CBDC導入のロードマップ
英イングランド銀行(BOE=中央銀行)と英国財務省は、「将来的にデジタルポンドが必要になる可能性が高い」との判断を示し、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入に積極的に取り組む姿勢を見せた。
4日の英メディアThe Telegraphの報道によると、アンドリュー・ベイリーBOE総裁とジェレミー・ハント財務大臣は共同報告書で、デジタル・ポンドのインフラ構築を確約するのは時期尚早だとしながらも、「更なる準備作業は正当なものだと確信している」と述べた。
リシ・スナック英首相は財務相時代の2021年、BOEにCBDCの調査を要請し、その創設を検討するタスクフォースを立ち上げた経緯がある。昨年10月には財務省のアンドリュー・グリフィス経済長官が、英国はCBDC問題を無期限に回避することはできないと述べていた。
政府筋によると、CBDC策定のロードマップを示した報告書は今週にも発表される予定だという。また、7日にはジョン・カンリフBOE副総裁が、中銀のCBDCの取り組みについて金融業界に向け講演を行う予定となっている。
BOEと財務省は、今後4カ月間に渡って協議を行い、企業や学術研究者、一般市民からCBDC導入に関する意見を募る。
BOEは英国におけるCBDCの導入は、最短で「20年代後半」とコメントしているが、関係者らはBOEがプロトタイプの構築と実証実験を開始するのは、最も早くて2025年となると予測している。それまでは、CBDCを実際に導入するか否かの判断は下されない見込みだという。
CBDCとは
「Central Bank Digital Currency」の略称で、各国・地域の中央銀行が発行するデジタル化された法定通貨を指す。送金コストの削減や効率性向上などが期待できる反面、個人情報やプライバシーの保護、セキュリティ対策、金融システムへの影響など考慮すべき課題も多い
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正しい設計のために
アンドリュー・グリフィス経済長官は、CBDCの取り組みで、すでに試験的な導入を開始した中国などの他国に遅れをとっているとの批判に対し、次のように述べた。
国家のデジタル通貨の設計をいかに進めるかについては、実に重要な公共政策の問題がある。我々はそれを正しく行う必要がある。私は、最初となるより、正しくありたい。
また、CBDCの導入により、個人の消費行動に対する政府の監視が強化されるのではないかとの懸念に対して同氏は、英国のCBDCモデルは金融機関などを対象としたホールセール型であると指摘。一般個人のウォレットが直接、中央銀行と接続されることはなく、CBDCは仲介銀行が保有する仕組みとなると説明した。
CBDC導入に反対する意見も
イングランド銀行の前総裁であったマーヴィン・キング卿は、CBDCの導入に対して「リスクはあるが明らかなメリットはない」と批判的だ。
キング卿は、すでにほとんどの取引がデジタル化されており、商業銀行やその他の決済手段で運営されている現行のシステムで十分対応できていると指摘。「CBDCは決済の方法に関するものであり、新たな通貨ではない。国がCBDCを必要とするかどうかは、現在の決済システムの状態で決まる」と主張した。
効果的な銀行システムが存在しない国では、中央銀行が介入しなければならないかもしれないが、明らかにイギリスはそうではない。
関係者はCBDCの構築には数年かかり、「多額の公共投資」を伴うと述べている。
現金の廃止につながるのか
クレジットカードや決済アプリなど決済のデジタル化が進む中、10年前に半分以上を占めていた英国における現金の使用は、約15%まで低下しているという。CBDC導入の動きは、現金が段階的に廃止に向かうのではないかとの不安にもつながる。
一方、BOEは、CBDCは現金に取って代わるものではなく、現金と共存するものだと強調している。また、英政府は昨年、現金へのアクセスを保護する新たな法律を成立させ、全国の地域社会で現金預金や引き出しが継続的に利用できるよう、金融行動監視機構(FCA)に新たな権限を付与した。