イベントレポート寄稿
暗号資産、ブロックチェーンに係るデジタル資産、Web3.0の事業環境整備と健全な発展を目的に活動している一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)は1月17日、「電子決済手段(ステーブルコイン)の発行・仲介実務に関する資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等の解説」と題して、日本国内におけるステーブルコインの発行・仲介実務に関して整備される制度の見通しについて解説するオンラインイベントを開催しました。
イベントでは当協会 ステーブルコイン部会の運営メンバーである、片岡総合法律事務所 パートナーの佐野 史明氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナーの河合 健氏、株式会社ARIGATOBANK 代表取締役の白石 陽介氏、コインチェック株式会社 執行役員の北田 友宏氏、株式会社bitFlyer トレジャリー部長の浜田 将平氏が登壇し、法律家による解説と、資金決済のビジネス実務、暗号資産交換業に精通する各人の観点を交えたパネルディスカッションを行いました。
1ドル=1コインで価格安定が図られているステーブルコインは、ブロックチェーン上の決済手段や資金調達のためアセットとして利用され、既に時価総額は1370億ドルを超えています。※
その流通環境の整備に日本も動き出し、2023年の改正資金決済法施行が迫っています。
資金移動業、信託業、銀行業と幅広いライセンスが関連する本制度で、Web3.0の世界観においてニーズの高いステーブルコインを流通させる見通しについて、事業者様の参考にしていただければ幸いです。
※Coingecko、2023年2月16日時点
電子決済手段とは何か ー既存のデジタルマネー等との比較―
第一部は電子決済手段関連の法制、業規制に関する解説が佐野氏、河合氏よりなされました。
佐野氏はまず、既にある暗号資産、銀行・資金移動業者の発行するデジタルマネーやポイントとのそれぞれの差異について解説しました。
電子決済手段は預金や為替取引に整理される通貨建資産であり、不特定の相手に対してP2Pで購入、売却、使用が出来る点で、特定のシステム内でのみ利用可能な1ポイント=1円のデジタルマネーと異なっていると語りました。
また、四号電子決済手段という要件に「利用状況その他の事情を勘案して金融庁が定めるもの」という記載があり、現在資金決済法で暗号資産として整理されている法定通貨担保型でないステーブルコインの取引が拡大した際には電子決済手段手段として指定できる余地を残している点が解説されました。
発行体規制 ―USDCは発行できるのか、資金移動業者、信託会社の電子決済手段の発行ー
河合氏から、発行者に関する制度について解説がなされました。
電子決済手段の発行、償還には銀行業免許または資金移動業登録が求められる点や、USDCやテザーを発行する海外発行体が日本国内に勧誘行為を行うためにはライセンス取得が必要であるため、仲介を行う電子決済手段等取引業者に卸売販売をするようなスキームが想定されると解説しました。
また、国内の資金移動業者が発行する場合には、第1種~3種のライセンスごとに課される滞留制限、移動金額の上限規制を考慮すると、第2種資金移動業での発行が主になるだろうと述べ、滞留規制、移転の上限規制、発行の際の届出義務などの実務の見通し、権利の整理状況について解説しました。
信託会社も信託受益権の形で金銭信託をし、決済性預金等で保管することで一定の要件を満たすと特定信託受益権としてステーブルコインの一種を発行できると述べました。特定資金移動業として別個の業登録が不要であり、資金移動業と比較して認可を取得できれば移動の100万円の上限規制を超える資金の移動が可能になると解説しました。
仲介者規制 ―分別管理の対応、海外発行ステーブルコインの仲介ー
次に佐野氏は、仲介者(電子決済手段取引業)について、「①ステーブルコイン全般に対して問題となる規制」、「➁パーミッションレス型のステーブルコインに対してさらに必要となる追加的な対応」、「③海外発行のステーブルコインを取り上げる場合の対応」の点を中心に解説しました。
電子決済手段等取引業者全般に係る規制として、金銭預託については信託会社への金銭信託により自己の固有財産と区分することで適用除外となること、分別管理については預かったステーブルコインを信託会社または信託銀行に信託するか自己信託の承認を当局から得る対応が想定されることについて解説しました。
パーミッションレス型ステーブルコインの場合には、AML/CFTの面で高度なリスク管理が求められると述べました。
