10ヶ月間の実証実験
韓国の中央銀行である韓国銀行(BOK)は7日、2021年8月から10ヶ月間をかけて二段階制で実施した「CBDC(中銀デジタル通貨)」の実証実験を完了したと発表した。
韓国の聯合ニュースの報道によると、CBDCの基本的機能に重点をおいた第一段階の実験は昨年12月に完了。6月まで行われた第二段階実験では、オフライン決済、スマートコントラクトやゼロ知識証明などのレイヤー2技術、国際送金など拡張機能を導入し検証した。
その中にはCBDCを使ってNFT(非代替性トークン)を購入する機能も含まれていたという。
また、利子の付与や裁判所命令に基づく差押えなど、政策支援機能をCBDCに実装し検証。マネーロンダリング・テロ資金供与防止の監視システムも構築された。
一方、技術的な制約も明らかになった。たとえば検証されたCBDCシステムでは、毎秒最大2,000件の取引処理が可能だが、取引が集中したり、大量の取引をリアルタイムに処理する場面では、応答時間に遅れが出るなどの問題が発生。既存の電子決済サービスのレベルまでレスポンスを短縮する必要があることが判明した。
また、CBDCと連動した新たな技術を既存のシステムに適用するするには、現時点ではいくつかの制約があることが確認されたとBOKは報告した。
BOKはCBDCの導入については慎重に対処する姿勢をとっており、最終的な決定は下されていない。CBDCシステムの機能と性能を精査するため、今後も金融機関や関連国際機関と連携して、より実環境に近い条件で詳細な検証を行っていくという。
CBDCとは
「Central Bank Digital Currency」の略称で、各国・地域の中央銀行が発行するデジタル化された法定通貨を指す。送金コストの削減や効率性向上などが期待できる反面、個人情報やプライバシーの保護、セキュリティ対策、金融システムへの影響など考慮すべき課題も多い。
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韓国銀行総裁の講演
韓国銀行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は9月28日、国際通貨基金(IMF)が開催したウェビナーで、韓国のCBDCの実証実験で得られた知見について講演。「さまざまな目標や期待を同時に満たすことができる完璧な技術やCBDCの設計は存在しないことがわかった」と述べた。
李氏はCBDCの導入には、技術開発だけではなく異なる目標間の妥協点を探るプロセスが必要だと指摘した。たとえばスケーラビリティに限界のある現在の分散型台帳技術では、韓国におけるCBDCのリテール利用をサポートできないことが判明。
集中型のデータベースを利用する方が良い解決策かもしれないと述べ、イノベーションの可能性追求と安定性の間でトレードオフが発生する事例を挙げた。
またプライバシーとコンプライアンスの矛盾も生じる。KOBはCBDCの匿名性とプライバシーを重視した非ホスト型のウォレット導入を検討したが、裁判所命令によるウォレット凍結などの特定の機能は実装できないため、実験用の設計では「プライバシーを犠牲にしてコンプライアンスを向上させる選択をした」と李氏は説明した。
このようにCBDCの設計には「必然的に継続して妥協するプロセスが伴われる」ため、研究の初期段階から、政府や金融機関だけではなく、様々な利害関係者と一般市民と積極的にコミュニケーションをとり、最も適切なCBDCの設計に関する合意形成に努力することが重要だと李氏は強調。
CBDCを成功させるためには民間企業の協力が不可欠であり、早い段階で効果的な官民パートナーシップを通して相互理解を深めることが望ましいとの考えを示した。