世界有数の取引所FTX
FTXは個人投資家から機関投資家まで、幅広い顧客向けに暗号資産(仮想通貨)取引プラットフォームを複数運営している企業です。19年に設立されたグローバル版「FTX.com」の現物市場は近年急成長を遂げており、CMCによると2022年7月31日時点で一日の取引量は約2,200億円で市場21位、取引所スコアでは2位にランクインしています。
同取引所を率いるサム・バンクマン・フリードCEOは「SBF」の愛称で知られる資産家。29歳という若さで純資産225億ドル(約2.5兆円)を築き上げ、2021年には米国の長者番付「フォーブス400」にランクインしたことでも有名な人物です。
FTXの米国ブランド「FTX.US」は、プロスポーツ選手やプロレーサーを起用したブランディングにも力を入れています。2021年6月には暗号資産(仮想通貨)取引所として初めてMLB(メジャーリーグベースボール)のオフィシャルパートナーとなったほか、大谷翔平選手や大坂なおみ選手といった世界的に有名な日本人プロスポーツプレイヤーとパートナーシップ契約を締結。 そのため、仮想通貨に馴染みのない日本の方でもニュースなどでFTXの名称を見聞きした方は多いでしょう。
本記事では、FTXとはどのような企業なのか、企業概要から日本向けサービスまでご紹介します。
- 目次
①FTXの企業概要
19年5月に香港で設立されたFTX Trading Limitedは、21年9月に仮想通貨に友好的なバハマに本社を移転させています。22年2月に同社は企業評価額4兆円(320億ドル)で480億円(4億ドル)を調達。21年10月の資金調達ラウンド時点の評価額3.15兆円(250億ドル)から急成長しています。
同社のグローバルプラットフォーム「FTX.com」では、最大20倍のレバレッジをかけた仮想通貨取引が可能で、株式をトークン化した「株式トークン」や各種インデックス、仮想通貨オプションなどデリバティブ商品を豊富に揃えていることが特徴です。ただし、グローバル版FTXのサービスの提供は、北米や欧州、日本を含む様々な地域で制限されています。
FTXは各国規制に準拠した現地法人を設立しており、米国市場向けにはFTX.US(West Realm Shires Services Inc)を所有。最近では、アラブ首長国連邦で仮想通貨ライセンスを取得し、現地法人を設立することを表明しました。
FTX Japan株式会社
日本においてFTXは、暗号資産交換業者「Liquid by Quoine」を買収し、22年4月にサービス名を「Liquid by FTX」へと変更しました。これに伴い、社名もQUOINE株式会社からFTX Japan株式会社に改められています。FTX Japanは、FTXのグローバル水準のサービスを徐々に日本国内向けに統合してゆく計画です。
ちなみに、FTXとLiquidの統合の一環として、QUOINE株式会社が提供していた「Liquid Chain」は開発中止に。ただしLiquid Chain自体の利用が不可能になる訳ではなく、オープンソースプロジェクトとして有志に開発が委ねられている状況です。
現状、FTX Japan株式会社の傘下には「Liquid by FTX」と「FTX Japan」という2つのブランドが存在します。特にFTX Japanはグローバル版FTXの取引プラットフォームをベースとし、グローバル市場の流動性の共有やデリバティブ商品「パーペチュアル(永久先物契約)」を取り扱っている点が特徴的です。
②FTX Japanのグローバル水準な取引サービス
そこで、日本市場向けのプラットフォーム「FTX Japan」の取引サービスについて紹介します。FTX Japanの特徴は、日本の規制に準拠した形で、本家であるグローバル版FTXと同じUI/UXのサービスを利用できる点です。
FTX Japanの「現物取引」
まず、FTX Japanの「現物取引」は業界最安水準の手数料設定を導入しており、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)のほか、2022年7月5日からはドージコイン(DOGE)の取り扱いも開始し、合計で13通貨の取引が可能となりました。