海外発行ステーブルコインの場合には、発行体が規制国で日本の資金移動業等と同等のライセンスを取得し、準拠法に則って資金を保全しているかどうか、監査や危機時期対応が備わっているかどうかという要件が求められる旨が開設されました。外国発行ステーブルコインを電子決済手段等取引業者が取り扱う際には、発行体破綻時における買取義務とその買取資金の保全が求められる点を強調し、多額の資金が求められる点がビジネス上の課題であると述べました。
パネルディスカッション「ステーブルコイン発行・仲介の実務についてのケーススタディ」ー参入の要件、収益ポイントの可能性、商品設計は?―
電子決済手段の発行についてパネルディスカッションではステーブルコイン部会の白石 陽介 部会長をモデレーターに、事業者のビジネス、実務の観点を交え、発行、仲介の個別の課題、両者に共通の課題点を深彫りして議論を行いました。
白石氏から、銀行業の発行可能性について質問が投げかけられ、河合氏は、資金決済法上は銀行の発行が想定されているものの、現状は下位の法令に落とし込まれておらず、預金保険や自己資本比率の整理が必要であると理解していると述べました。
北田氏からは、発行体ライセンスにおける収益ポイントについて質問がなされ、信託のストラクチャーでは発行代わり金の運用が貯金か預金に限定されており、資金移動業者のストラクチャーの場合に履行保証金信託を使った場合は国債等による一定の信託財産の運用が認められることを比較しました。
佐野氏はこれに対して、資金移動業者は履行保証信託に加えて銀行保証のメリットがある一方で100万円上限と滞留規制が制限になることから、両者はメリットデメリットであると述べました。
また、北田氏は、信託ストラクチャーではドル等の外貨建て預金で一定の金利収入がある場合には収益ポイントになると述べました。
電子決済手段の仲介(電子決済手段等取引業)について白石氏より、仲介業において電子決済暗号資産で認められている自己信託が暗号資産では認められていない点の理由について質問が投げかけられました。
佐野氏から、暗号資産の場合は交換業者等が預かっているものに対して優先弁債権が法律上付与されており、破綻時に通常の破産債権者よりも優先的な地位が与えられている点。一方、電子決済手段は優先弁債権が付与されていないため、信託により倒産隔離を図る必要がある点が開設されました。また白石氏は、この倒産隔離を実務上ワークさせるために自己信託の提案をステーブルコイン部会より行い、当局の方々にご理解いただいたと述べられました。
北田氏はこの自己信託について公正証書や人的要件のハードルの程度について質問し、佐野氏は、日々の追加信託の認証や証書化は必ずしも必要なくなる可能性がある旨、河合氏は人的要件として信託の実務経験者は事実上必要になる可能性を述べました。
USDC、USDT等の海外発行体が発行するステーブルコインの取扱い可能性の話題では、河合氏より、国内で仲介を行う電子決済手段等取引業者が買取義務とその資産保全が求められる点がハードルとして挙げられました。また、日本における資金移動業や信託業に相当するライセンスを取得し運営されており、AML/CFT対策として凍結設計などを組み込んでいる既存の海外発行ステーブルコインについてはその他のステーブルコインと比較して取扱い可能性があると述べました。
浜田氏からは、資金移動業者が100万円の滞留規制を守るための実務対応について質問がなされ、河合氏、佐野氏は、発行代わり金の償還や買取が求められると思われるが具体的な内容は今後議論が必要な点であると語りました。
電子決済手段のデリバティブ商品や代用の可能性について浜田氏からテーマが投げかけられ、証拠金やレバレッジ比率2倍、自己資本比率規制上のリスク算出について今後当局の方々と内容を議論するしていきたいと述べられました。
質疑応答では河合氏より、ビットコインを販売し代わりにUSDCを受ける行為等は暗号資産交換業と電子決済手段等取引業の両方が必要である旨の回答がなされました。
結び
白石氏より、今回のガイドラインでまだ不明瞭な点についてはパブリックコメントなどを通じて業界として対話していく見通しが語られました。
ご登壇いただいたステーブルコイン部会は2020年より発足し、事業者、法律家が主体となって研究を重ねてきました。昨年6月の改正資金決済法の成立以降はより活動が活発化し、制度の具体化に向け、法律、政府令、ガイドラインの整備に向けて連日、政治、省庁との調整を行っていただいております。
他の業法にわたる複雑な制度のため、スムーズにご理解いただくことが難しい内容となっておりますが、ビジネス環境の促進に向けて引き続き研究、情報発信に努めてまいります。
当日の録画、資料は当協会会員専用ページにてご覧いただけます。
ディスクレーマー
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