現物株式をポートフォリオに加え、ある程度運用が安定してきている場合、次の参入先候補としては株式の信用取引や株価指数先物取引などが挙げられるでしょう。これらの取引を始めるにあたっては、現物取引との違いを理解したうえで、特に「追証(おいしょう)」と呼ばれる仕組みについて理解しておくことが肝要です。
追証とは、信用取引や先物取引、FXを含む保証金を担保として行う投資にて保証金の維持率が規定値より下回った際に、追加の入金が必要となる事を意味します。これは「借金の返済」に近い性質を持ち、投資の損益にも大きな影響を及ぼすため、正確な知識を学んでおくことが欠かせません。
そこで本記事では追証の仕組みや発生状況、対処法について紹介します。
- 目次
1. 追証とは「委託保証金の追加入金」
初めに、追証についての概要を解説しましょう。
1-1. 追証の概要
追証とは「追加保証金」の略であり、委託保証金等を担保として行う取引において、銘柄の含み損や担保にする現物株式の値下がり等によって、委託保証金率が各証券会社が定める維持率を下回った際に発生します。追証が発生した場合、追加で担保を預け入れるか、該当する建玉を決済しなければなりません。
追証の期日は各証券会社によって個別に設定されていますが、一般的には翌営業日か翌々営業日までに入金する必要があります。期日を過ぎても追証が解消されなければ、保有する全建玉が強制決済されるため注意しましょう。
なお仮想通貨取引においても、仮想通貨FXなど証拠金を担保に行う取引では追証のシステムが存在します。
1-2. 追証と「ロスカット」の違い
追証と混同されがちなシステムが「ロスカット」でしょう。
ロスカットとは、建玉を自動決済するシステムです。あらかじめ設定しておいた損失限度額に到達した場合に、建玉を強制決済して損失拡大を防ぐ事を目的とします。
一方で追証は、保有する建玉に関する損失が一定水準を超えた事を条件に、追加の証拠金入金を要求される事です。これは損失が大きくなった際の緊急的な処置であり、証拠金を追加することで保有建玉を維持できます。
追証は建玉の決済によっても解消可能であり、解消されない場合には強制決済されるという点がロスカットに類似していますが、両システムには目的や事前設定の有無等の点で大きく相違がある事を理解しておきましょう。
2. 追証が発生する「証拠金取引」の特徴
続いては、追証が発生する取引の特徴について説明します。
2-1. 自己資金を上回る額の取引が可能
追証が発生する信用取引や株価指数先物取引、FXなどの証拠金取引では、レバレッジ(てこの原理)を用いて自己資金を上回る額の取引が可能です。
例えば信用取引では、預け入れた保証金の約3.3倍の取引が可能です。つまり、保証金100万円を担保にした場合は、最大で330万円分の取引が行えます。
またFXでは、国内であれば「25倍」、海外では「無制限」のレバレッジを設定できる取引所すらあります。レバレッジが大きいほど損失を被るリスクも増大しますが、一方で元手が少ない状態でも大きなリターンを狙える点が魅力。
このように、自己の拠出金を上回る額で取引を行い、資金効率を高められるのが最大の特徴です。
2-2. 有価証券を保証金として利用できる場合も
また、株式の信用取引では保有する現物株式・債券等の有価証券を保証金として利用できる場合があり、この制度を「代用有価証券」と呼びます。
ただし、代用有価証券は現金よりも保証金自体の価格変動リスクが高いため、各証券会社によって掛目(担保価値に一定率を掛け、その額を上限に担保額を評価すること)が設定されています。
例えば評価額100万円の株式を代用有価証券として使用するケースを想定しましょう。本株式につき80%の掛目が設定されている場合、保証金としての評価額は100万円の80%である「80万円」となります。
塩漬けになっている株がある場合は、代用有価証券として利用する選択肢は検討の余地があるでしょう。
2-3. 売りからの取引「ショート」が可能
