詐欺、知的財産の盗難、脱税、マネーロンダリングなどへの懸念から、世界各国の政府はデジタル通貨や非代替性トークン(NFT)の規制方法を検討しています。しかし、誰が実際NFTの規制担当をしているか、NFTの本質をどう理解しているか、又、デジタル通貨の価値上昇に対しどれだけ強気な見解を持っているか等の条件によって、NFT規制に対するアプローチは各国ごとに大きく異なります。
中国のようにより保守的な取り組みをとっている国もある一方で、例えばエルサルバドルは、国際通貨基金(IMF)の批判に反して、昨年秋にデジタル通貨を法定通貨としました。米国のジョー・バイデン大統領は現在、国家安全保障と法執行の観点からデジタル通貨に関する大統領令の準備のため、連邦規制機関を集結させているところです。
NFTに関する米国の規制
米国では、2021年にNFTの人気が沸騰して以来、複数の州および連邦政府機関から厳しい規制の目が向けられています。これは、既存の規制・法的環境が、NFTやその他のデジタル資産の作成、ライセンス供与、又は取引を管理するように設計されていないためです。起業家たちは、NFTをeスポーツ、スポーツベッティング、映画、その他の産業に取り入れる斬新な方法を見出していますが、NFTのようなデジタル資産は大きな規制上のハードルとなっています。
ホワイトハウスは、暗号通貨やデジタル資産がもたらすリスクとチャンスを査定する政府の包括的戦略を発表しましたが、これはNFTの規制を定義するための抜本的な第一歩であると考えられています。
この戦略の参考調査として、世界の美術品取引におけるマネーロンダリング行為に対するNFTの影響について詳述した財務省の報告書が含まれています。同報告書によると、特定の状況下では、NFTは米財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)の規制により、仮想資産サービスプロバイダー(VASP)とみなされる可能性があるとのことです。しかし、現在までのところ、FinCENはNFTに特化したガイダンスや規制を発表していません。
現在の規制の複雑さ、ギャップ、冗長性を考慮すると、NFTを証券、通貨、集団投資、金融商品、又はそれ以外のものとしてどのように扱うべきかについて、連邦政府が追加ガイダンスを発表するのは避けられないように見られます。デジタル資産を規制する連邦法は現在のところ一つも存在しないため、これは特に重要となります。州による規制は一貫した判例を提供するものではありません。
ワシントンD.C.と49の州では、デジタル資産と暗号通貨に関する規制が少なくとも1つ提案または制定されています。更に、少なくとも13の州がライセンス要件に関する法案を提案または制定し、25の州がマネー・トランスミッター法を提案または制定し、23の州が、デジタル資産や暗号通貨の導入や利用を議論するための「規制サンドボックス」や委員会を設立する法案を提案、又は制定しています。
各州は通常、NFTやその他のデジタル資産から税収入を得ることを重視しており、34の州が税制を提案または制定しています。これらの規制は、州によって大きく異なり、又頻繁に変更されます。すると何が起こるかというと、州によって異なる、又一貫性のない法律の遵守義務が生じ、以下のような更なる問題を引き起こします:
- 法執行措置訴訟は案件ごとに一箇所の裁判所で行われるため、裁判所判断の遅れや一貫性の欠如を引き起こす
- 決議した執行事項は、判例的効力を有しない
- 執行問題の解決方法に一貫性がないため、州当局と連邦当局の間に軋轢が生じる可能性がある
ヨーロッパ
欧州の規制当局は、デジタル資産に関心を寄せていますが、NFTに特化した規制はまだ明確に発表されていません。2020年に欧州委員会は、仮想資産の規制、分散型台帳技術の合理化、暗号通貨、セキュリティトークン、ステーブルコインなどのデジタル資産への法的確実性を提供するために、Markets-in-Crypto Assets (MiCA) と呼ばれる新しい規制を提案しています。
MiCAでは、資産参照トークン、電子マネートークン、その他のデジタル資産を含む「暗号資産」という用語を広く定義しているため、NFTにも一定の規定が適用されることになります。MiCA案の第II章では、NFTは「その他の暗号資産」という「キャッチオール(包括的)」カテゴリーに分類される可能性が高いと思われます。
MiCAに加え、EU加盟国の中には、NFTに特化した規制を実施している国もあります。例えば、ルクセンブルグは最近、NFTを合同運用型ファンド、電子マネー、金融商品の3つの特定のカテゴリーに分類し、それぞれ独自の資質と規制を設けました。同様に、フランスは2019年に、暗号資産サービスプロバイダー(以下、CASP)を包括的に規制するため、「ビジネス成長と変革に関する法律」(通称「PACTE法」)を発表しました。
その他の諸国
世界各国でデジタル資産を規制しようとする動きが活発化しています。
エルサルバドル政府は最近、暗号通貨の価格が急落した際に1500万ドル分を追加購入し、ビットコインへのコミットメントを強化させました。しかし、同政府は、NFTを含むデジタル資産規制のガイドラインをまだ公布していません。
2022年2月、インド政府はあらゆる仮想資産の譲渡から得られる所得に30%の税金を課すことを発表しました。また、適用される暗号取引の詳細を把握するため、インドはそのような取引全てに1%の源泉徴収を行う予定です。
同様に、ウクライナ、日本、ロシア、スイスなども、デジタル資産を規制する規則を考案中、或いは執行する過程にあります。一方で、中国は暗号通貨に対して厳しい姿勢をとっており、全面的に禁止していることで知られていますが、規制当局は現在、NFTの合法的なミンティング、使用、取引を管理・解説する規則を策定中です。
結論
NFTが主流となり、急速に普及したことで、世界各国は国民を保護し、関連収入を得るために監視の目を強めています。多額の資金が絡んでいるため、国や州レベルの規制がさらに強化されることが予想されます。
強固な規制の枠組みがなければ、脱税、マネーロンダリング、テロへの資金調達、詐欺、窃盗などの違法行為のリスクが高まるため、ほとんどの国において政府による規制は避けられません。NFTは、既存および新興テクノロジー業界を混乱させ、ビジネスチャンスとリスクの両方をもたらす可能性があります。したがって、この新技術をすでに利用している企業や検討している企業は、今後適用される規制の動向に注視する必要があります。