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プライバシーインフラ「Nym」が必要な理由、ゼロ知識証明の可能性を探る|WebX

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

ゼロ知識証明の可能性

2023年7月に開催されたWeb3の国際カンファレンス「WebX」で、ゼロ知識証明(ZKP)にフォーカスしたパネルディスカッションが行われた。

セッションテーマは、「ZKが解決に導くパブリックブロックチェーンの課題」。ZKP関連プロジェクトの専門家など4人のパネリストが登壇し、ZKPがもたらす恩恵と課題、規制との関係についての現状を語った。

登壇したパネリストは、プライバシーインフラ構築に特化した「Nym Technologies(ニム・テクノロジー)」のアジア太平洋コミュニティ責任者のジャッキー・ホン・ケイ・リー氏をはじめ、信頼できるユーザーデータレイヤを構築する「Terminal3」の共同創設者でCEO のゲーリー・リウ氏、プライバシー重視の分散型AIネットワーク「PlatOn」のジェームズ・クーCTO(最高技術責任者)、イーサリアムのL2プロジェクト「Scroll」のAPAC成長責任者のマーカス・リュウ氏の4名だ。

モデレーターは、イーサリアムL2のzkRollupプロジェクト「Intmax」の共同創設者であるヤナイカイト氏が務めた。

ZKP =ゼロ知識証明

ゼロ知識証明とは、証明(Proof)プロトコルの一種であり、証明者が「自身の主張は真実である」以外の情報を検証者に開示することなく、その主張が「真実である」と証明するメカニズム。例えば、送金者、受取人、送金額などの取引内容を第三者に明かすことなく、その取引が不正でないことを証明することができる。

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ゼロ知識証明を用いた暗号技術は、パブリックブロックチェーンが抱える拡張性、互換性、プライバシーといった課題の解決策として期待されている。プライバシー面では、ユーザーが、身元について不必要な情報を明かさずに、対象となる事実が真実であることを証明することを可能にする。

ブロックチェーンは透明性が高いがゆえに、取引履歴や行動履歴などの個人情報が筒抜けになることがあるが、ゼロ知識証明を用いることで個人情報を明かさず、取引などのスマートコントラクトを実行できるようになる。

スイス発のブロックチェーン企業であるNym Technologiesが開発する「Nym」は、あらゆるネットワーク層のトラフィックに強力なプライバシーを提供することのできる有望プロジェクトだ。

情報ネットワーク社会がますます発達する一方、機密情報などの通信傍受リスクは日増しに高まっており、トラフィックパターン解析などといった個人情報の監視(プライバシーの侵害)問題からユーザーを保護する目的で開発された。

「Nym」を使った接続によって、ネットワーク層とアプリケーション層ですべてのパケットのメタデータが保護され、機密情報や個人情報の意図せぬ漏洩を防ぎ、実際に利用中のインターネット通信におけるプライバシーを守ることができるようになる。

イーサリアムとの互換性

このようにブロックチェーンの課題解決に大きな可能性を秘めたZKPだが、Nym Technologiesのジャッキー・リー氏は、「イーサリアムとの互換性の欠如」が現在のZKPの課題の一つだと見ており、「イーサリアムは誕生当初からZK技術との互換性が欠けていた」と主張した。

イーサリアムの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏も、1年ほど前に数あるzkEVM(イーサリアム仮想マシン)構築プロジェクトにおいて、「イーサリアムとの互換性が高いものほど、ZKPのコンパイルが煩雑になるという特徴があるため、その程度によって4つのタイプに分類される」と概説していた。

リー氏はイーサリアムのエコシステムを非常に気に入っており、その進展を注視しているが、NymはZK技術と親和性が高いCosmosエコシステム内に構築されていると説明した。