FTX Japanが提供する現物取引の取扱ペアは日本円(JPY)建てと、米ドル(USD)建ての2種類。国内取引所でありながら米ドルでの資産管理ができるため、円安下でも購買力をキープできるほか、柔軟な取引手法が可能になる点も大きな魅力でしょう。
また、いずれもグローバル版FTXとオーダーブックを共有しています。つまり、例えばFTX Japanのサービスで表示されるBTC/USDやBTC/JPYの24時間出来高は、同時刻のグローバル版FTXの出来高を反映しているという事です。
そのため、日本のユーザーでもグローバル版FTXの市場が抱える潤沢な流動性にアクセスできます。仮想通貨取引において流動性は非常に重要で、流動性が高いほどスリッページのリスクが低くなるほか、価格スプレッドが狭く、注文の執行がスムーズになるという利点があります。
FTX Japanの「デリバティブ取引」
FTX Japanでは、世界的に人気の高い金融商品「パーペチュアル」を利用できます。パーペチュアルは、現物取引と先物取引、CFD取引の特徴を併せ持つデリバティブ取引のこと。従来の先物契約と比較すると、以下のような違いがあります。
- 最終決済期限(SQ)が無いこと
- パーペチュアル価格を外部の市場価格(インデックス価格)に近づけるために、ファンディング(資金調達)という仕組みがあること
FTXでは、1時間ごとに自動ロールオーバー(乗り換え)が行われ、ポジション(建玉)を保有するユーザーに対してパーペチュアル価格がインデックス価格に近づくように手数料(ファンディング:資金調達)が課されます。
例えば、パーペチュアル価格がインデックス価格より上方に乖離するほど、ロングポジションに対するファンディングレート(資金調達率)が高くなります。手数料を支払いたくないトレーダーはロングポジションを解消する必要があるため、結果的にパーペチュアル価格を下げるように機能します。その逆もしかりです。
2022年7月31日時点で、FTX Japanのパーペチュアルは米ドル(USD)建てのみ利用可能で、合計20種類の仮想通貨を取引できます。
パーペチュアルも、現物取引と同様にグローバル版FTXとオーダーブックを共有しています。なお、グローバル版FTXでは証拠金に対して最大20倍のレバレッジ取引が可能ですが、FTX Japanのパーペチュアルは最大2倍までポジションを管理可能。ちなみに、FTX Japanでデリバティブ取引を行う際の証拠金は、日本円・米ドル・仮想通貨から選択できます。
③FTXの高度なトレーダー向け機能
さらに、FTXでは高度なトレーダー向け機能が充実しています。クオンツゾーン
「クオンツゾーン」とは、FTXが提供する自動トレード機能。どういった取引を実行するか定めた「アクション」、アクションを実行する条件を定めた「トリガー」の2つを設定してルールを作成することで、自動で取引を行うことが可能です。
具体例として、「BTCの価格が過去1週間の最安値を下回ったら1BTCを購入」というルールを作成したとします。この場合、「BTCの価格が過去1週間の最安値を下回る」という部分がトリガーであり、この条件を満たすと「1BTCの購入」というアクションが実行される仕組みです。
アクションは購入や売却に限らず、通貨間のコンバートなども選択でき、組み合わせ次第で多彩な取引戦略を自動化できる点が大きなメリットと言えるでしょう。
TWAP注文
またFTXは、大口の取引を分散して売買できる「TWAP注文」も搭載。
特に取引する通貨のマーケット規模が小さい場合、大口の一括注文を行うと通貨価格の急騰・急落を招く等、市場に大きな影響を与える場合が少なくありません。そこで、指定した期間内において一定間隔で注文を実行するTWAP注文を選択することで、大口取引がマーケットへもたらす影響を抑えることが可能です。
FTXのTWAP注文は現物・パーペチュアルの両方に対応しており、最小1分~最大24時間から注文を分散させる期間を選択できます。
④取引所トークン「FTT」とは
次に、FTXが発行する独自トークン「FTT」について詳しく解説しましょう。
FTTのユーティリティ
FTXは独自の仮想通貨FTXトークン(FTT)を発行しています。FTTはグローバル版FTXの収益額に応じて毎週焼却(バーン)を行うことで市場での流通量を減少させ、トークンの希少性を保つ仕組みが採用されています。
- 取引における手数料の 33%
- バックストップファンドの利益の 10%
