SECの3つの批判内容
米国証券取引委員会(SEC)は20日、暗号資産取引所クラーケンの運営会社Payward Inc.及びその関連会社Payward Ventures Inc.を提訴した。この訴訟は、主に三つの問題点に焦点を当てている。
1. 未登録の証券取引所運営: SECは、クラーケンが未登録の証券取引所、仲介業者、ディーラー、およびクリアリング機関として運営していたと主張している。クラーケンは『SECが行う監査や、記録を保持する義務、また利益相反を防ぐための対策など、適切に登録された証券仲介業者にとって禁止されているはずの様々なリスク』を顧客に晒していたと述べている。
2. 顧客の資産管理の混同: SECは、クラーケンが顧客の仮想通貨資産と自社の資産を混同していたと主張している。時には330億ドル以上の価値がある顧客の仮想通貨資産を保有していたが、これらを自社のものと混同。時折5億ドル以上の顧客の現金を保有し、一部を自社の現金と混同していた。独立した監査人からは「重大な損失のリスク」を作り出している、と指摘されていた。
3. トークンの証券指定: SECは、クラーケンが取り扱ういくつかのトークンを証券として指定している。これにはアクシーインフィニティ(AXS)、アルゴランド(ALGO)、コスモス(ATOM)、ポリゴン(MATIC)、ソラナ(SOL)、ダッシュ(DASH)などが含まれる。
SECの執行部門長Gurbir S. Grewal氏は、「Krakenが法令を遵守する代わりに数億ドルの利益を追求した」と述べ、これにより「利益相反に満ちたビジネスモデル」が生まれ、投資家の資金を危険に晒したと指摘した。
同氏はさらに、この訴訟が他の暗号資産関連企業にも法令順守を促すメッセージを発信するものだと強調した。
23年2月にクラーケンは仮想通貨ステーキングプログラムに関してSECと和解した。しかし、一方で、その主張を認めることも否定することもなかった。
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クラーケンの声明
クラーケンは21日、米SECからの告発に対して異議を唱える意向を示し、「我々は証券をリストアップしていない」との立場を堅持すると述べた。訴訟は提供する商品には何の影響もなく、サービスは中断することなく顧客に提供し続けるとした。
同社は、SECのデジタル資産取引プラットフォームに対するアプローチが効果的でないと主張し、その根拠として、法的根拠の不足と明確な登録ガイドラインの欠如を指摘している。
根拠として、ニューヨーク南部地区連邦裁判所が2023年8月にコインベースの事件でSECが関連する法的テストに完全に対応していないと裁定した事例を挙げた。この裁判所はSECの法理論が取引の「経済的現実」に反すると判断していた。
SECが提起した「顧客資金と自社資金の混同」という主張に対し、クラーケンはSECが顧客資金の紛失や損失が発生したとは主張していないと指摘。顧客の資金を不適切に扱っている具体的な証拠もないことを示唆した。
クラーケンはまた、「長年にわたり、仮想通貨特有のリスクと利点に対応する効果的な米国市場規制の必要性を訴えてきた」と述べ、この不明確な規制状況を解決するためには議会の行動が最善の方法であると主張している。
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SECの仮想通貨業界への取り締まり
米SECはまた、23年6月に米国の仮想通貨取引所コインベースとバイナンス、およびその米国支社Binance U.S.に対して提訴を行った。SECはこれらの企業が、規制機関に登録せずに、国内で証券取引所、ブローカー、クリアリング機関として違法に運営していたと非難した。
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2社に対するSECの訴訟でも、複数のトークンが証券としてリストアップされ、バイナンスについては顧客の資金を混同していると非難した。バイナンスもこれらの主張を否定している。
一方、SECに対抗してコインベースは8月に、その追求権限がないとの立場を表明し、ニューヨーク連邦裁判所に訴訟の却下を申し立てた。対象となるデジタル資産とサービスは証券とは認識されず、従ってSECの管轄外であると主張している。
コインベースの最高法務責任者、ポール・グリュウォールはXへの投稿で、自社プラットフォームでリストアップされている資産は証券ではなく、SECの管轄外であると述べた。
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