ZKの概念実証や論文の9割がプログラミング言語Rustで書かれていることから、CosmosはZK技術の実装に適しているという。

zkEVMとは

ゼロ知識証明を活用したEVMのこと。現在、L2ソリューションとして非常に注目度が高い。

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関連:ヴィタリック氏の提案、イーサリアムの進化に不可欠な「3つの移行」とは

スイス規制当局との連携

さらにリー氏は規制準拠の観点から、Nymが拠点を置くスイスで最近起きた画期的な出来事を紹介した。

有権者の94%が悪質な企業による個人データ処理に反対し、デジタルの完全性を保障する権利について「憲法改正案」が採決されたというものだ。これは、プライバシー権と暗号化技術に関心を持ち、長年活動してきたNymのCOOであるアレクシス・ルッセルが主導してきたものである。

なぜNymが必要なのか

Nymはプライバシーに対して総合的なアプローチをとっており、暗号化そのものに焦点を当てるのではなく、エンドツーエンドでユーザーのプライバシーを保護する機能を提供している。現在世界的に普及するプライバシー対策ツールは、情報保護の観点で不完全な部分があるからだ。

例えばVPN(仮想プライベートネットワーク)は、IPアドレスの秘匿性こそあるものの、VPNプロバイダーであればユーザーのトラフィックを把握することができる。ユーザーのオンライン活動の履歴について、ユーザーIDを簡単に関連付けることができる。

また、匿名通信ネットワークの「Tor(The Onion Router)」ブラウザは、通信を匿名化するためのオープンソースのソフトウェアであるが、サーバーを中継するノード運営は、非営利団体「Tor Project」に支援されるなど相応の不確実性は存在する。

さらにその設計上、Torはネットワークの大部分を可視化できないローカルネットワークの敵対者のみを防御するが、トラフィック分析を実行するより高度な敵対者からユーザーの匿名性を保護することはできない。

そこで、経済的インセンティブによってこれらの問題を解決するため、Nym Technologiesおよび、ネットワークを運営・管理するノードのバリデーター(検証者)に対して報酬を与えるユーティリティトークンとしての暗号資産(仮想通貨)「NYM」が誕生した。

Nymブロックチェーンでは、インターネットのトラフィックを「シャッフル」するNym mixnetという技術を採用。これは分散型ネットワークで、データパケットはすべて同じに見えるよう暗号化された上で、ミックスノードを経由して送信される。

このプロセスにより、ユーザーの通信を識別するメタデータ(IPアドレス、タイミング、宛先など)そのものが難読化される。

例えるならユーザーのメッセージは“群衆”の中に紛れてしまい、メッセージの内容だけでなくメタデータも保護される。これによって、ユーザーのコミュニケーションのプライバシーが保たれる仕組みだ。

関連:あらゆるデータや資産にプライバシーを付加 NYMトークンとは

Nymの共同創設者でCEOのハリー・ハルピン氏は、ワールド・ワイド・ウェブの発明者であるティム・バーナーズ=リー氏とともにWorld Wide Web Consortiumで働いていた経験を持つ人物である。

ハルピン氏によると、ミックスネットの技術は現在代表的なプライバシーサービスとして知られるVPNやTorネットワークと異なり、国家レベルの大規模な監視にも打ち勝つことができるという。

Nym Technologiesについて

Nym Technologiesは、2018年にスイスで設立された。

2019年には最大手暗号資産(仮想通貨)取引所を運営するバイナンス参加のバイナンス・ラボが主導するプレシード資金調達ラウンドで4億円を資金調達。

2021年7月にはPolychain Capital主導のラウンドで9.4億円を調達したほか、同年11月には大手ベンチャーキャピタルa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)主導の資金調達ラウンドで15億円を集めるなど、投資家の関心は高い。

2022年2月には、CoinList(コインリスト)でNYMのトークンセールが行われ、2022年5月には米大手暗号資産(仮想通貨)取引所クラーケン(Kraken)にも上場した。

Nym Technologiesは、mixnetやプライベート・クレデンシャル(匿名認証)について、長年研究・開発を続けている。

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