- メルカリ×ブロックチェーン
- 11月10日に開催された、国内最大規模のイーサリアム技術者会議「Hi-Con」にコインポスト編集部も参加した。 メルペイのブロックチェーン・エンジニアNakamura Keita氏は同カンファレンスにて、社内で試験的に運用されているブロックチェーン技術を導入した新たなメルカリMercariXの開発理由や利用法、課題など、その詳細をスピーチした。
メルカリ×ブロックチェーン
11月10日に開催された、国内最大級のイーサリアム技術者会議「Hi-Con」にコインポスト編集部も参加。今回は、「メルカリ×ブロックチェーン」に関するレポートをお届けする。
メルカリがブロックチェーンに取り組む理由
国内最大のフリマアプリサービスを運営する「メルカリ」は、ブロックチェーンの利点として、主に以下の3点が挙げている。
- 改ざん困難性
- 対検閲性
- 非中央集権的
メルペイ分散型台帳開発部は、これら三つの特徴が今後どのように社会を変化し、それにメルカリがどう対応していくのか考察している。
ブロックチェーンは、メルカリのようなフリマアプリなどのサービスにおいて、以下の二つの変化をもたらすと推測される。
- プラットフォーム環境の変化
- 信用の形の変化
プラットフォーム環境の変化
- 1) 一つの大きなプラットフォームサービスを運営する企業に多くの人が集中
- 2) 多くの情報が集まることにより利便性が向上
- 3) より人が集まる
- 4) より利便性が向上する
といったように、中央集権に人が集まり、一つのプラットフォームに力が一極集中するといった特徴があった。
しかし、ブロックチェーン技術が導入されると、このプラットフォームの中央集権的な管理は消え、個人間取引がより盛んになるプラットフォームが生まれてくると考えられる。
新たな信用の形
また、開発チームは、新たな信用の形がブロックチェーンによってもたらされるだろうと考えている。
例えばメルカリのような売買、交換をするサービスなどは、その運営会社を信用することでしか成立しない。
つまり今までは、サービス成立には第三者機関の存在によって担保された信用が必要不可欠であった。
しかし、ブロックチェーン技術には「改ざんが困難」という特徴と、「耐検閲性」つまり「ブロックチェーン上の取引内容の改ざんやネットワークへの参加制限を故意的にすることが困難」であるという特徴を備えるため、そもそも第三者機関を信頼する必要がなくなる。
この第三者機関による信用の担保を必要としないことを「Trustless」とも表現する。
よって将来、個人間のやりとりでも信頼を必要とせずにブロックチェーン上で行うことが可能になると思われる。
以上のようなブロックチェーンの特徴を応用し、新たな信用の形を備えたP2Pマーケットプレイスのコンセプトモデルを、メルカリ社内で実験的に公開しているとのことだ。
新たなメルカリ|MercariX
ブロックチェーンがもたらすであろう「プラットフォーム環境の変化」と「信用の形の変化」をメルカリの中でどのように実現するのかといった課題がある中、このMercariXというアプリケーションが実験的に考案された。
現在、MercariXは、大きく分けて2つのアプリケーションを実装している。
一つ目は、現在のメルカリと同じような、出品者と購入者が取引を行う機能を備えたアプリケーション。二つ目は、エスクローマーケット機能を備えたアプリケーションで、これは仲介をするためだけのアプリケーションだ。
現在MercariXはテストとして、社内でリリース、運用されている。
売買機能を備えたアプリケーション
以下は、商品が並んでいるページ。
この部分は、今のメルカリと違いはあまりない。
一番の特徴は、ユーザー同士でチャット型のコミュニケーションを取れること。
ブロックチェーンという新しい技術を導入することで、使い方のわからないユーザーが多く現れることが予想されるため、このチャット機能を使いユーザー同士が助け合うことで円滑にサービス利用できることを想定している。
エスクローアプリケーション
このエスクローアプリがP2P取引(個人間取引)及びブロックチェーン利用の肝となる機能だ。
アプリの機能は、普段メルカリが担当している監視などの仲介を個人が行うというもの。
基本的には上述したチャット、メッセージ機能を利用し仲介を進める。
メルカリ社内では試験的に、同社社員が独自通貨の「メルコイン」を使用して、様々な物品の売買を行っているという。
現在のビジネススキーム
今のメルカリのビジネススキームはどのようになっているのだろうか。
メルカリのサービスは、商品を売買するマーケットプレイスの役割と、それを仲介(エスクロー)する仲介業の役割の二つで構成されている。
