はじめての仮想通貨
TOP 新着一覧 チャート 学習-運用 WebX
CoinPostで今最も読まれています

Conclave ユースケースと実装サンプルの紹介|SBI R3 Japan寄稿

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

Conclave ユースケースと実装サンプルの紹介

今日は、R3が開発した新技術Conclaveのご紹介をします。

Conclaveとは、秘匿計算ソリューションの一つで、その概要については弊社の別記事(秘匿計算ソリューションConclave ~秘匿計算技術の比較~)をご覧ください。この記事では、R3で想定している具体的なユースケースとその実装サンプルをご紹介します。

目次
  1. ユースケース①法人の収入保障保険
  2. ユースケース②ダークブール
  3. ユースケース③株式エクスポージャーの計算
  4. 実装コードの紹介
  5. 最後に(イベントでのDemoのご案内)

ユースケースの紹介

秘匿計算ソリューションであるConclaveを用いる場面を理解する為に、3つのユースケースをご紹介します。

①法人の収入保障保険

コロナ禍では、多くの企業が予期せぬ減収に見舞われました。政府補償等である程度補填されているものの、存続の危機に見舞われている企業も少なくありません。

そこで、(今後もあり得る)予期せぬ危機に対して保険会社が保険を提供しようとする動きがあります。

このような保険を作る際には、保険を確保したい企業は、保険会社に対して、例えば「過去3年間の収入額の平均値」といった情報を提供する必要があります。

Conclave無しの業務プロセス

そして、保険会社は、この金額に基づいた保険料の見積もりを提示することになります。従来、この「過去3年間の収入額の平均値」を正しく証明する為に、企業は(銀行が提供する)入出金明細などの情報を保険会社に提供していました。

これは、多数の機微情報が含まれる情報が「裸で」やりとりされてきたことを意味します。非効率的であるばかりか、(特にそれが中小企業の場合)プライバシー上の課題も抱えることになります。

秘匿計算ソリューションであるConclaveを用いれば、この非効率でプライバシーリークの危険性を持った業務を変革することが可能です。下の図をご覧ください。

  1. 企業(Policy Holder)が保険料試算を依頼
  2. 保険会社(Insurer)が企業に対して「過去3年間の収入額の平均値」を提供するよう依頼
  3. 企業が銀行(Bank)に対して「入出金明細をConclaveに提供するよう依頼」
  4. 銀行がConclaveに入出金明細を提示
  5. Conclaveが入出金明細から「過去3年間の収入額の平均値」を計算
  6. Conclave「過去3年間の収入額の平均値」を保険会社に提示

このプロセスでは機微情報である入出金明細は保険会社に渡りません。しかし、必要な平均収入額は、「正しいデータをもとに正しく計算された」という証明付きで保険会社に提供されることになります。

以上が最初のユースケースのご紹介でした。

このソリューションはZKP等他のソリューションでも提供可能かもしれません。しかし、このソリューションを社会実装する上で重要なのはソリューション構築と運用のコストです。

秘匿計算のコアハードウェアであるIntel SGXは既に皆さんのPCの中に存在しています。(あなたがM1 Macの使用者でなければ!)そして、Conclaveを用いた秘匿計算実装はJavaで行うことができます。

つまり社会実装に向けたハードルは非常に低いのです。

②ダークブール

ダークプールとは、実行されるまでクライアントの注文を非開示にする取引所です。注文が公開されている場合、その注文情報を元に注文を入れるシステムトレーダー等によって、価格が不安定化することが知られています。

注文情報を非開示にすることで、(少なくとも理論的には)価格の安定性を確保することができます。

一方で問題は、システムを制御する取引所が注文を「漏らし」たり、インサイダー情報を悪用したりする可能性があることです。こうした懸念があることから、証券取引所等の公的な性質を持つ機関では利用されてきませんでした。

公開型の板と、ダークプールの対比

この問題の解決策は、Conclaveを使用して注文書と注文データを保護することです。下の図をご覧ください。

青いところがEnclave(Intel SGXで作られた安全な領域)です。この中にConclaveで作られたアプリケーションが(誰からも読み取れない形で)実装されます。

Dark Poolのワークフロー

  1. 顧客のアカウントをEnclave内に作成
  2. 買い注文をEnclaveへ送信
  3. 売り注文をEnclaveへ送信
  4. Enclave内のConclaveアプリが注文のマッチングを実行
  5. マッチング結果を顧客へ通知し、注文を執行(この部分はブロックチェーン基盤Cordaで実行したいですね!)