- FTX 取引所外の利益の 5%
〇FTTの焼却内容
また、FTX JapanにおいてFTTをロックすることを条件に、日本のユーザーは各種ユーティリティとしてリベートや割引を享受できます。
- リファラルリベートのアップグレード:FTXトークンをロックすることで、段階的にリファラルレートがアップグレードされる。
- メイカー手数料割引:FTXトークンをロックすることで、通常のメイカー手数料割引に加え、さらに割引が適用される。
- ブロックチェーン手数料の免除:FTXトークンをロックすることでERC20とETHの引き出しを一定数無料で行える。
〇FTT、日本人ユーザー向けの付加価値
グローバル版FTXにおいてFTTはIEOの参加権に
日本国内向けサービスと比較して、グローバル版FTXではFTXトークン(FTT)に以下のようなユーティリティがあります。
- 先物ポジションの担保
- 取引手数料の割引
- OTC 取引における対価獲得
- Serum (SRM)の Airdrop
- IEO への参加権利
中でも、グローバル版FTXで開催されるIEOの参加券となることは、FTT保有の重要なインセンティブとなっています。ただし現在のところ、日本国内居住者はこれらのサービスを利用できません。
「IEO(Initial Exchange Offering)」は企業やプロジェクトがトークンを活用した資金調達手段の中でも、仮想通貨取引所が主体となってプロジェクトの審査やトークンセールを行う仕組みです。取引所のユーザーにとっては、審査を経たプロジェクトに初期段階で投資できる利点があります。
上図のように、FTXのIEOはソラナ・ブロックチェーン上の戦略ゲーム「Star Atlas(ATLAS)」をはじめとする有望プロジェクトを複数上場させており、優れたパフォーマンスを上げてきました。
⑤FTXへの入出金サービスにも定評あり
また、FTXは入出金サービスの利便性に定評があります。「即時入出金」を原則としており、アカウントへの入金・銀行口座への出金どちらも依頼後2分程度で反映される迅速さが特徴。加えて、FTXでは即時の入出金サービスが手数料無料で利用できます。 通常、国内取引所では入出金の反映までに1営業日かかる場合も多いうえ、即時の入出金サービスには割高な手数料が発生するケースが一般的です。FTXの入出金サービスは、多くの国内取引所と一線を画す利便性の高さが魅力と言えるでしょう。FTX Japanでは上図のように、各通貨の「変換」ボタンをクリックして指定した数量を目的の通貨に即時交換できるなど、グローバル版FTXと同じ仕様です。
前述のとおりFTX Japan株式会社は、FTXの商品及びサービスを日本の法令に準拠した形へ徐々に統合していく予定です。その施策の一環として、FTX Japanではユーザー間が設定する金利で仮想通貨を貸借し、現物取引でのマージントレーディングに活用できる「P2P暗号資産貸借サービス」の追加を予定しています。
本サービスはグローバル版FTXが提供する貸借サービス「FTX.com P2P Borrowing/Lending」と連携するようです。
なお、現在のところ、FTX Japanでビットコインの借入れ画面が表示されていますが、まだ利用できないようです。
その他、グローバル版FTXは仮想通貨のレンディングやステーキングに対応しており、ユーザーが口座上で保有する仮想通貨の運用によりパッシブインカム(受動収入)を受け取ることが可能。同様のサービスは国内でも見られるため、今後FTX Japanでも利用可能になる可能性があります。
⑥FTXの最新動向
最後に、海外・国内におけるFTXや関連企業の最新動向についてご紹介します。海外の動向
FTXの親会社である暗号資産投資企業Alameda Research(アラメダ・リサーチ)は、数々の有望な暗号資産・ブロックチェーン企業やプロジェクトに出資しており、世界の暗号資産投資家の意思決定に与える影響力は無視できません。FTXも22年1月に仮想通貨業界のスタートアップを支援する目的で2,400億円(20億ドル)規模のベンチャーファンド「FTX Ventures」を新設するなど勢いがあります。
FTXはまた、ソラナ(Solana)プロジェクトに早期に出資し、ソラナ採用のサービスを複数構築してきました。21年11月には、110億円規模のメタバースファンドを共同設立するなど、ソラナのエコシステム拡大に重要な役割を担っています。