1)マーケットプレイス
まず売り手が商品を出品し、それを欲しい買い手が購入する。
一旦買い手はお金をメルカリに渡し、売り手は運送業者に物品を渡す。
その次に買い手の元に商品が届き、レビューが完了すると、売り手にお金が支払われる。
2)エスクロー
物品の売買が行われると、その取引が不正なく終わるか監視する。
責任の範囲としては、買い手がきっちり料金を支払っているのか、商品を受け取れたのか、運送業者がしっかりと荷物を届けたのか、売り手が正当に評価されているのか、などメルカリに関わる全ての行為に及ぶ。
このように仲介に関して、現在メルカリは全ての責任を負い、それと引き換えに10%の手数料を受け取るという形になっている。
以上が、現在のビジネススキームの形だ。
MercariXのビジネススキーム
MercariXでは、ビジネススキームはどのように変化しているのだろうか。
一番大きく変化している点は、インセンティブの部分だ。
お金が個人などに対して、P2Pで動くようになるという特徴がある。
また、現在のメルカリのサービスでは不正を監視するなど、取引の仲介を行っているが、その役割がメルカリから個人へと移行する。
買い手はMercariXのマーケットアプリで商品を閲覧し、マッチングを行い、売り手は商品を出品する。
取引を行うと、買い手、売り手の両者は仲介をする個人のエスクローに仲介料を払う。
運送に関してもブロックチェーンを利用し、商品が送られたかを確認するための機能の開発を計画している。
つまり、MercariXは、全てがメルコインによってメルカリを通さず直接お金が送られ、取引が進められていくところに最大の特徴がある。
ここで一番気になることは、どのようにマネタイズするのかという点だ。
MercariXには仲介(エスクロー)を行う個人が存在するが、その部分はメルカリが変わらず担当できる部分で、メルカリができる保守の仕方を提供し続けることで利益を得られるとしている。
また、利用者の全員がMercariXを使うのではなく、現行のMercariと共に併用していくことになると考えているとのこと。
MercariXの課題
- トランザクション量
- セキュリティ
- インセンティブ設計
- 法律
1.トランザクション量
捌けるトランザクション量には限りがあるため、MercariXのようなマーケットプレイスで、商品情報などのデータを交換する大きなトランザクションを発生させるようなプロトコルを運用するためには、どのくらいのスケールやスペックが必要かという問題がある。
2.セキュリティ
ブロックチェーンとセキュリティ問題は切っても切り離せない関係にあり、鍵の管理や、トークンを使った不正トランザクションをいかに検知するかという課題が残っている。
3.インセンティブ設計
このシステム(インセンティブ設計)で個人間で信頼を持って公平にやりとりができるのか、本当にその取引を仲介できるのか、サービスや人がうまく回るのかといった課題がある。また、そもそもユーザーはこのサービスを使いたいのかという点もよく考えなければならない。
この点においては、重点を置いて調査を行なっている。
4.法律
仮想通貨やブロックチェーンには、遵守すべき課題がかなり多く、これらをクリアしていくために何をしなければならないのか明確にする必要がある。
課題にどうアプローチするか
1.トランザクション量
- Casper、TendermintなどのPoSの利用
- Shardingの利用
- side chainによる解決
- オフチェーンだが、ステートチャネルの利用
2.セキュリティ
- 秘密鍵の管理、サイン方法の研究
- ウォレットへの入出金から不正トランザクションを検知できる仕組み
- 楕円曲線暗号や量子暗号に関しての研究
- Safetyや、Liveness、BFTのようなコンセンサスが本当に安全かどうかの検証
3.インセンティブ設計
- 公平で使いたくなるよう設計するためのゲーム理論的なアプローチ(現在、社内でテスト中)
- トークンエコノミーが広がっていくと予測されるため、サイドチェーンの利用
- 仮想通貨のボラティリティが通貨としての利用に不向きなため、ステーブルコインなどの利用の検討
4.法律
- アンチマネーロンダリングなどの不正阻止の体制の構築
- 不正出金に対するインセンティブ設計
おわりに
この記事で使用した資料は、全て「Hi-Con 2018」のスピーチで利用されたスライドを引用したものです。
スライドの一覧は、このリンクから閲覧することができます。
また、現在メルペイ分散型台帳開発部は、分散システムエンジニアを募集しているそうです。
興味のある方は、応募されてみてはいかがでしょうか。