「明確な指示があるまで凍結は行わない」
ステーブルコインUSDTなどを発行するテザー社は24日、米政府が制裁対象に指定したミキシングサービスTornado Cash(トルネードキャッシュ)について、関連アドレスの凍結を当面行わない方針を表明した。
テザー社は米外国資産管理局(OFAC)などの規制当局と頻繁に連絡を取っているが、これまでのところ、ステーブルコイン発行者に対して、制裁リストに挙げられた人物や団体に関連するアドレスを凍結するよう求める指示は受けていないと説明した。
テザー社は「流通市場のアドレスを法執行機関の指示なしに凍結することは、非常に破壊的で無謀な行動となる可能性がある」と指摘。同社は次のように説明した。
指示なしに凍結を行うと、当局が進めている調査を妨害する可能性もある。実際、法執行機関とのやり取りで、犯罪に関連している可能性のあるアドレスを知らされることがあるが、明確な指示なしにそのアドレスを凍結しないよう指導される。
なぜなら、凍結することで当局の調査がなされていると容疑者に警告することになり、不正資金の清算や放棄をさせ、さらなる追跡調査を難しくすることがあるからだ。
以上のことを踏まえて、テザー社は「米国当局の指示なしに行われたのであれば、USDコイン(USDC)がトルネードキャッシュのスマートコントラクトをブラックリスト化したのは時期尚早であった」とも続けている。
また、その他のステーブルコインPaxosや、DAIも、トルネードキャッシュ関連アドレスの凍結を行っていないことには「注目すべき」として言及した。
トルネードキャッシュとは
イーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で動作し、取引を匿名化するミキシングサービス。ミキシングサービスとは、仮想通貨の取引データを複数混ぜ合わせることによって、仮想通貨の出所や保有者のアイデンティティを隠すサービスを指す。
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制裁指定により広がる波紋
米財務省外国資産管理局(OFAC)は8日、犯罪資金の洗浄に使われているとしてトルネードキャッシュを制裁対象に指定。
これを受けて、USDCの発行元である米サークル社は、制裁リストにあるアドレスをブラックリスト化した。アドレスの中にはトルネードキャッシュのUSDCプールも含まれており、トルネードキャッシュにUSDCを預けている者が資金を引き出せない可能性がある。
その他にも、分散型取引所dYdXでユーザーが自動的にブロックされる事例も発生。トルネードキャッシュを経由した仮想通貨を保有するウォレットが対象となり、同サービスで洗浄された資金を、それと知らず間接的に取得していたユーザーもブロックされるなど影響が広がった。
また、Balancer、UniswapなどのDeFiプラットフォームでもユーザーのブロックが確認されている。
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DeFiレンディングプラットフォームAaveでも、トルネードキャッシュを利用したとみなされたユーザーが自動的にブロックされる事態が発生。Aaveは、「米国の制裁決定後にトルネードキャッシュと通信したウォレットを検出するという設定を行っていたが、この設定にミスがあった」と説明し、設定を調整した。
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さらに、オランダではトルネードキャッシュに関わったエンジニアが逮捕された。このエンジニアは資金洗浄などに直接関与せず、ただコードを書いただけの可能性もあり、アムステルダムでは抗議のデモが行われた。
AaveのStani Kulechov創設者も「プライバシー技術のコードを書いただけで逮捕されるのは行き過ぎている」とコメントしている。
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米財務省によるトルネードキャッシュの制裁指定は、規制のあり方について新たに議論を巻き起こしている状況だ。仮想通貨支持派のTom Emmer米議員は、今回の動きについて疑問を投げかける書簡を米財務長官に提出した。
米シンクタンク「Coin Center(コインセンター)」も、制裁措置が違憲である可能性を指摘し、資産がロックされた無実の米国民が出金できるよう取り組んでいくとも方針を示している。
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