利団体、電子フロンティア財団(EFF=The Electronic Frontier Foundation)は、インフラ法案が仮想通貨ユーザーが租税回避しているとの推定を根拠としていると指摘。
業界内の税務コンプライアンスを向上を目的としているが、この条項を含めることで仮想通貨エコシステムにより広範なユーザーデータの収集を強いることは、以下のような「明確化かつ実質的な害がある」と主張している。
- 仮想通貨の一般ユーザーに対する新たな監視が要求される
- ユーザーの資産を保管しないソフトウェア作成者に、必要以上に監視システム導入を課す、もしくは米国でのサービス提供中止に追い込む可能性
- ユーザーに関する個人情報の「ハニーポット」を多く作り出し、犯罪者を引きつける可能性
- 米国内でのブロックチェーンプロジェクトの開発や、取引検証に関する法的手続きが複雑化するため、海外にイノベーションが流出する可能性
- マイナーや開発者が新たな報告義務を満たすことは不可能
- オープンソースコードを介して直接、仮想通貨取引を行う能力に不確実性が生じる(スマートコントラクト、分散型取引所など)
この草案は、仮想通貨で使用される基本的な技術を連邦議員が理解していない実態を示す好例だとして、EFFは批判している。
批判派の米議員も
米上院銀行委員会の幹部メンバーである共和党のPat Toomey議員は、法案に反対する次のような声明を発表した。
どのような影響がもたらされるかを理解することなく、仮想通貨に対し急ごしらえで起草された税務報告制度を議会は急いで進めるべきではない。ブローカーの定義が広すぎるため、現在の規定ではマイナー、ネットワークバリデーター、その他のサービスプロバイダーなど、金融仲介者ではない者も含まれている。
端的に言うと、この法案の内容は実行不可能だ。
Toomey議員は修正案を提出して、問題に対処する予定だとコメントした。
また、民主党のRon Wyden議員は法案の文言が明確性に欠けるため、仮想通貨ウォレットのようなブロックチェーン技術の開発者等が税務報告の対象となる可能性が排除できず、法案の意図しなかった結果につながると懸念を表明。一方、同議員は仮想通貨ユーザーの租税回避は問題であるとして、取引所の報告義務はサポートする立場をとっている。