Alamedaの元CEOで、現在ではFTXを率いるサムCEOは、そのトレーディング能力と経営手腕が高く評価されており、近年では米国プロスポーツ団体やeSports業界との提携のほか、米国におけるロビーイング活動にも積極的です。
2021年12月にはFTX.USを通してバイデン陣営に計5.8億円(522万ドル)を寄付しました。FTX.USは米商品先物取引委員会(CFTC)に対し、先物取引業者(FCM)の仲介なしで証拠金デリバティブ取引を直接精算できるよう要請。CFTCもパブリックコメントの提出を求めるなどの対応をしています。
他にも、2022年3月にウクライナ情勢に緊張感が高まる中、FTXはウクライナ政府のデジタル変革省などと連携して公式寄付サイト「Aid For Ukraine」を設立。執筆時点に同サイトで72億円(6,000万ドル)以上の仮想通貨が寄せられています。
国内の動向
日本国内におけるFTX Japanの主な動きとしては、2022年7月18日に同社初となるテレビCMを放映開始しました。CMにはFTXのグローバル・アンバサダーとしても活躍する大谷翔平選手を起用し、仮想通貨取引の社会的認知度向上に取り組んでいます。
また、同月28日からはメルセデスAMGペトロナスF1チームに在籍するルイス・ハミルトンの選手サイン入りキャッププレゼントキャンペーンを実施中。
キャンペーンへの参加条件は「FTX Japanの公式Twitterアカウント(@ftx_jp)をフォロー」および「キャンペーン対象ツイートのリツイート」です。
バイナンスが買収を検討
FTXを巡っては2022年11月、大手仮想通貨取引所バイナンスが買収する可能性が浮上しました。
まずは同月2日、仮想通貨メディア「CoinDesk」が、FTXの姉妹企業アラメダリサーチの財務状況を報道。非公開の財務書類の内容が報じられ、アラメダリサーチは2022年6月30日時点で約2.1兆円(約146億ドル)の資産を保有しており、その資産はFTTが大きな割合を占めていることが明らかになりました。
この報道後、バイナンスのチャンポン・ジャオ(CZ)CEOが、バイナンスが保有するFTTを全て売却すると公表。売却の理由について、バイナンス側は「純粋な投資に関する決定」と説明しましたが、最初にCZ氏は「最近判明したこと」を売却の根拠だと述べており、アラメダリサーチの財務状況が売却要因であることを示唆していました。
こうして、CoinDeskの報道からアラメダリサーチの資産はFTTに依存しており、現金同等物がほとんどないことからも価格変動に脆弱な状態となっていることが判明。そして、CZ氏が数カ月に渡ってFTTを売却する意向を示したことで市場が動揺し、FTTの価格が暴落しました。
FTXは、預かり資産の外部流出が加速するなど取り付け騒ぎの様相を呈した結果、出金停止措置を余儀なくされるなど、重大な流動性危機に直面しています。
このような状況の中、サムCEOとCZ氏は9日、バイナンスがFTXの買収に向けて調査を開始することで合意したと発表。CZ氏は、ユーザーを保護するために買収の基本合意書に署名したと説明しました。なお、買収の対象は「FTX.com」で、米国の「FTX US」や日本の「FTX Japan」は含まれていません。
買収はしないと発表
As a result of corporate due diligence, as well as the latest news reports regarding mishandled customer funds and alleged US agency investigations, we have decided that we will not pursue the potential acquisition of https://t.co/FQ3MIG381f.
— Binance (@binance) November 9, 2022
その後、バイナンスは10日、FTXに対する調査(デューデリジェンス)を行い、ユーザー資産の管理方法や米規制機関の動向に関する報道を加味した上で、買収は行わないと決断しました。
現時点では、FTXが緊急で資金調達できない場合、破産申請をせざるを得ないとの見方が上がっています。