デジタルドルの必要性に異議
米連邦準備制度理事会(FRB)のChristopher Waller(クリストファー・ウォラー)理事は、デジタルドル発行の必要性については懐疑的だとして議論を展開した。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)であるデジタルドルが必要だとする理由は様々に挙げられているが、ウォラー理事はこれらに一つ一つ反論している。米シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」のインタビューにおける発言だった。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)
各国・地域の中央銀行が発行するデジタル化された通貨を指す。「Central Bank Digital Currency」の略。仮想通貨との大きな違いは、CBDCは法定通貨であること。通貨の管理や決済等においてコスト削減や効率性向上が期待できる一方で、個人情報やプライバシーの保護、セキュリティ対策、金融システムへの影響など考慮すべき課題は多い。
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ウォラー理事の主な論点
ウォラー理事の主な議論は以下の通りだ。
・決済システムの効率性向上について
CBDCにより、より効率的で広く使える決済システムが導入できるという議論があるが、現状すでに、ある民間銀行のユーザーは、国内外の他の銀行のユーザーに送金可能である。
また、決済スピード向上についても、近年商業銀行のグループやFRBが即時決済システムを開発しており、こうしたシステムは、特にCBDCを必要とはしていない。(FRB独自の即時決済サービス「Fed Now」は企業や個人が金融機関を利用して24時間決済できるもので、取引時間も数秒に短縮される見込み。数年後の立ち上げを目指している。)
・金融包摂について
銀行口座を持たない人々が、CBDCにより金融サービスにアクセスできるようになると主張する人もいる。しかし2019年に連邦預金保険公社(FDIC)が行った調査を参照すると、銀行口座を保有しておらず、かつCBDCの口座を持つ可能性が高い層は、米国世帯の1%にすぎなかった。
・イノベーションについて
CBDCが決済システムにイノベーションをもたらすという議論がある。しかし、すでに決済分野における民間のイノベーションは、規制当局の処理能力を上回るスピードで急速に進んでいるようにみえる。
その一つである、ビットコイン(BTC)などの仮想通貨は非合法活動に使われるなどの問題もある。だが、CBDCを導入しても仮想通貨の使用を阻止することはできないだろう。
・経済活動の監視について
設計の仕方にによっては、CBDCはそのユーザーの金融取引や取引パターンに関する膨大な情報へアクセスすることを可能にする。例えば、中国におけるデジタル人民元の導入は、中国政府が国民の経済活動をより綿密に監視することを可能にするだろう。しかし、FRBが同じことを行うべきとは思わない。
・米ドルの基軸通貨としての地位について
中国のCBDCにより、米ドルの地位が損なわれるのではないかと懸念する論者もいる。だが、すべての金融取引が中国政府に監視される可能性を考えると、世界の企業がデジタル人民元を採用するかは疑問だ。また、契約や取引を中国の通貨で行う必要性も見当たらない。
・ステーブルコインについて
民間のステーブルコインが、FRBの金融政策の効果を弱めると指摘する意見がある。しかし、米ドルに固定されたコインは、むしろ米ドルをコントロールする金融政策を反映し、政策の効果を増幅させる。つまり、どちらかというと、ドルに紐付けられたステーブルコインは、米国の金融政策が影響をおよぼす範囲を広げるものといえる。
ウォラー理事は以上のように、CBDCの必要性について反論。結論として、CBDCが「米国の決済システムが抱える問題を解決するという議論には懐疑的」だとした。
FRBのジェローム・パウエル議長は、デジタルドルについて、その課題などをまとめたディスカッションペーパー(協議書)をまもなく発行するとしている。この背景について議長は「CBDCを設計する際には様々な面で課題が浮上するため、慎重な検討や分析が必要」だと述べていた。
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