仮想通貨に大きな価格変動が起こる理由
12月上旬は、今まで好調だった仮想通貨市場全体の時価総額が23%急落し、一時的にベアマーケット入りしたことは明らかだった。
まだまだ市場は下がるという声もある一方、じきにこれまでの強気市場に反動的に戻るだろうという楽観的な声もある。米国連邦準備制度は、今週2日間に渡り行われた金融政策についての会議で、「金融市場はさらなる価格変動を経験するだろう」と結論づけた。
米ドルは、上昇するインフレを相殺中であり、デジタル資産保有者は世論的に最高の状態だと言われている。マイケル・セイラー(Michael Saylor)氏やイーロン・マスク(Elon Musk)氏などの大企業のCEOは、仮想通貨やブロックチェーン技術をサポートしていることを公言し、有名アーティストらへのNFTの普及により、ブロックチェーン技術は主流になりつつある。
それでは、なぜ市場の大幅下落が起こったのか?
仮想通貨の普及によって、安定性を増すのではないのだろうか?また、ビットコインのデフレモデルが多くの投資家の関心を引いているのではないのだろうか?
しかし、市場の価格変動は複雑であり、多くの未確定要素を組み込んだ動的な現象である。全く不可能ではないにせよ、すべてを把握することは困難だ。時に、市場はちょっとした要因にも大きく反応することがある。
一貫して新たな局面に押し上げられる状況ではあるが、ビットコインの大きな変動も多くの投資家に損失をもたらしている。ビットコインは、この10年程の歴史の中で、定期的に-30〜40%の下落を経験している。理論的には、ビットコインの価格はネットワークに多くのお金が投資されるほど安定性を増す。しかしながら、実世界の市場は理論通りにいかないのが常である。
下落とその影響
ビットコインがどのようにその価値を生み出しているのかを解説するオンライン記事は多くあるが、仮想通貨市場はいまだに(特に)予測が難しい。ビットコインの数々の使用事例は早急な進展を見せているが、ビットコインを特定の価格とリンクさせる明確な方法は今のところ存在しない。そしてこれにより、資産クラスは市場のムードの変化に過度に影響を受けやすくなっている。
仮想通貨のトレーダーはかなり多くのレバレッジ(証拠金取引)も利用している。賢明なトレーダーは、これによって少ない資本で大きな利益を得ることができるが、価格が下落した時は、強制的なポジションのロスカットにより市場全体の連鎖的な損失を引き起こしかねない。
価格変動については、国の規制もあまり役には立たない(限度がある)。規制機関は、資産クラスにより良い法的枠組みを提供しようと努力しているが、多数の仮想通貨が、政策の厳重化により、むしろその成長(イノベーション)を妨げられているなど本末転倒との指摘も少なくない。
さらに、仮想通貨は国境や政府に明確な影響を受けないため、きちんと定義された資産の扱いに慣れている法律家にとっては、より困難な資産と言える。
リスクの制限
リスク回避型の投資家は、リスクヘッジ(分散)の方法を常に探し求めている。ポジションを決済すれば市場の揺れが資本に影響しないためリスクを減らすことは明らかである。しかし、市場がもたらす可能性のある将来的な利益のチャンスさえも同時に失ってしまう。
一般的に、トレーダーは、市場の上下を予測し、それに基づきポジションを保有する。しかし、変動の激しい市場では、多くの投資家がロングとショートのポジションの両方を保有する。市場が上向きの際は利益を抑える効果があるが、市場が大幅下落した際はポートフォリオを損失から守ることができる。
変動の激しい市場で取引を行う際は、「流動性」が重要である。最小のスリッページで資産をすぐに現金に交換できる場合は、市場の一体性を示す兆候である。
それがなければ、トレーダーは急な変動が起こった際にポジションを変更することができない。また、ポートフォリオを分散することも役立つ。これはリスクを限定するために新規トレーダーに助言される最も良く知られる方法の一つだ。
ショートポジション(空売り)も選択肢の1つであり、トレーダーは資産を売り、価格が落ちた際にこれを買い戻す。
