アナリスト対談
CoinPost株式会社が企画・運営し、日本国内外の主要プレイヤーが一堂に会するグローバルカンファレンス「WebX 2024」において、SBIVCトレードのアナリスト仮想NISHI氏、ビットバンクのアナリスト長谷川 友哉氏、マネックス証券のアナリスト松嶋真倫氏が登壇。
『半減期・ETF承認後のBTC価格どうなる?トップアナリスト3人で議論』というテーマで、ビットコイン(BTC)など暗号資産(仮想通貨)の市況について解説した。
長谷川氏は、CoinPostに暗号資産相場を分析した週次のマーケットレポートを毎週寄稿しているほか、仮想NISHI氏も不定期でマーケットレポートを寄稿している。
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ビットコイン相場の展望
仮想NISHI氏は冒頭、ビットコイン相場の今後の展望について、「最大供給量が限られる中、ビットコイン(BTC)の市場流通量は年々減っている」と指摘した。4年に1度の“半減期”の影響のほか、秘密鍵の紛失や保有者の死亡などの影響も2%程度あるとされる。
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過去の相場サイクルでは、半減期後の価格上昇については、同時期に米国の金融政策が金融緩和に向かったことも追い風となった。今年(2024年)については、1月11日にビットコインETF(上場投資信託)が承認されたこともあり、年初来で価格が大きく高騰する場面もあった。
市場に出回る法定通貨(米ドル)の量が増加すると過剰流動性でビットコイン(BTC)が上昇し、法定通貨の量減少すると下落する傾向にある。
次に講演した長谷川氏は、「ビットコインの本領発揮はこれからだ」と強気の見通しを示した。その根拠は、(潜在的な)売り圧力と買い圧力のバランスにある。
まず買い圧力としては、年初に米SEC(証券取引委員会)から承認されたビットコイン現物ETF(上場投資信託)への資金流入が8月までの累積で2.6兆円規模。さらに、2022年11月に経営破綻した大手仮想通貨取引所FTXの債権者に対する現金弁済が予定されていることから、一部が買い戻されるとして、推定で最大1.6兆円相当の潜在的な買い圧力が残されている。
一方、潜在的な売り圧力としては、米政府が犯罪収益として押収した1.8兆円相当のビットコインやマウントゴックス(Mt.Gox)の債権者への弁済分が20.6億ドル(3000億円相当)あると見込まれる。
流入額の差し引き(ネットフロー)を見ると、ビットコインETFの資金流入ペースがとにかくすごいと驚嘆し、運用資産残高はすでに500億ドルを突破したと指摘した。金(ゴールド)のETFが、上場承認後に同水準を超えたのは5年以上を要したという。
ETFを主導しているのは、ブラックロックのiシェアーズ・ビットコイン・トラスト(IBIT)とフィデリティ・ワイズ・オリジン・ビットコイン・ファンド(FBTC)であり、買い手となっているのは、大手伝統金融機関や著名なヘッジファンドだけでなく、公的な年金基金などしっかりしたところが資金を投じている。
長谷川氏は、「政策金利が高い現状でさえも、ビットコインETFにこれだけ高い関心と記録的な流入がある。FRB(米連邦準備制度)が利下げ判断を下せば、代替資産への資金流入が加速するのでは」との見方を示した。
政治の影響
続いて講演した松嶋氏は、世界的にも関心の高い「米国大統領選挙の影響 ビットコインは国家準備金になるか」というテーマで分析。
ドナルド・トランプ前大統領率いる共和党は、数行ではあるものの、政策綱領に暗号資産の推進を明言したと言及。ビットコインカンファレンスに登壇したトランプ氏は、「世界最大のビットコイン大国に言及しており、米国内で流通するビットコイン量を確保したいという思惑があるのでは」と解説した。
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一方、カマラ・ハリス副大統領の在籍する民主党は、暗号資産関連政策への態度を保留している。
