- ブロックチェーンを利用したネット投票に高いハードル
- ブロックチェーン技術による革新が期待されている分野はかなり広範囲であり、その内の一つにブロックチェーン技術を利用したネット投票がある。ただ今回のInitiative for CryptoCurrencies and Contracts(IC3)の調査によると、ネット投票にはソフトウェア・ハードウェア面で課題が多く「ブロックチェーンを利用したネット投票」実現の壁は厚いと結論づけた。
進むブロックチェーンの応用
2008年10月にナカモト・サトシと名乗る人物がmetzdowd.comにて「Bitcoin:A Peer-to-Peer Electronic Cash System」と題した論文を発表した。
その論文内では中央集権的組織(政府や銀行など)によらない分散型(非中央集権)で、数学と暗号学技術に信頼の礎を置き、発行上限を定めたP2Pのデジタル通貨を提唱した。
ビットコイン作成の課題として取引記録をとるために分散型台帳を実現させる必要があったが、その過程で「ブロックチェーン技術」が生み出された。
ブロックチェーンは非中央集権の分散型台帳技術、または分散型ネットワークのことで、基本的に記録内容を改竄できず信頼性を高めることを可能としている。
この論文発表を皮切りに、その3ヶ月後の2009年1月にビットコインは誕生した。
またブロックチェーンの誕生以降、その応用例が次々と提唱され、実際に利用実験や商業利用がなされている。
その例には以下のようなものがある。
ブロックチェーン技術の応用例
- デジタル広告のためのマーケット分析
- デジタル著作権管理システム
- 電力の直接取引プラットフォーム
10月16日に自動車メーカー「トヨタ」は、ブロックチェーン関連広告分析企業であるLucidity社などと提携。ブロックチェーン技術を利用し、デジタル広告キャンペーンの効率化や透明化、詐欺などの不正防止を図っている。
ソニーは、教育コンテンツなどを主として、各機関やクリエイターなどが有する様々なデジタル著作権の管理システムをブロックチェーン技術を応用し開発している。
関西電力は、電力消費者とプロシューマー(発電した電気を消費し、余剰分は売電する生産消費者)が、太陽光発電によって生じた余剰電力を直接取引する実証研究を豪州パワーレッジャー社と共同で開始した。
上記した例からも見て取れるように、多くの企業などがブロックチェーンの特徴を利用して透明化や効率化を図っている。
他にもブロックチェーンの応用が期待されている分野は、金融業界やサプライチェーンなど数多くある。
なかでもよく議論に挙がる応用例として、「ブロックチェーン技術を用いた投票」がある。
現行の投票システムには多くの問題を抱えており、例えば2016年に行われたアメリカ大統領選挙では、アリゾナ州では投票者の長蛇の列ができ、投票するまでに5時間もかかった。
OECD(経済協力開発機構)の2016年のレポートによると、アメリカの国政選挙の投票率は世界ワースト4位となっている。
「多くの人がより積極的に投票所に足を運ぶべきだ」との意見もあるが、以上のような実態が原因でアメリカ国民を投票所から遠ざけているという側面があるということは否めない。
上述した理由などから、より簡単に投票を可能とするため、インターネットでの投票を導入しようという動きがある。
そして、そのネット投票システムの安全性と透明性を担保し、効率化を図るためブロックチェーン技術の応用が考えられている。
積極的にブロックチェーン技術などを取り込んでいるクリプトバレー「スイスのツーク」では、市政に反映されないものの、ブロックチェーン技術を用いた投票を試験導入している。
ブロックチェーン技術はネット投票普及を促進するのか
ブロックチェーン技術を利用することにより、選挙での不正が減ることが期待されている。
しかし、Business Insiderの報道によると、Initiative for CryptoCurrencies and Contracts(IC3)の調査員らは「ブロックチェーンはあらゆる業界において革新をもたらす可能性があるが、ネット投票はブロックチェーンが革新をもたらす分野ではない。むしろ悪影響を及ぼしうる。」と結論づけた。
ネット投票の抱える問題点とは
スマホを利用したネット投票は一見合理的に思える。
しかしサイバーセキュリティの専門家によれば、それは想像以上に複雑なものだという。
確かにネット投票を行えば投票者数の増加が見込まれるが、Verified Votingのメンバーであり、MITの教授Ron Rivest氏は「投票は大変重要なものであり、オンライン上で取り扱うことは不適切である。」と発言している。
サイバーセキュリティの専門家は外国政府や対峙する相手が技術的な脆弱性に対して攻撃を仕掛け、選挙を妨害する恐れがある点を指摘。
たとえブロックチェーンを用いて透明性を担保していても、そのような点からネット投票は適切でないとしている。
また、仮にブロックチェーンが外国政府やクラッカーからの干渉や妨害行為を完全に防ぐことができたとしても、ネット投票をするスマホなどのデバイスがハッキングされる可能性もある。
もしもデバイス機器がマルウェアなどに感染していると、投票先が意図的に変えられ、間違った投票内容がブロックチェーン上に記録されることが考えられる。
懸念点はそれだけではない。
ブロックチェーンの特徴である匿名性や分散性を利用して、投票買収が行われる可能性もある。
ブロックチェーンを利用したネット投票は大変期待されているが、投票を行うためのソフトウェアやハードウェアのセキュリティ面で大きな不安が残る。
ブロックチェーン技術を活用した透明性のあるネット投票が普及するハードルは、極めて高いと言える。