このようにして、リークの心配がなく、かつ「ずる」のできる可能性のない安全で安定した取引所を実現することができます。このソリューションでは、内部に簡易DBを持ちます。

一定規模まではオンメモリで、さらに大規模化する場合は外部のパーシステントへ暗号化して情報を持たせることが可能です。

③株式エクスポージャーの計算

最後の例は、この春マーケットを賑わせたヘッジファンドArchegosの破綻問題に関するソリューションです。(以下は筆者の憶測であり、事実と異なる可能性が高いことをお含みおきください)

Archegos問題では、多くの金融機関がArchegosに対して株式ポジションを提供していました。そして、破綻懸念が出た時に、ポジションを手仕舞うよう求めました。

しかし、アルケゴスが特定の株式に対して(金融機関ごとに構築しているポジションは小さいものの)全体として非常に大きなポジションをとっていたことが判明し、破綻を回避するための手仕舞い自体が株式市場を混乱に陥れてしまいました。

Archegosの破綻は、集団的なリスクエクスポージャーに対処するため、金融機関の間で協力する必要性を浮き彫りにしました。しかし、取引情報の公開は金融機関のビジネスの根幹を揺るがしかねない行動です。

金融機関間の連携では、参加者が情報を抽象化しつつ、セキュリティ、整合性、プライバシー等を確保する必要があります。

こうした問題に対するソリューションをConclaveは提供可能です。上の図をご覧ください。

  1. 各金融機関は、日時の取引情報をConclaveアプリケーションへ送信します。
  2. Conclaveアプリケーションは、各金融機関の取引情報をもとに、特定の顧客のエクスポージャーを計算し、各金融機関でのポジションがそのうち何%を占めているかを各銀行に示します。

このソリューションでは、個別金融機関の取引情報は(誰一人触ることができない)Conclaveの中でしか開示されません。結果としてそのデータのプライバシーは保たれます。

一方で結果を集計して得られる特定株に対するトータルエクスポージャーを確認することはできます。

実装の紹介

簡単にではありますが、3つ目のユースケースのソースコードを一部抜粋してご紹介します。

  1. class AnalyticsEnclave : Enclave() {
  2.    private val database = Database()
  3.     @Synchronized
  4.     override fun receiveMail(id: Long, mail: EnclaveMail, routingHint: String?) {
  5.         val message = serializer.decodeFromByteArray(Message.serializer(), mail.bodyAsBytes)
  6.         when (message) {
  7.             is Request -> processRequest(message, mail.authenticatedSender)
  8.             is Response -> processResponse()
  9.             else -> {
  10.             } // If we do not know the type of message, we ignore it.
  11.         }
  12.     }

Kotlinで書かれたコードですが、Javaエンジニアであればそれほど苦労なく読めるかと思います。Enclave()というのが弊社が提供しているConclave実装です。

やっていることは

①データベースを定義し

②外部から送付されてくるEnclave Mailと呼ばれるメッセージを処理する

という二つを実装しているだけになります。これにより安全な環境であるIntel SGXでアプリケーションを実装できます。

もちろん実際のDemo実装は、この他に

①Conclaveアプリケーションで使うDBや処理ロジック

②ユーザーが使うクライアントアプリケーション

③ユーザーのリクエストをEnclaveへ転送するホストアプリケーション

などを持ちます。

最後に(実装サンプルDemoのご案内)

今日ご紹介したユースケースは全て既にサンプル実装がございます。また、弊社主催の夏の技術イベント(Corda 夏の陣)にてサンプル実装のDemoと、簡単なコード紹介をご覧に入れる予定です。

単純なDemoではありますが、興味のある方は是非ご参加ください。

・・・

最後までお読み頂き誠にありがとうございます。

記事へのご質問やブロックチェーンに関してお困りごとがございましたらお気軽にご連絡下さい。ブレインストーミングやアイデアソンも大歓迎です。

Facebook: https://www.facebook.com/R3DLTJapan

Twitter: https://twitter.com/R3Sbi

HP: https://sbir3japan.co.jp/product.html

お問い合わせ:info-srj@sbir3japan.co.jp

寄稿者:YuIku   公式Medium
like #blockchain and #smart-contract, especially #corda #fabric #ethereum

おすすめ記事

~秘匿計算技術の比較~
~ブロックチェーンで世界を変えるための第21歩~
____________________________________________________ <お知らせ> SBI R3 Japanブログは、MediumからSBI R3…

