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ビットコインが法定通貨になったエルサルバドルへ行ってみた|体験記寄稿4 ビットコインを世界で初めて法定通貨に採用し7ヶ月が経過したエルサルバドルで垣間見た現実

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

エルサルバドル滞在紀行

エルサルバドル訪問記第4弾は、ビットコインビーチを技術面で支えるフランスのスタートアップGaloyについてです。弊社Fulgur Venturesの投資先でもあるGaloyは、ハイパービットコイン化後の世界で標準規格となり得るビットコインを基盤としたオープンソース金融インフラを開発し、ビットコインとライトニングの地域コミュニティ、企業、政府への導入を進めています。

本記事では、マーケティングディレクターAndrew Begin氏へのインタビューを介して知ったビットコインビーチ・ウォレットの誕生経緯、官製Chivoウォレットとは対照的に公式ウォレットとして地域に定着した理由、オープンソースソフトウェアならではのアダプションプロセスなどをご紹介します。

ビットコインビーチでコミュニティウォレットができるまで

2019年春にEl Zonteでビットコイン循環経済が始まり、2019年末に人気ポッドキャスト「What Bitcoin Did」にビットコインビーチのMichael Peterson氏が出演したことで、界隈でビットコインビーチの存在が知られるようになりました。ポッドキャストを聞いたGaloy創業者Nicolas Burtey氏Chris Hunter氏は、プロジェクトの斬新さと面白さに魅了されるとともに自社プロダクトとの親和性を感じ、2020年にEl Zonteを訪れます。

この時、ビットコインビーチプロジェクトでは、シンプルなUIで使い勝手は良いものの、秘密鍵をウォレット事業者が管理するカストディアルタイプのライトニングウォレットWallet of Satoshi(WoS)を使っていました。Burtey氏とHunter氏はPeterson氏にコミュニティのニーズに応えるウォレットを開発したいと直談判し、契約締結に至ります。

Burtey氏は数ヶ月間El Zonteに張り付き、住民や商店のニーズを直接吸い上げながらウォレット開発を進め、実際にテスト利用してもらいつつ機能やUIを最適化しました。こうしてコミュニティ公式ウォレット、ビットコインビーチ・ウォレットが誕生します。

開発中、Burtey氏はマーチャントがWoSにある不満を感じていることに気づきます。商店、特にププサやかき氷を作りながら会計も行うワンマンオペレーションの小さな食堂や移動販売業者は、会計のたびに油やシロップでベトベトになった手をいちいち拭いたり洗ったりして、スマホとウォレットをアンロックして受金アドレスを生成する必要がありました。現金決済と比べて、明らかに非効率で負担が大きいです。

現在では、LNURL(ライトニングネットワーク利用におけるUXを改善するプロトコルのこと)などを使えば同一アドレスを何度も利用することも可能ですが、当時はまだそのようなプロトコルはなく、アドレスには有効期限があったため、同じアドレスを繰り返し使うことはできませんでした。

そこで、Galoyは独自にマーチャントに固定アドレスを発行してQRコード化しました。会計は顧客がQRコードをビットコインビーチ・ウォレットでスキャンし、金額を指定して送金ボタンをクリックすればよく、マーチャントはスマホ画面に受金通知が表示されるのを待つだけです。現金決済よりも時間も手間もかかりません。ビットコインビーチ・ウォレット以外のウォレット利用者はQRコードをスキャンするとWebページに飛び、そこから送金できるようにしました。

ただし現在は、この独自規格ではなくLNURLが採用されています。

筆者提供。El Zonteでは、このように店舗外壁に巨大なQRコードを掲示した店舗をよく目にします。上部には”Acceptamos Bitcoin”(ビットコイン使えます)のメッセージ、右下にはビットコインビーチ・ウォレットのロゴ。

固定アドレスのQRコード化の他にも、ビットコインビーチ・ウォレットには利用者のニーズに応えて付加されたさまざまな機能があります。以下、私のウォレットのスクリーンショットでご紹介します。

筆者提供。Galoyの操作画面。

左はトップ画面です。トランザクション履歴にあるように、滞在中”mamarosa”というEl Zonteでビットコイン決済を最初に導入したププセリア(ププサ食堂)でライトニング決済しました。

一度送金した相手は自動的に”contacts”に登録されます。2回目以降はQRをスキャンする代わりに、このユーザーネームを入力して送金することも可能です。

右はEl Zonteはもちろん、世界のビットコイン決済OKな商業施設を検索できる地図です。地図上で施設を選択し、”pay this business”をクリックすると、送金先に施設が指定された送金画面に移行するので金額を入れるだけで送金できます。

どんなユースケースを想定しているのでしょうか?電話やWhatsAppでププサを注文して事前決済することで、ピックアップ時の会計を省くとともに店舗側はノーショーのリスクを回避できるとかですかね?クレジットカードやPayPalなどが普及していない国ではリモート決済手段がないため、ビットコイン決済一択というケースもありそうです。

筆者提供。Galoyの操作画面。

LNURLに対応しているので、ユーザーネームを設定すれば固定アドレスがもらえます。”View Printable Version”をクリックすると右のウェブサイトに移行するので、誰でも簡単にEl Zonteの商店が掲げているような「ビットコイン使えます」サインを印刷できます。 (左は実際に有効なアドレスです。LNURLを使ったライトニング送金を試してみたい方、投げ銭大歓迎です!)