民主党では、環境問題(気候変動)への懸念からビットコインマイニング課税を検討しており、米SEC(証券取引委員会)のゲイリー・ゲンスラー委員長を中心に厳しい取り締まりを行うほか、規制法案も議論中だ。
党の方針はハリスにも引き継がれるのではとしつつ、米国が出遅れるようであれば、中国やロシアがチャンスとばかりマイニング合法化など暗号資産(仮想通貨)推進が進むのではとの見解を示した。
ビットコインは、国家準備金になるかというテーマについては、主要国の金(ゴールド)準備高を勘案し、米国は金本位制の名残があると指摘。
「中国やインドでは近年になってから金保有量を急増させてきた。主にインフレ対策やドル依存脱却のために無国籍資産としての思惑があるためだ。ビットコインはデジタル・ゴールドと呼ばれる性質もあり、金融機関にも“金に準じるもの”というコンセンサスが出来つつある。」
「だとすれば、いずれは国レベルで準備資産として保有する可能性も考えられる。そうなれば、現在よりも一段高で相場が推移するのでは」と期待を示した。
アルトコインへの影響は
続いて、アナリスト同士の質問に移った。
仮想NISHI氏から「ビットコインETFが今以上に盛り上がった場合、アルトコイン市場はどうなる?」と質問を受けた松嶋氏は、現物ETFができたことにより、金融機関が市場に参加しはじめた。これまでのように『ビットコイン VS アルトコイン』のような単純な構造による関係性は見直す必要があると指摘。
アルトサマーで一気に高騰するような現象は、今後は起こりにくくなるのでは。と説明した。
松嶋氏からの長谷川氏への質問では、「共和党が勝った方がクリプト市場については好都合との見解がある中、民主党が勝利してゲンスラーSEC委員長が解任されずに残留した場合、暗号資産市場はどうなるか?」と尋ねた。
これについて長谷川氏は、「ハリス氏が大統領に当選した場合、ゲンスラー氏はSEC委員長のポジションではなく財務長官になる可能性が指摘される。そうなれば、経済政策を大統領にアドバイスする立場となり、これまでのように証券市場や暗号資産の規制面を直接的に作れるポストではなくなる。」と言及した。
ハリス当選の場合は、短期的には仮想通貨市場や投資家に嫌気されセンチメント的なネガティブな影響はあるかもしれないが、財務長官候補の人事についてハリス氏が慎重な出方をしている裏側には、党内の規制推進派に対する政治的配慮もあるのでは?そこまで心配は要らないのでは」との見解を示した。
景気が悪い時ビットコインはどうなる
長谷川氏から仮想NISHI氏への質問では、「雇用統計が弱めに出ていたり、景気がセンシティブになっているシグナルがある。リセッション(景気後退)に入った場合、ビットコインはどうなる?」と尋ねた。
これについてNISHI氏は、過去の相場場合は2020年3月のコロナ・ショックやその前のリーマン・ショックの時であれ、金融経済の急変が起きた場合は国が金融緩和政策を行い救済策に乗り出す。そうなれば過剰流動性でリスク資産にはプラスだとし、よほど強い景気後退が起きない限り、長期的にはビットコインは上昇しやすいのでは。と見立てた。
ビットコインが下落するリスクは
仮想NISHI氏は業界のアナリスト三人ともが強気の見通しを示す中、ビットコインが下落するリスクについても議論のテーマに挙げた。
マネックスの松嶋氏は、ステーブルコインの推進についてトランプ氏が言及する中、米国ファーストの同氏が大統領に復帰した場合は、米サークルのUSDCは推進するものの、最大のシェア(7割)を占めるテザー(USDT)については規制などで攻撃される可能性が高いとの見解を示し、いざ規制がかかるとDeFi(分散型金融)市場で混乱を招くリスクがあるとした。
最後に長谷川氏は、半減期サイクルで過去は上がってきたが、このような影響は今回が最後になるのでは。ビットコインETFの実現で、腰を据えた機関投資家が流入しており、今まで通りのものすごいドローダウン(最高値からの下落率)は起こらないかもしれない。」
「来年の方がアナリスト間の意見が真っ二つに割れそうだ。個人的には、暗号資産相場は来年からが面白い」として、総括を締めくくった。
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