記事一覧

“” is published by SBI R3 Japan株式会社 in Corda japan.
CoinPost App DL
厳選・注目記事
注目・速報 市況・解説 動画解説 新着一覧
10/08 水曜日
17:12
ビットフライヤー、「スカイ(SKY)」の取扱い開始
bitFlyerは、メイカーダオ(MakerDAO)の後継トークン「スカイ(SKY)」の取扱いを開始。取扱記念キャンペーンも実施し、販売所での購入が可能となった。
16:15
IG証券、ビットコインETF・イーサリアムETFのCFD取引を提供開始
IG証券がビットコインETF・イーサリアムETFのCFD取引を開始。制度化が進む日本市場で、税区分や課税扱いを巡る動向にも注目が集まる。
14:00
「ビットコインは金に比べ著しく過小評価」ライトスパークCEO語る
ライトスパークCEOのデービッド・マーカス氏が、ビットコインは金と比較して著しく過小評価されており、金と同等の価値なら1BTC=130万ドルに達すると主張した。金価格が史上最高値の4000ドルを突破する中、JPモルガンもビットコインが過小評価されていると指摘し、16.5万ドルの価格予測を発表している。
13:25
トランプミームコイン発行企業、2億ドル調達でトレジャリー企業設立へ=報道
TRUMPミームコイン発行企業が最低2億ドルの資金調達を計画中とブルームバーグが報道。低迷するトークン蓄積のためデジタル資産トレジャリー企業設立を目指す。
13:10
米金融大手BNYメロン、トークン化預金を検討=報道
BNYメロンがトークン化預金の導入検討をブルームバーグが報道。1日2.5兆ドルの決済を処理する同行がブロックチェーン活用でインフラ近代化を推進。
11:45
「仮想通貨への投資は今でも遅すぎない」パンテラ幹部が見解
パンテラキャピタルのゼネラルパートナーがビットコイン、イーサリアム、ソラナなど仮想通貨投資の将来性を語った。ファンドマネージャーの多くが投資しておらず拡大余地ありとする。
11:15
クリーンコア、ドージコイン保有量7.1億DOGE到達 含み益30億円超に
米NYSE上場のクリーンコアソリューションズが公式ドージコイン・トレジャリーの保有量7.1億DOGE突破を発表。10億枚目標に向けビットスタンプ提携で取得継続中。
10:35
米SEC、仮想通貨企業向け「イノベーション免除」制度を年内にも正式化へ
SECのアトキンス委員長が8日、仮想通貨企業向けの「イノベーション免除」制度を年内か2026年第1四半期に正式化する意向を示した。政府閉鎖が規則制定の進展を妨げている。
10:10
トレジャリー企業とETFのイーサリアム保有量、供給の10%以上に到達
企業とETFによる仮想通貨イーサリアムの保有額が供給の10%を突破した。ビットマインやシャープリンクが大量蓄積を続ける一方、過熱へ注意を呼びかける論者も。最新動向を解説する。
08:10
ビットコイン史上最高値圏で急落、デリバティブ市場は強気継続を示唆|仮想NISHI
仮想通貨ビットコインは7〜8日にかけて、史上最高値付近まで上昇したのち急落するという激しい値動きを見せた。最高値圏では流動性が極めて薄く、ボラティリティが急拡大しやすい局面にある。
07:35
シャープリンク、イーサリアム戦略で含み益9億ドル超
ナスダック上場のシャープリンクが7日、イーサリアム・トレジャリー戦略開始以来の未実現利益が9億ドルを超えたと発表した。ライバルのビットマインは総保有額134億ドルに達している。
06:55
予測大手ポリマーケット、Bakktの親会社ICEから3000億円の戦略的出資を獲得
大手予測市場ポリマーケットはニューヨーク証券取引所の親会社ICEから20億ドルの戦略的投資を獲得したと発表した。同日ビットコイン入金機能も開始した。
06:30
ビットコイン、休眠クジラの6000億円BTC移動などで急落も大口の歴史的買い圧力は継続
3年以上休眠していた仮想通貨ウォレットから32,322BTCが移動しビットコインへ売圧をかけている。一方で他のクジラウォレットが過去1週間で6万BTC以上を取得し強い買い圧力も確認された。
06:00
バイナンスのBNB、過去最高値更新し時価総額3位に浮上 高騰の背景は
バイナンスのBNBトークンが7日に過去最高値1330ドルを更新し、時価総額でテザーを抜いて仮想通貨3位となった。上場企業CEAインダストリーズが48万BNB保有を発表した。
05:46
米S&P、仮想通貨と関連株を組み合わせた新指数を立ち上げ
S&Pグローバルが7日、仮想通貨35銘柄と関連企業15社を組み合わせたS&Pデジタル・マーケッツ50指数の立ち上げを発表した。トークン化企業ディナリが指数設計で協力する。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア
重要指標
一覧
新着指標
一覧