
食品メーカーが挑むWeb3時代のクリエイターエコノミー
カルビー株式会社は、本日4月17日にIP事業成長戦略発表会を開催し、ブロックチェーン技術を活用したIP管理プラットフォーム「かるれっと」を発表した。
同プラットフォームは、クリエイターとの協業を容易にし、カルビーのIPを活用した二次創作を促進することを目的としている。この取り組みは、同社が過去2年間にわたって展開してきたWeb3事業の集大成とも言える新戦略だ。
食品を超えた「笑顔」の創出を目指す

カルビー株式会社 専務執行役員 笙啓英氏
カルビー株式会社 専務執行役員の笙啓英氏は冒頭の挨拶で、同社の強みである「フレンドリー」「親しみやすさ」に言及。顧客幸福度ランキングで1位を獲得した実績を挙げながら、「カルビーと近づくことによって笑顔になれることが価値を生む」というビジョンを示した。
カルビーはすでに「ルビープログラム」と呼ばれるアプリを運用しており、商品の袋を登録するとポイントが付与される仕組みを導入している。現在約100万ダウンロードを達成しているこのアプリを基盤に、食品以外の分野でもカルビーのIPを展開していく戦略だ。

カルビー株式会社 Calbee Future Labo ディレクター 松本知之氏
カルビー株式会社 Calbee Future Labo ディレクターの松本知之氏によると、同ラボは2023年4月から新規事業開発の活動を本格的に開始。Web3分野での取り組みを重ねてきた。
開発の背景
「かるれっと」は、カルビーが保有するIPの活用と外部クリエイターとの連携を効率化するためのプラットフォームである。ブロックチェーン技術の特性を活かし、契約の透明性確保や権利関係の明確化を実現する。
カルビーの新規事業を担う「Calbee Future Labo」は2023年から様々なデザインや象徴的なキャラクターのIPを活用し、グッズや雑貨、ゲームアイテムなどを展開。その結果、同社のライセンス商品は1年間で約80%増加し、食べるシーン以外でもカルビー商品を楽しむ機会が広がっている。
Web3の思想設計を活かす

Calbee Future Labo CXチームマネジャー 関口洋一氏
Calbee Future Labo CXチームマネジャーの関口洋一氏によると、このプラットフォームはブロックチェーン技術とWeb3の思想に基づいて設計されている。過去の実証実験の結果を踏まえて開発されたもので、特に3つの重要な要素に焦点を当てている。
- 契約の自動化と透明性を確保し、クリエイターが迅速かつ容易に契約を締結できるようにすることで、クリエイターの参入障壁を低減
- 取引情報をリアルタイムで記録し、カルビー内部及びライセンシー様とのやり取りを迅速かつ透明に行い、契約手続きの合理化を図る
- 異なるIPホルダーが容易に参加できる環境を提供
特筆すべき技術的特徴は、DID(分散型識別子)とVC(Verifiable Credentials)を活用した認証システムだ。従来、IPの利用許諾を得るためには煩雑な手続きと個人情報の開示が必要だったが、「かるれっと」ではマイナンバーカードを使った公的個人認証(JPKI)と生体認証を組み合わせ、プライバシーを保護しながら権利関係を明確にする仕組みを実現している。
「かるれっと」のIPエコシステムは、与信管理・契約の可視化を実現する二つの機能で構成されている。与信管理機能により権利者の信頼性を担保し、権利のワークフロー機能によって契約プロセスを透明化することで、クリエイターとの共創を円滑に進めることが可能になる。これによって従来のIP契約における煩雑さと不透明さという課題を解消している。
技術パートナーとして、DataGateway社が挙げられており、同社が開発するDID対応データウォレット技術を活用している。これは過去の「NFTチップスキャンペーン」でも使用された「wappa」ウォレットの技術を発展させたものと見られる。
NFTなどデジタル資産への取り組みも
「かるれっと」は、カルビーのIPとウォレットを組み合わせた構想の下に開発された。このプラットフォームでは、外部クリエイターが制作したデザインをライセンス展開することが可能になり、迅速な審査と契約締結を実現する。
すでに「じゃがりこドリーム 2nd『じゃがりこ細いやつ』グッズデザインコンテスト」で入賞したクリエイター8名と「かるれっと」を通じて契約を結び、入賞作品デザインを使用した商品の企画を推進する実証実験が行われている。
また今後、カルビー商品の食べる音を使った音楽レーベルの立ち上げやクリエイターコンテストなども計画されている。
2023年4月には博報堂やCryptoGames株式会社と共同で「NFTチップスキャンペーン」を実施。全国のコンビニで販売されたカルビーポテトチップスに、「ポテトNFT」をおまけとして付け、購入回数に応じて成長する「購買成長型NFT」という仕組みを日本で初めて導入した。

出典:カルビー株式会社
さらに2024年9月には、CryptoGames社の「CryptoSpells」、DEA社の「JobTribes」、HEALTHREE社の「HEAL-Ⅲ」の3タイトルのWeb3ゲームとコラボレーションを実施。各ゲーム内でカルビー製品をモチーフにしたNFTを展開し、Web3の相互運用性を活かしたゲーム間連携「WEB3 GAME FES」を展開した。この流れは2025年1月の「はぴウェル応援団」というWeb3 Jamとの取り組みへと続いている。

出典:カルビー株式会社
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将来的な展望
Calbee Future Laboは、カルビーのIPを活用して様々な生活接点にカルビーブランドへの入り口を作ることを目指している。「じゃがりこスニーカー」などのグッズや雑貨、ゲームアイテム、NFTなどを手掛けてきた実績があり、事業コンセプト「みんなでつくるCalbee Meets」を基盤に、2030年には世界中の顧客1,000万人に楽しんでもらうことを目標としている。
このブロックチェーン技術の導入は、伝統的な食品メーカーがWeb3技術を活用して新たな事業領域を開拓する先進的な事例として注目される。