中国中銀、デジタル人民元の白書公開
中国の中央銀行である中国人民銀行は16日、各地で実証実験を行うデジタル人民元(e-CNY)のホワイトペーパーを発表した。中国のCBDC(中銀デジタル通貨)で一部スマートコントラクト機能を追加することが初めて公表された。
ホワイトペーパーとは、事業計画書のようなものだ。
今回、21ページにわたるデジタル人民元(Digital Currency/Electronic Payment)の研究開発に関する進捗状況を報告する白書にて、中国人民銀行はe-CNYの設計と機能開発、並びにシステムのデバッグが基本的に完了していると報告。「安定性、安全性、制御性、革新性、実用性」などの原則に基づき、代表的なエリアで実証実験を実施していると述べた。
白書によれば、今年6月末時点でデジタル人民元は、総額5,900億円(345億人民元)に相当する7,075万以上の取引の処理に成功した。日常的な請求書支払い、飲食サービス、交通機関、ショッピング、政府のサービスなどさまざまな場面における決済で利用されたという。
デジタル人民元の機能
また、今回の白書では、デジタル人民元にスマートコントラクト機能が導入されることが示唆された。これにより、受取側と送信側が合意した場合には、自動的に支払い取引を行うことができるようにプログラム可能となる。
他にも、デジタル人民元は「コントロールされた」匿名性を有すると説明。「少額は匿名、多額は法に基づき追跡可能」という原則の下、少額決済は匿名で可能となるものの、多額の送金の際には、デジタル人民元が違法行為に使用されず、取引がマネーロンダリング防止およびテロ資金対策の要件に適合することを保証する必要がある。
さらに、デジタル人民元は銀行口座に頼らずに価値を移転できる価値機能を持ち、「決済としての支払い」という特徴を持つオフライン取引に対応している。
デジタル決済の需要
また、累計2,087万以上の個人ウォレットと351万以上のパブリックウォレットが開設されたと説明した。利用が順調に進んでいる背景には、デジタル経済の発展に伴う現金利用の減少傾向にあるとした。
同行が2019年に実施した調査によれば、WeChatやアリペイの取引件数は全体の66%を占め、送金金額も59%を記録。現金取引の処理件数は23%、取引金額も16%と、中国の現金使用率は近年減少傾向にあった。
そこに加え、中国人民銀行は「現在、中国経済は高度成長期から質の高い発展期へと移行している」と述べており、デジタル経済に代表されるイノベーションが経済的な発展の勢いを生み出す重要な原動力になっていると捉えている。
また、2020年以降のコロナウイルスの感染拡大以降、オンライン決済やリモートワークなどデジタル経済が拡大するきっかけになったと指摘。オンライン金融サービスへの需要は今後さらに増加するとの見込みを示した。
今後の計画
デジタル人民元の長期的な計画については、中国政府の「第14次5カ年計画に沿って着実に推進していく」と記し、開始時期を定めずに、以下の分野を中心に着実に推進していくと説明した。
- 研究開発と実証実験を辛抱強く、順序立てて継続
- 関連法案と制度の検討および改善
- 主な課題に関する研究の強化
レポートでは実証実験を行う地域の利用範囲をさらに拡大に、長期的にはパイロット地域のフルカバレッジ実現を目指す。また、各州法令の改正を積極的に推進し、金融情報やデータのセキュリティなどの観点から、包括的なシステムセキュリティのテストと評価を実施していく。
また、法定デジタル通貨が金融政策、金融システム、金融安定性に与える深い影響についての研究と評価を深め、デジタル人民元の研究と開発のための優れた理論的政策基盤と応用の見通しを築いていくとした。
中期的には、2022年の北京冬季五輪にてデジタル人民元の実証実験を行うと説明。今回の白書にて、オリンピックの競技場付近で無人販売カートや自動販売機、無人スーパーなどの革新的なアプリケーションを実装予定であるとした。新たな試みとして、決済の際に利用できる手袋やバッジなど、決済機能を持つ服装の販売を想定しているという。