筆者提供。Galoyのクイズ画面。

そしてビットコイン普及には不可欠な教育。ビットコインについての簡単な解説を読んでクイズに答え、正解するとビットコインがもらえます。

筆者提供。Galoyのクイズ画面。

共同カストディ

次にウォレットの肝ともいうべき秘密鍵の管理についてです。

一般的にウォレットは、秘密鍵を所有者が管理するノンカストディアルと、事業者が管理するカストディアルに大別できます。本来は秘密鍵は所有者自身が管理すべきですが、付随する責任の大きさに尻込みする人が大半です。かと言って、鍵管理をウォレット事業者に任せることは、見ず知らずの第三者を信用することを余儀なくされ、そもそも仲介者を排除して金融主権を回復する手段であるビットコインを所有する意義が薄れます。

Galoyが採用しているのは、このどちらでもない共同カストディ(shared custody)です。ウォレット利用者各人が鍵管理責任を全て負う代わりに、家族、友人、隣人などもともと信頼関係にある人たちが共同で鍵を管理します。利用者を鍵管理責任から解放するとともに、マルチシグ採用で単一障害点を排除しリスクも軽減します。フェデレーション型ミント(chaumian mint)のようなイメージですかね。ウォレット利用者のビットコインはプールされ、複数のコミュニティメンバーが鍵を持つマルチシグで管理されていますが、セキュリティ上の理由から鍵の数や送金に必要な署名数、鍵保有者についての情報は一切非公開だそうです。

世界中でフォークされるソースコード

ビットコインビーチ・ウォレットはインフラ、バックエンド、フロントエンド、APIなど全てオープンソースです。ビットコインビーチに触発されて、中南米を中心にビットコイン循環経済をスタートさせたコミュニティが複数あり、中にはGaloyのコードをフォークしたプラットフォームを使うところも。フォーク回数は100回を超えるそう。

コスタリカのビットコイン・ジャングルはその1つで、GaloyのBanking-As-A-Serviceを使っています。またブラジルのプライア・ビットコインGaloyのインスタンスをデスクトップパソコンでセルフホストできるよう軽量化するプロジェクトに取り組んでいます。というのも、ビットコインビーチ・ウォレットのインスタンスをクラウドでホスティングすると、1日あたり20ドル前後かかってしまい、途上国のコミュニティには負担が大きいためです。

軽量版が提供されれば、ビットコイン循環経済の拡大が加速する可能性もあるため、Galoyではプライア・ビットコインのプロジェクトへの寄付を募り、集まった寄付にマッチングすることを発表しています。

今後の展開

エルサルバドル旅行中、買い物の度に”Acepta Bitcoin?(ビットコイン使えますか?)”と聞きましたが、El Zonte以外では使える店舗は1割程度です。ビットコインを受け取らない理由は多種多様でしたが、価格変動を挙げる人が複数いました。

貨幣の3機能のうち、現状ビットコインは価値貯蔵手段としてアダプションが進みつつありますが、交換手段、価値尺度への道はまだまだ長いです。そこでGaloyはビットコインと並んでエルサルバドルの法定通貨である米ドル(ステーブルコインではない)をライトニングネットワークで送受金可能にするための開発を現在進めています。Strikeみたいなイメージでしょうか。これが実現すると、ウォレット利用者は日常の決済はドル、貯金はビットコインという使い分けが可能になります。

本記事執筆中の4/28にCEO Burtey氏がティーザー写真を挙げました。リリース間近のようです。

また22年2月には、El Zonteに200件の住宅建築を計画するNPO New Storyと提携しました。銀行口座を開設できず、住宅ローンを組めないためマイホームを持つことができなかった住民に、ビットコインで集められた寄付を原資に金利0%のローンを提供し、月々の返済はビットコインビーチウォレットを使ってビットコインで行うというプロジェクトです。

先月ちょっと話題になった動画があります。El Zonteに住む19歳の大学生がサーフィンのインストラクターをして貯めたビットコインで200ドルの冷凍庫を買い、氷の製造と卸売で起業、事業が軌道に乗って家を購入、母親に人生初のマイホームをプレゼントしたことを紹介する動画です。彼が利用したのがこの制度です。この制度がなければ、銀行口座を持たない母子がマイホームを持つことは一生叶わなかったかもしれません。

今回、ビットコインビーチを技術面で支えるGaloyの調査とBegin氏へのインタビューから、ユーザーニーズを拾って応えるというプロダクト開発の原点と、オープンソースとパーミッションレス・イノベーション(誰の許可も不要で自由にイノベーションを起こせること)の力を再認識しました。丁寧に作り込まれたプロダクトのオープンソースコードが世界中でフォークされ、ビットコインビーチの成功が再現されていく、想像しただけでワクワクすると同時に暗雲立ち込める世界の行く末に希望を見た思いです。

続きはこちら:ビットコインが法定通貨になったエルサルバドルへ行ってみた|体験記寄稿5

寄稿者:練木照子(Teruko Neriki)練木照子(Teruko Neriki)
ビットコインとライトニング関連スタートアップへの投資に特化したVCフルグルベンチャーズ所属。「ビットコインスタンダード」「ビットコイン、強気にならずにはいられない理由」「ビットコインの歩き方」翻訳出版。ビットコイン研究所について詳細はこちらからご覧いただけます。
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