オーキッド主催のプライバシーサミット
プライバシー保護を目的に分散型VPNプラットフォームを開発するオーキッド(Orchid)が、プライバシーに焦点を当てたサミット「Priv8」を、3月23日から25日にかけて開催。元NSA(米国家安全保障局)局員のエドワード・スノーデン氏や、台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏をはじめとした数多くの有識者が、ブロックチェーン分野やデジタル領域全体におけるプライバシーについて語った。
サミットの一部は、YouTubeから視聴可能だ(英語のみ)。
インターネットと社会の再構築—スノーデン
元NSA局員であり内部告発者として知られるエドワード・スノーデン氏は、オーキッド創設者のSteven Waterhouse博士、および電子フロンティア財団エグゼクティブディレクターのCindy Cohn氏と共に、「インターネットを修復する方法(How to Fix a Broken Internet)」と題した初日のディスカッションに登壇。インターネットの再構築方法や、それに伴う社会の再建について論じた。
スノーデン氏はインターネットにおけるプライバシーの課題について、インターネットは現状を反映および詳述しているだけであり、プライバシーの観点からインターネットが機能していないと感じるならば、それはインターネットが存在している社会自体が機能していないからだと自論を展開。
同氏はまた、ビットコイン(BTC)の発明に触れながら、テクノロジーの発展で権力が誇張されることにより、持続不可能な権力の不均衡が生じると主張。「ナカモト・サトシのような変わり者が論文を作成し、サイファーパンク(強力な暗号学やプライバシーが強化された技術の支持コミュニティ)のメールリスト上で他の変わり者たちと共有するようなことが起こる」と述べた。
これに関連して、オーキッドのSteven Waterhouse博士から、暗号資産(仮想通貨)開発者へのアドバイスを求められたスノーデン氏は、以下のように助言した。
仮想通貨領域で最も頼もしいことの一つが、仮想通貨分野の人々は、分散化の価値を理解しているということだ。私たちはこれまで、権力の集中を話題にしてきた。分散化によりこのような形が、再編されるだろう。
Jerome Powell氏(米連邦準備理事長)は先日、ビットコインは米ドルの脅威ではないと言っていた。しかし彼は、木を見て森を見ずにいる。分散型支配が、政府のお金および中央集権的プラットフォームに取って代わった場合、中央集権に依拠した現代社会における特権は消滅してしまう。それは今とは全く異なった世界であり、非常に遠い存在のようだ。しかしそのような動きが始まってしまえば、あっという間に広がっていくだろう。
その動き出しの瞬間を決定できるのは、この分野に従事している私たちだ。リスクが高く既存の価値が打ち砕かれると考えるのは自然なことだが、何もしなかった場合、何が起こってしまうのか、そして何が犠牲になってしまうのかについて自問自答しなければならない。
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プライバシー保護に尽くした台湾のコロナ対策—オードリー・タン
ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、Kara Swisher氏のインタビューを受けた台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン氏は、世界中から「コロナ対策成功国」とみなされている台湾の新型コロナウイルス対策について解説。国民のプライバシーに配慮しながら感染追跡を可能にした方法を、以下のような独特なフレーズを用いて説明した。
Sousveillance(参加者による監視)
台湾では新型コロナウイルス感染者の行動を追跡するために、政府などの中央機関による上からの監視(surveillance)ではなく、参加者による監視(sousveillance)システムを構築。身元を明かしたくない人々や、顧客の個人情報開示に特に消極的な夜の歓楽街で働く人々が、感染拡大防止に協力しないことに対して罰則を設けるのではなく、身元を明かさずとも追跡を可能にするシステムを作り上げた。