デジタル資産をショートする方法は多くあり、トレーダーがブローカーから(レバレッジの有無にかかわらず)借りて取引を行うマージン取引はその1つである。しかし、空売りの欠点は、保有資産を無限の損失にさらすことである。間違ったタイミングでの資産の空売りは致命的である。
リスクのレバレッジ方法
その点において、デリバティブ(金融派生商品)取引は、投資家のリスクヘッジにおいて最も人気のある方法である。
この取引は、名前が示す通り、原資産(この場合は仮想通貨)の価格からその価値が派生する。先物取引は、保有者が原資産を事前に決められた日に前もって特定の価格で売買することを義務付けるデリバティブ取引である。
オペレーションを稼働しながら特定の最小価格で利益を得る必要のあるブロックチェーンマイナーにとっては、特に利便性が高いものだ。先物取引は仮想通貨投資家における二次市場であり、市場参加者が前もって決められた期日に取引を売ることができるため、スポット(現物)市場と比較するとかなり高い流動性も持っている。
しかし、基本的に先物取引とは、数年後の固定期日を持つ証券市場のために設計されたものである。
設定された期間に売り・買いを行うこれらの市場とは異なり、仮想通貨市場は、無期限に利用可能である。そのため、「無期限先物契約」または「無期限スワップ」として知られる先物契約の進化をもたらした。無期限スワップは、デリバティブ取引であり、保有者が仮想通貨の原資産をそのポジションを保有する期限を決めずに売買することができる。
期限がないため、取引所は、価格をスポット価格に紐づけるFundingRate(資金調達率)メカニズムを利用する。これは、取引の動機付け・疎外の原則に基づくものであり、手数料を使用してショートとロングの無期限ポジション間の「需要(と供給)」のバランスを取っている。
ロングの無期限スワップを保有するトレーダーは、取引がスポット市場価格を下回った際に、ショートポジション保有者に手数料を支払う。取引がスポット価格を上回った際は、ショートポジション保有者はロングポジション保有者に支払う。このような手数料の支払いや受取りによりポジションがオープンになる。
無期限スワップは、通常のスポット市場よりも大きな購買能力をトレーダーに与えるので、急な変動のある取引にもうまく対応できる。
デリバティブプラットフォームでスポットポジションをヘッジする前に、特定の資産の資金調達率メカニズムと、異なる状況でのリターンについて理解しておくことが不可欠である。また、レバレッジがどのように作用するのか、取引所でどの程度のレバレッジを利用できるのかを知っておくことも重要である。
例えば、取引量で世界トップクラスのデリバティブ取引所であるPhemexは、無期限スワップに最大100倍までのレバレッジを提供する。
さらに、最近では(負の倍数を乗じて算出されるため、下落局面で有効な)インバース型のETH/USD無期限コントラクトを発表した。USDを証拠金にしたリニア契約を使用して、トレーダーはショートの利益を米ドルでプールし、今後の市場の下落に備えることができる。
仮想通貨を証拠金にしたインバース型無期限コントラクトを使用すれば、トレーダーは、仮想通貨で利益を貯めておき、強気市場の間は価格の上昇から利益を得ることができる。
期日を持たないにもかかわらず、無期限スワップは短期のヘッジに適している。これは、資金調達率の変動によりヘッジコストが予測できないため、レバレッジの高いポジションである場合、損失がすぐにスポット市場での利益を超えてしまうからである。
ヘッジすることにより、損失からポートフォリオを守れるが、これは完全にリスクフリーなわけではない。戦略を選ぶ際は、特定の仮想通貨のヘッジによる利点と欠点を判断することが必要である。多くの場合、特に市場に動きがない(トレンドが出ていない)、または決められた範囲の変動しかない(レンジ相場)ときには、ヘッジは機会損失で逆効果にもなり得る。
デジタル資産は、元々変動の激しい金融商品であり、ある程度のリスクはつきものだ。しかしながら、様々な戦略を知り、リスクを緩和することにより、トレーダーは市場の突然の変動から起こる、不必要な損失から自らを守ることができるだろう。