wBTCのマイナス乖離
暗号資産(仮想通貨)ビットコイン(BTC)を担保に発行する「ラップドビットコイン(wBTC)」は24日、本来価値が維持されるべき「1:1」のペグを外れて1.5%ほどマイナスに乖離する「ディペッグ」状態が発生した。
主な原因は、先日経営破綻した取引所FTX関連の投資会社アラメダ・リサーチがwBTCの最大発行者である情報が伝わり、リスク回避目的で投資家がWBTCを売り出したことにあるとみられる。
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FTXは、ソラナ(SOL)で流通するビットコイン(soBTC)やイーサリアム(soETH)を発行していたことが知られており、同社の破産申請直後には原資産SOLに対してso資産の価値が半値近くに下落した経緯がある。
Stop spreading #WBTC FUD and fake news 💩 pic.twitter.com/pKiwNTCgMF
— 🍟 Chen Fang (@chenbfang) November 25, 2022
アラメダがこれまで約10万ものwBTCを発行した一方で、償還分は約2.9万wBTC。このデータを利用して、まるで残りの7.2万wBTCの裏付けがないかのように印象付けされた情報が拡まった。
重要ポイント
しかし、wBTCについて重要なポイントは、その発行と裏付けビットコインの管理を米カストディアン大手BitGOが担っていることだ。BitGOのChen Fang最高執行責任者(COO)は、wBTCの裏付け資産であるビットコインが100%維持されていないとする噂は「フェイクニュース」だとツイートした。
Every wallet, every transaction is (1) segregated (2) verifiable on chain (3) legally held within a US regulated Trust Company with insurance (4) bankruptcy remote from the rest of BitGo
— 🍟 Chen Fang (@chenbfang) November 16, 2022
BitGOでは、顧客向けに保有資産の残高確認「Proof of Reserves(プルーフ・オブ・リザーブ)」を開示している。Fang氏はまた、wBTCの裏付けビットコインが保険付きの米国で認可された信託会社で保管されていること、仮にBitGoが破産しても影響を受けないことを確認している。
wBTCは、2018年の10月26日に初めてアナウンスされ、米カストディアン大手BitGOを中心に、DeFi(分散型金融)プロトコルのKyber Network、Ren、その他のコミュニティパートナーと共同で発足したプロジェクト。
BTCを担保にイーサリアムのトークン規格ERC20で代替資産「ラップドビットコイン(wBTC)」が発行され、レンディングの担保やDEX(分散型取引所)のマーケットメイク(流動性提供)等に使用できる取り組み。
執筆時点にwBTCの時価総額は4,700億円(35億ドル)で仮想通貨市場で21位。wBTCのBTC建て価格は0.997BTCであり、マイナス乖離はほぼ解消されている。
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wETHのディペッグ騒動
仮想通貨“冬の時代”に投資会社Three Arrows Capital、融資プラットフォームCelsius、仮想通貨取引所FTXなど業界元大手企業の経営破綻により、債務問題が業界中に飛び火。
融資大手BlockFiも同様の破産を申請し、Genesis Capitalも流動性問題に直面するなか、投資家の間で業界各社への警戒感が高まっている。
他方では、イーサリアム(ETH)をDeFiスマートコントラクトで運用可能にする代替資産「ラップドイーサリアム(wETH)」について、監査レポートで「バグ(脆弱性)」という言葉が使われ、投資家の警戒感を高めた。
29日にwETHの市場価格は、原資産であるETHに対し一時0.72%のマイナス乖離が発生した。
ブロックチェ―ン監査会社Zellicは、wETHの総供給量として表示された値が実際に流通しているトークンの合計と一致しないことを指摘。レポートでは「些細で害のないバグ」と説明しているが、実際に4ETHほどの差が生じている事実が一部ユーザーの不安、または不安を煽る行動を助長した。
So there's 3,789,923 eth in the contract that allegedly backs 3,789,927 weth? Fractional reserves never work my friend
— Avraham Eisenberg (@avi_eisen) November 27, 2022
複数のイーサリアム有識者によると、wETHの総供給量の差は、コントラクト自体へのETH残高が反映されるために起きている。ネットワーク手数料(ガス代)を節約するために敢えて取られた仕組みだ。
イーサリアムのコア開発者のHudson Jameson氏や著名なイーサリアム伝道者sassal.eth氏らは、WETHのバグに対する話題は「かわいいジョーク」として、以下のような内容を説明している。
4/ Additionally, the WETH supply is not stored by a centralized exchange or group, so the primary concern would be the safety of the WETH contract. It is open source and many experts have looked at it to check for bugs, so it is generally considered safe to use.
— Hudson Jameson (@hudsonjameson) November 27, 2022
wETHは、wBTCやsoBTCは性質が異なり、中央集権型企業の介在しない、完全にスマートコントラクトで動作するプロダクト。そのコードは、ERC20規格+3つの追加機能という、シンプルな構成。流通総額は約6,370億円(46億ドル)に上り、その重要性から多くの開発者と監査会社がオープンソースコードをレビューしてきた。それゆえ、WETHのスマート コントラクトのリスクは無視できるレベルである。
ディペッグ (でぃぺっぐ)
米ドルなどの通貨とのペッグを目指す、ある通貨の価格レートが参照価格から乖離した状態。ステーブルコインの準備資産が十分でなかったり、需要が極端に高まった(または低下した)場合等に、ペッグを維持できなくなり、デペッグが発生することがある。
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