仮想通貨規制の課題
世界経済フォーラム(WEF)は、暗号資産(仮想通貨)の規制を目的に沿った効果的なものとするための指針を示す論文を発表した。執筆したのは、グローバル未来カウンシルの仮想通貨部門。そのメンバーにはConsenSysやリップル社、Uniswapなどのテクノロジー企業をはじめ、世界の著名金融機関、資産運営企業や決済企業、学術研究機関などが名を連ねている。
「仮想通貨規制への対応」と題された論文では、業界からの視点を示し、規制を策定するためのツールを提供。現在、「規制当局は仮想通貨の急激な成長に追いつくのに苦労している」が、過去のイノベーションへの対応を参考に、技術への理解を深めるために仮想通貨セクターと協力し、規制の枠組みを開発することが欠かせないと主張した。
世界経済フォーラム(WEF)とは
世界と地域の経済問題に取り組むことを目的とし、政治、経済、学術分野のリーダーの交流促進を図る非営利の国際団体。1971年、スイスの経済学者クラウス・シュワブが設立。
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三つの教訓
執筆者の一人で、Mercy Corpsの上級科学技術者であるAlpen Sheth氏は、目的に見合う規制策定のための三つの教訓を示した。
1. 仮想通貨導入の原動力となっているのは何かに注目する
2. 仮想通貨の技術的意義とユースケースの理解に努める
3. 包括的なグローバルレベルのガバナンスの実現
仮想通貨普及の原動力
仮想通貨への関心を高めている要因として、Sheth氏は中央銀行の政策(大量の法定通貨発行)、ハイパーインフレ、不安定なマクロ経済を上げている。特にパンデミックで顕著となった通貨価値の下落に対応するため、マイクロストラテジー社やテスラ社などの企業がビットコイン(BTC)の保有を開始。またエルサルバドルは法定通貨にビットコインの採用する決定を行った例を提示した。
企業や国家だけでなく、歴然とした送金コストの差が、一般消費者レベルでP2P取引の増加に繋がっている。また、ステーブルコインが仮想通貨と法定通貨の便利な交換手段として開発され、急速に拡大した。時価総額が250億ドルを超えたUSDCの場合、複合年間成長率は6100%と驚異的な伸びを記録した。
取引処理が速い新たな仮想通貨ネットワークやレイヤー2ソリューションの開発も盛んで、分散型金融(DeFi)も発展している。これらの急速に普及するイノベーションを支えているのは、オープンソースのアーキテクチャとグローバルな開発者コミュニティだとSheth氏はまとめた。
仮想通貨のメリット
仮想通貨のユースケースは多岐にわたり、初期のインターネットプロトコル開発と同様、その可能性を事前に把握することは難しい。そのため、性急に既存の規制や定義を適用して対応しようとすることは、賢明ではないとSheth氏は主張する。
仮想通貨ネットワークは、検閲と単一障害点に耐性を持ちつつ、データ及び価値の安全な送信、保存、アクセスの提供が可能。そして仮想通貨は監査が可能なため、実際にはマネーロンダリング等の不正行為を検出して抑止するとともに、犯罪を摘発するための証拠を提示することもできる。
実際、規制当局が危惧する仮想通貨を使った不正行為は、仮想通貨取引全体の0.34%に過ぎないと同氏は指摘。当局は中央集権型と分散型の取引活動リスクを区別することが必要だが、仮想通貨は透明性を高め、規制の機会を提供すると付け加えた。
グローバルガバナンス
仮想通貨の特性の一つが、易々と国境を超えてしまうことだろう。オープンソースのビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの仮想通貨ネットワークは、インターネットを介して世界のユーザーが直接利用することが可能。一方、世界のそれぞれの法域によって、規制内容に差があることから、規制の不確実性が生まれている。
規制の明確化や抜け穴の解消のため、各国・地域の管轄を超えた規制基準の策定に取り組むべきだと、論文は強調している。一方、ただ厳格な措置を講ずるだけでは、問題の解決にはならない。
仮想通貨を禁止してもその普及を阻むことはできない。それは規制当局がネットワーク上の市場活動を導く能力や、潜在的なリスクに対応する能力を制限することにしかならない。
Sheth氏は、実際のユースケースや革新技術に取り組む当事者との協議によって得られた情報に基づく規制が、長期的に見るとより強固なものになると強調し、金融包摂や競争、成長の促進を強化するものになるだろうと結んだ。