現物取引との大きな違いとして、信用取引などでは売りからの取引「ショート(空売り)」が可能です。ショートは先に売り建玉を購入して価格が下落したタイミングで買い戻すことで、下落相場でも利益を獲得できます。
株式や仮想通貨も含め、現物取引は価格が安いときに買い、高いときに売ることで利益を狙う方法がメインとなり、銘柄の評価額が下がっている期間や下落相場において大きな利益を狙うことは難しいです。
この点、ショートを組み合わせて取引を行えば、上昇相場・下落相場の両方で積極的に利益を狙うことが可能となり、より多くの取引機会を確保できます。
3. 追証と密接にかかわる「委託保証金」の仕組み
追証が発生する取引の特徴について理解したところで、追証の仕組みについて更に詳しく解説しましょう。追証の発生を決定する要素としては、「委託保証金率」と「委託保証金維持率」があります。
3-1. 委託保証金率とは
委託保証金率とは、投資家が証券会社に預け入れる委託保証金の約定代金に対する割合を意味します。
委託保証金率は法律で約定代金の30%以上・金額は30万円以上と定められており、それ以上であれば各証券会社の裁量で設定が可能です。実際、相場が過熱した際や個別銘柄の信用取引規制などにより、証券会社の委託保証金率が変更になる場合があります。
投資家は原則として、約定日から数えて「3営業日目の正午」までに委託保証金の入金が必要です。
3-2. 委託保証金維持率(最低保証金維持率)とは
委託保証金維持率とは、証拠金取引の建玉を維持するために必要な委託保証金の割合のことで、「最低保証金維持率」とも呼ばれます。
委託保証金維持率は追証の発生に直接関係するため、証拠金取引を行う場合は常に注意を払わなければならない要素です。
具体的な仕組みとしては、まず、建玉に評価損が発生すると、その損失額は委託保証金から差し引かれてゆきます。委託保証金の減少は委託保証金維持率の低下に直結し、それが最低維持率を下回った場合に追証が発生するのです。
一度発生した追証は、その後に委託保証金維持率が回復した場合でも自動的に解消されることはありません。発生した額の補填を行うか、評価損の建玉を決済することで解消する必要があります。
委託保証金維持率の数値は証券会社の裁量で決定されますが、通常は委託保証金率よりも低い割合で設定されています。例えば委託保証金率を30%以上で設定している証券会社の場合、委託保証金維持率は25%程度に設定されていることが多いです。
以上のように委託保証金率が30%・委託保証金維持率が25%の場合では、委託保証金の額が建玉評価額の25%を下回った際に追証が発生し、建玉を維持したい場合は委託保証金維持率を30%まで回復させる額の保証金を追加入金する必要があります。
なお、前述の通り委託保証金の額は30万円以上と定められているため、委託保証金の額が30万円を下回った場合は、建玉評価額における割合に関わらず、必要額の追加保証金を入金しなければなりません。
4. 追証が発生するケースの例
続いては、追証が発生する状況について具体的なケースを紹介します。
4-1. 代用有価証券の下落
保証金の担保として代用有価証券を利用していた際に、有価証券の評価額が下落したことが原因で追証が発生するケースです。
前述した通り、代用有価証券は保有している株式等を担保とするため評価額の変動リスクが大きいです。そのため、たとえ証拠金取引自体が利益を上げていても、保証金率が下落したことで委託保証金維持率の最低ラインを下回り、追証が発生するリスクがある事を理解しておきましょう。
4-2. 建玉の下落
追証が発生するより一般的な原因としては、建玉で評価損が発生した事が挙げられます。
前述した通り、建玉の評価損は委託保証金から補填され、委託保証金維持率が最低ラインを下回ると追証が発生します。
例として、最低委託保証金維持率が25%、最低委託保証金率が30%の証券会社で評価額450万円の買建玉を委託保証金150万円を現金で取引したとしましょう。
