KNCを通してDeFiトークンの価値を考えてみる
仮想通貨について情報収集をしていると、必ず分散型金融(Decentralized Finance、DeFi)についての話題が目に入るはずです。今回はそんなDeFiプロダクトが発行するDeFiトークンの価値を考える方法について書きます。
DeFiに関するある程度の知識を前提とするので、まだDeFiの全体像がつかめていない方は、ぜひ以下の記事を参考にして学んでみてください。
参考:広がるDeFi(分散型金融)エコシステム|Kyber network寄稿
参考:DeFi(分散型金融)が歩んできた歴史|Kyber network寄稿
DeFiトークンを保有する意味
Coingeckoの “Top 100 DeFi Coins by Market Capitalization” を見ると、様々なDeFiトークンがあることが分かります。よく話題になるトークンといえば、
- Uniswap の UNI
- Maker の MKR
- Compound の COMP
- Curve の CRV
- Synthetix の SNX
などがあり、その他の有力DeFiプロトコルもほぼトークンを発行しています。例えばUniswapやMakerの重要な決定事項はそれぞれUNI、MKR保有者の投票により決定されるため、これらのDeFiトークンはガバナンストークンとも呼ばれます。
ガバナンストークン保有者は通常、手数料率変更や具体的アップグレードなどプロトコルの改善提案を行い、投票で決定します。さらに決定事項を実際に行動に移し完遂するなど、全ての面において大きな貢献を行います。
最も大切な決定事項の一つに、プロトコル収益の分配方法があります。通常DeFiプロトコルは、利用されるにあたって手数料を徴収しています。
この収益の使途はガバナンストークン保有者で決定することが普通です。したがって、収益はガバナンストークン保有者への報酬として利用されることが強く期待されることになります。
この収益こそ、DeFiのガバナンストークンに価値があると考えられている理由です。
KNCトークンの実例
ガバナンストークンの役割についてよく知るため、Kyber Networkのガバナンストークン、KNCの実例を紹介します。Kyber Networkは、DeFiでも特にDEXなどに対して流動性を提供するプロトコルです。
Kyber Networkのプロトコル収益
tracker.kyber.network を開くと、Kyber Networkの取引高を知ることができます。
trackerを見れば、例えばこの直近1ヶ月Kyber Networkで記録した取引高は約6億3000万ドルであることが分かります。これが仮に1年続けば、年間取引高は約75億8000万ドルになります。
Kyber Networkでは現在、各取引高のうち 0.1%のETHをプロトコル収益として徴収しています。月間取引高を6億3000万ドルと仮定すると、1ヶ月あたり63万ドル分のETHがKyberプロトコルが稼ぐ手数料となります。同じ取引高が続くと仮定すれば、年間で756万ドル分のETHです。
この収益の使い道は、Kyber Networkのガバナンストークン、KNCの保有者が決定します。
KNC保有者によるガバナンス
Kyber Networkでは、kyber.org にて、KNC保有者の投票によるガバナンスを行っています。
KNC保有者はこちらに保有KNCをステークすることで、投票に参加することができます。上記の画像ではまさに、「Kyberプロトコル収益をどのように分配するか」を決定するための投票が行われています。KNCをステークした保有者は、好きな選択肢に投票します。
Kyberは現在ETHでの収益分配として、以下の3つ分配先を定めています。
- 供給を減らすため、ETHでKNCを購入し、KNCをバーン(消滅)させる
- KNCをステーク&投票した人にETH分配
- Kyberの流動性を提供している人たちのインセンティブとしてETH分配
上記の3つの分配率を投票で決定し、分配することにしています。
このような分配方法は各プロトコルにより異なりますし、Kyberの場合も提案さえあれば、分配先や使途を投票で変更することも可能です。例えば、収益の30%は開発費として備蓄する、などの決定も考えられるでしょう。
このように、KNCを保有してガバナンスに参加すれば、Kyber収益の分配を受けることができます。そのためKNC保有者にはKyberプロトコルを改善し、持続的なものにするため盛んにフォーラムで議論するインセンティブがあります。
KNCのリターンを計算する
Kyberは取引高に比例して収益を高めていくため、取引高の成長を考えることでKNC保有のリターンを考えることが可能です。例えば現在の1KNCの価格が 1.64ドルであったとします。
- 1KNC = 1.64ドル
- 年間予想収益 = 756万ドル
この年間収益の756万ドルをKNC保有者で分けることになりますが、KNCを持っていれば無条件で受け取れるわけではなく、ステークして投票することが必須条件になっています。現在ステークされているKNCの量は、kyber.org で確認できます。
左上の Total Stake を見れば、約6000万KNCがステークされていることが分かります。ステークは追加されたり引き出されたりもしますが、年間を通して6000万KNCがステークされると考えるとすれば、756万ドルを6000万KNCで分配することになります。
756万ドルを6000万で割ると、0.126ドルです。つまりKyberガバナンスに参加していれば、1KNCあたり年間0.126ドルを受け取れる計算です。
現在のKNC価格1.64ドルで考えると、年間リターンは約7.7%であると言えます。あくまでも取引高や手数料率、ステーク量が年間通して不変であることを前提に計算しています。特にKNC自体の価格下落には別途の注意が必要です。
stakingrewards.com では、KNCのようなガバナンストークンを始めとした、ステークにより分配が受けられるトークンのリターンを自動で計算してくれます。
各DeFiの重要指標を考えた上で投資する
DeFiトークンの価値を支えているのはプロトコル収益と、その分配の見込みです。したがって中長期的な保有を考えるのであれば、
- プロトコルの収益構造
- 将来的な伸び率
- 時価総額
- ステーク率
- 保有者間のディスカッション
など、リターンに関係する情報をできる限り勤勉に集め、熟慮の上に決定することが大切です。KNCの例で言えば、将来的に取引高が2倍(半分)になればリターンも2倍(半分)であり、手数料率を0.05%に下げて取引高が変化無ければリターンは半分になります。
プロトコルの重要な変更は全てリターンに影響するので、フォーラムでの議論は一定程度確認しておく必要もありますし、自ら積極的に提案して議論を喚起し、改善に貢献することも必要でしょう。
その他、株式のように収益と時価総額から評価を数値化して分析のサポートをしているウェブサイトもあります。
DeFiトークンに投資する際は、こういった指標を元に具体的な計算もしてみてください。一言で「収益」と言ってもそれぞれ意味が違う場合があるので注意しましょう。
Uniswapなどは現在のところ、まだトークン保有者へ分配するための収益を徴収していません。そういった場合、今後の見込みをしっかり調査することが大切です。
参考:初心者でもわかるUniswap完全ガイド|Kyber network寄稿
自分が長期的視点で投資しようとするトークンがあるならば、その仕組みを細かく調査し、stakingrewards.com や Token Terminal 等のサイトでデータをよく吟味することを心がけることをお勧めします。そして何よりDeFiの魅力は誰もが参加できる分散ガバナンスです。
自分がトークンを保有するプロトコルについて最もよく知り、提案や実行により主体的に関わることが大切で、DeFiを楽しむ秘訣でもあります。それが結果として投資効果を高めることに繋がるはずです。