具体的には、歓楽街を訪れる人々に対して各店舗が、プライバシーが保護されたProtonMailや使い捨てのSIMカードでアカウントを作成し、メモ帳にそれらのアカウント情報や連絡先を匿名で残すように依頼。その地域でコロナウイルスの流行が4週間見られなければ、物理的にそのメモを破棄するというものだった。これにより政府が集権的に個人情報情報を収集せずとも、歓楽街で働く人々同士が感染状況を匿名で追跡できるようになった。
Memetic Engineering(ミーム学的設計)
タン氏曰く台湾政府は、国民の行動に影響を与えられるよう、ミーム学に基づいて文化的かつ心理的に伝播しやすい方法で発信を続けたという。例えばマスク着用を促す際に、「他人を守るため」と伝えるのではなく、「自身の手から顔にウイルスが付着してしまうのを防ぐため」と伝えたところ、実際に効果が見られた。
またこのミーム学的アプローチは、様々な情報が錯綜し陰謀論が渦巻く中で発生した「Infodemic(インフォデミック、誤情報による混乱)」対策にも効力を発揮した。
マスク製作にトイレットペーパーと同じ原材料が使用されているため、トイレットペーパーが不足するという誤情報が広まり、トイレットペーパーの買い占めが起こった際、台湾行政院長は、「お尻は一つしかないのだから必要な分だけ購入しよう」というジョークを交えながら、トイレットペーパーおよびマスクは、異なる材料から作られていることを説明したミーム画像を公開。その画像は一気に広まり、人々の混乱も収まった。
Nerd Immunity(知識による集団免疫)
タン氏は、事実確認をクラウドソース化し、多くの人が情報を精査できる環境を作ることにより、インフォデミックが抑えられる状況を、集団免疫を意味する「Herd Immunity」をもじって、「Nerd Immunity(専門知識を持つことによる免疫)」と呼んだ。多くの人が事実確認に参加しNerd Immunityが形成されることにより、中央政府に懐疑的な人がいたとしても、誤情報や陰謀論が拡散されないシステムが構築できると述べた。
タン氏の最大の懸念
インタビューの最後に、パンデミックにおける最大の懸念を尋ねられたタン氏は、監視社会や監視資本主義社会が、個人にプライバシーを放棄させるような「新形態」に移行してしまうことが心配であると答えた。また他の国の新型コロナウイルス対策について、「他の地域では、トップダウン型のロックダウンのみが、パンデミックやインフォデミックに対抗する唯一の手段であると誤解されている可能性がある」と、危惧した。
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プライバシーに関するデータ
今回のサミットを主催したオーキッドは、イベントを総括したニュースレターにて、世界各国のプライバシーに関する興味深いデータおよび数字も共有している。この中には、新型コロナウイルス禍で、プライバシーに関する懸念が高まっていることを示唆するデータも存在している。
意識調査の結果
- アメリカ成人人口の9%がデジタルプライバシーは虚構である、または存在しないと考えている。
- アメリカ人の80%がソーシャルメディア・プラットフォームまたは広告主が保有する個人情報に不安を抱いている。
- 同じくアメリカ人の80%が、民間企業にデータを共有する際にリスクがメリットを上回っていると感じている。
データ漏洩
- フィリピン政府が開発した新型コロナウイルス対策用追跡アプリから発見された脆弱性により、190,412人のユーザーの位置情報が不正に取得された。
- 極めて個人的なデータを複数の広告提携先に提供したとして、ノルウェーデータ保護機関(Norwegian Data Protection Authority)が、デートアプリGrindrから960万ユーロ(約12億4,000万円)の罰金を徴収。
- 4億9,300万人の人が2019年にデータ漏洩の被害を受けた。
インターネットにおける自由度
- インターネット上での自由度ランキング1位の国はアイスランド、最下位は中国。
- パンデミック下にある2019年から2020年の1年間で、ミャンマーおよびキルギスタンでインターネット自由度指数が5ポイント低下し、調査対象国の中で最も著しい低下を記録。インド、エクアドルおよびナイジェリアがこれに続き、4ポイントの低下。
出入国管理システム
- 顔認証技術を活用した自動出入国管理システムにて5%の人が誤って入国拒否された。
- 自動化された出入国管理システムでは認証に10~15秒かかるのに対し、入国管理官による審査は平均10秒で完了している。
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