もし建玉が45万円分の損失を出すと、同額が委託保証金から差し引かれて委託保証金が105万円に減少し、それに伴って委託保証金維持率が23.3%まで下がります。最低委託保証金維持率の25%を下回ったことで追証が発生し、建玉を維持する場合は最低委託保証金率30%までの金額現金30万円の追加入金が必要となるのです。
5. 追証が発生した場合の対処方法
ここまで、追証が発生する状況を紹介しました。次に、実際に追証が発生した場合の対処方法について紹介します。
追証が発生した場合は、委託保証金率の最低ラインまで戻すことが必要です。ただし、追証が発生した場合に建玉の評価額が上昇し、委託保証金維持率が最低ラインを超えたとしても追証は解消されない点に留意しましょう。
5-1. 保証金を追加する
追証が発生した場合の対処方法は、現金を追加する方法です。
委託保証金率を最低ラインまで回復させる必要があるため、差額分を銀行口座からの振込など現金で差し入れます。
追証の解消期限は各証券会社によって差がありますが、最大で「翌々営業日まで」の振込が必要となり、維持率に応じた2段階の解消期限を設定している企業が一般的です。
2段階の解消期限とは、例えば委託保証金維持率が25%を下回った際は「翌々営業日」まで、さらに維持率が20%を下回った際は「翌営業日まで」の解消が必要となる、というイメージです。
5-2. 建玉を決済する
保証金の追加以外で、追証を解消する方法としては「建玉の決済」が挙げられます。
建玉を決済し、決済額の20〜30%程度が追証金額として補填されたうえで、追証が解消されます。決済額から追証に充てられる割合は、証券会社の裁量により設定されています。
例えば建玉決済額の「30%」分が追証の補填に用いられる証券会社を利用している場合に、18万円の追証が発生したと仮定します。このケースでは、18万円の追証を補填するために、保有する建玉を60万円以上(60万円の30%は18万円)決済が必要です。
6. 追証の発生リスクを回避する方法
追証は以上の方法で解消できますが、そもそも発生リスクを下げる対策を行うことが極めて重要です。具体的な方法としては、以下が挙げられます。
- レバレッジ率を下げる
- 現金の保証金を余裕をもって預け入れておく
- ロスカットの水準を決めておく
- 「信用二階建て」を避ける
まず、レバレッジ率を抑えて設定することが重要です。レバレッジ率が高いと少しの価格変動でも追証が発生する可能性があるため、注意しましょう。
また、余裕をもった額の「現金」を保証金として預け入れておく事も効果的です。代用有価証券の場合は担保となる有価証券の評価額低下によって追証が発生するリスクがあるため、なるべく保証金は現金を利用し、かつ多めに入金しておくことでリスク低減を図れます。
加えて、予めロスカットルールを明確にし、指値・逆指値注文などで損切りの予約注文を設定しておきましょう。委託保証金維持率を下回らない範囲でロスカットを実行すれば、追証は発生しません。
最後に、「信用二階建て」は避けましょう。信用二階建てとは、現物株式を代用有価証券として担保に入れ、同一の銘柄を信用買いすることです。この方法では、現物株式の株価が下落した際、信用取引においても損失が発生するため、急激に損失が膨れ上がる傾向にあります。これは二重の追証リスクを抱えることも意味するため、安定的な運用を行う上では避けた方が安全です。
7. 追証を回避して効率的な資産運用を
証拠金取引は自己資金を上回る額の取引ができるため、利益効率を上げて投資ができる点が大きな魅力ですが、一方で追証のリスクがある点には十分注意しましょう。
ボラティリティの大きな仮想通貨投資と通じる部分もありますが、信用取引では出資金以上の損失が発生するケースがあるため、銘柄の選定やレバレッジ率の設定は慎重に行う必要があります。
追証について正しい知識を持ち、証拠金取引の利点を最大限引き出せる投資手法を確立してゆきましょう。
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