暗号資産と最富裕者の課税強化へ
欧州評議会は16日、税務における行政協力に関する指令の改正案について、その全体的な方向性について合意に達した。この改正案は暗号資産(仮想通貨)に関連する収入情報の報告と税務当局との情報交換、そして純資産額の大きい個人に対する事前の税金評価を重視している。
評議会は税情報交換の現行ルールの範囲を拡大し、暗号資産からの収入の監視体制を強化する方向性を示している。これにより、暗号資産サービスプロバイダーは、取引から得られる収入に関する情報を報告し、これを税務当局と自動的に共有する義務を負うことになる。
さらに、提案された指令改正案では、高純資産個人に関する事前の国際的な税判定の情報の交換範囲を拡大することを目指している。
事前税判定とは、特定の税務状況について税務当局が事前に提出された情報に基づいて判断を下すプロセス。ここでは、特定の個人や企業の税金を計算するために、事前に取引や活動の詳細が暗号資産取引を提供する企業から税務当局に提出され、各国の税務当局間で自動的に共有される形が想定される。
これにより、脱税、租税回避、虚偽申告といった投資家が違法行為に及ぶリスク減少を図る。現行のDAC(行政協力指令)ではこの種類の収入は対象外とされている。
スウェーデンの財務大臣であるエリザベス・スヴァンテソン氏は、以下のように述べている。
我々は行政協力のルールを強化し、これまで所得課税を逃れるために利用されてきた抜け穴を塞ぐことで、暗号資産が税逃れや税金詐欺の安全な隠れ家となるリスクを軽減しようとしている。この合意は、EUがグローバルな標準の実施におけるリーダーであることを再認識する一例である。
改正案の範囲は広く、「暗号資産市場規制に関する規則(MiCA)」に設定された定義を基盤に、多種多様な暗号資産を対象としている。これには、分散的に発行された暗号資産、安定コイン、電子マネートークン、そして一部の非代替可能トークン(NFT)も含まれる。
スヴァンテソン氏はまた、「これまでの暗号資産の分散的な性質が、各メンバー国の税務当局が納税遵守を確保するのを難しくしてきた。暗号資産が国境を超える本質的な性質は、税金の効果的な徴収を確保するために、国際的な行政協力が不可欠である」と述べている。
MiCAとは
MiCAとは、2020年9月に欧州委員会(EC)が提案した、欧州連合(EU)加盟国全域を対象とする包括的な暗号資産規制案。欧州市場の制度化促進を目指すもので、成立後には、現在EU各国で解釈の異なる既存の仮想通貨規制に取って代わることになる。
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DAC8の議論が進行
欧州評議会は2020年11月以来、公正かつ効果的な課税、デジタル化に伴う課税上の課題、そしてEU内外における課税の良好な統治に対する具体的な措置として、行政協力のルールの更新に向けた議論を進めてきた。
特に、2022年12月には、欧州評議会の下で欧州委員会が「DAC8」と呼ばれる新たな指令改正案を提出した。現在は欧州議会と欧州理事会で議論されている。指令の採択予定は2023年末と見られている。
DAC8は、OECDがG20の指示を受けて同年10月に公開した暗号資産報告枠組み(CARF)と共通報告基準(CRS)への改正を反映している。G20は、CARFとCRSへの改正を情報自動交換のグローバルスタンダードに不可欠な追加要素とみなし、これを全面的に承認していた背景がある。
具体的にDAC8では、暗号資産サービスプロバイダーに対し、暗号資産取引に関する情報を税務当局に報告する義務が課される。報告される情報には、取引当事者の身元情報、取引の価値、取引日などが含まれる。
さらに、DAC8では税務当局間での情報交換も義務付けられている。暗号資産に関する情報の自動的な交換が行われ、口座保有者の身元情報、口座の価値、口座開設日などが共有される。
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